二期会公演「トゥーランドット」

酷暑の土曜日、上野の東京文化会館で東京二期会の公演「トゥーランドット」を観てきました。もちろんプッチーニの最後の大作、4日間公演の3日目、所謂A組の二日目です。

私がオペラ公演に出掛けるのは年に一・二度、最近では専ら二期会の公演に絞っています。本来オペラは自分のジャンルではなく、海外オペラ団の公演はチケットが高い、新国立は外人歌手が中心だし、数少ない機会は日本の出演者を応援したいという気持ちが強いので、こういう選択になるわけ。

今回のトゥーランドット、以下のような陣容でした。

トゥーランドット姫/横山恵子
王子カラフ/福井敬
リュウ/日比野幸
皇帝アルトゥム/田口興輔
ティムール/佐藤泰弘
ピン/萩原潤
パン/大川信之
ポン/村上公太
役人/小林昭裕
合唱/二期会合唱団、NHK東京児童合唱団
管弦楽/読売日本交響楽団
指揮/ジャンルイジ・ジェルメッティ
演出/粟國淳
その他

日本人出演者による、という拘りには矛盾するようですが、本公演の期待は何と言っても指揮者ジェルメッティ。実際、マエストロの指揮に圧倒された一日でした。何とも見事なトゥーランドットです。

実は粟國演出のトゥーランドットは、2009年のびわ湖/神奈川プロジェクトでも体験しています。今回はその演出をベースに、更に細部を仕上げたものと見て良いでしょう。
幕が挙がった時、“ああ、同じ舞台だ” と思ったものです。
その時の印象は拙ブログにも書きましたが(↓)、演出に関する印象はほぼ同じ。繰り返すことは避けますが、今回は演出の意図が一層明確になる一方で、先に書いたように指揮者の音楽が余りにも圧倒的。改めて音楽としての「トゥーランドット」に惹き付けられてしまいましたね。

http://merrywillow.blog35.fc2.com/blog-date-200903.html#1073

二期会の公演は、上野や日生劇場、時々は初台でも聴きますが、今回ほど指揮者の実力に圧倒されたのは初めてと言っても良いでしょう。
歌手にしても合唱にしても、オーケストラのサウンドはもちろん、演出でさえマエストロの元に集中し、束ねられ、客席にオーラの如く鳴り渡るのでした。
歌手の声も細部まで明瞭に聴こえ、オケが大音量で鳴らされているにも拘わらず、歌詞の隅々が聴こえてくる。

ジェルメッティは椅子に腰かけて指揮しているようですが、公演の中で何度か立ち上がります。正にその瞬間がオペラの肝。舞台の前にジェルメッティが仁王立ちになった時、音楽もドラマも最高潮に昇り詰めるのでした。

第3幕。プッチーニが筆を折った個所で、音楽は長い休止。舞台も照明が完全に落とされて、アルファーノ加筆以降は別の世界が展開します。紗幕や仕切り幕を巧く使った演出で、作品の成り立ちが見事に聴き手に伝わってきました。前回もこんな演出だったかしら?

工場の内部に設定された舞台も、今回ばかりは原子力発電所の内部のように見えても仕方ありません。外部から遮断された世界は、深夜が舞台の第3部でも暁を待つ時間帯。光は見えてきません。
最後の最後、トゥーランドット姫と王子カラフが愛を知った時、舞台中央に真っ青な空が拓けます。“アッ、梅雨明けだ” と瞬間に思いましたが、正にこの日、東京には梅雨明け宣言が出されました。出来過ぎ・・・。

歌手も夫々に立派。前回と共通するのはトゥーランドット姫の横山だけですが、前回以上に存在感を増していました。これも指揮者の力でしょう。
福井のカラフも正に嵌まり役。これまで様々なオペラで福井を見、聴いてきましたが、今回が私にとっては最高じゃないでしょうか。声の力だけでなく、歌唱技術も演技も。

リュウも全体の中にキチンと収まっていました。前回(木下)は突出した印象がありましたが、やはりオペラでは全体のバランスが何より大事だと感じた次第。その意味でも2009年を上回る感動が得られました。

脇を固める歌手たち、単に歌唱や演技に優れているだけでなく、カーテンコールも様になってきました。オペラにはこういう楽しみも必要でしょう。

午後2時開演でも開場は1時。休憩時間は節電を実行していましたが、舞台が跳ねる午後5時近くまで空調の効いた劇場にいるのは最高の時間。さすがのオペラ公演も1階両サイドに空席が目立ちましたが、こんな素晴らしい公演を快適に過ごせるチャンスを逃がす手はありませんぞ。
やっぱり二期会の公演は行くべし、真夏はオペラを楽しむべし。そう感じた真夏のトゥーランドットでした。

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