サルビアホール クァルテット・シリーズ第31回
昨日は久し振りに鶴見に出掛けました。サルビアホール恒例のクァルテット・シリーズですが、シーズン9は都合で最初の2回をパスしてしまいました。2月21日のヴィルタスは他の演奏会と重なったため、4月4日のアタッカは入院中で動けず、止む無く欠席していたものです。
ということで第9シーズン最後の会を楽しんできました。昨日は大気が不安定で、午後は東京都内も暫しの雷雨。出掛ける時間には何とか止みましたが、やや冷んやりした空気の中、多摩川を渡ります。
今回はドイツ音楽の伝統を継承する、ライプツィヒ・クァルテット。曲目はドイツ音楽の本道、以下のもの。
モーツァルト/弦楽四重奏曲第19番ハ長調「不協和音」
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第5番イ長調 作品18-5
~休憩~
メンデルスゾーン/弦楽四重奏曲第3番ニ長調 作品44-1
ライプツィヒ・クァルテット
1988年に創設された団体で、室内楽に専念する前は彼のゲヴァントハウス管弦楽団の首席奏者だったメンバーだったとのこと。2008年からファーストが入れ替わっての来日です。そのメンバーは、
ファーストがシュテファン・アルツベルガー(初代はアンドレアス・ザイデル)、セカンドはティルマン・ビューニン、ヴィオラはイフォ・バウアー、そしてチェロがマティアス・モースドルフという面々。1991年のミュンヘン国際で最高位(1位なしの2位)で世界的に注目を集めたという経歴ですね。彼等のホームページは↓
http://www.leipzigquartet.com/
彼等の録音歴を見ると、特にドイツ音楽については百科全書でも作成するような勢いですが、活動初期には現代音楽に最も力を入れていたようです。フラー、ヴィトマン、リーム、シュライヤーマッハー、ティーレ、フランケ等々、初めて聞く名前の作曲がズラリと並んでいました。改めてドイツの音楽家のパワーに恐れ入ります。
しかし今回のプログラムには現代モノは含まれず、我々にも馴染深いドイツの伝統的レパートリー。鶴見での選曲は、3曲とも「セット」に含まれる作品という共通点もあるようです。
黒尽くめの男性4人、舞台下手からファースト、セカンド、チェロ、ヴィオラの順で、並びは伝統的なもの。但し、椅子に座るのはチェロだけで、他の3人は立って演奏します。
最初のモーツァルト、私の席では普段より高い位置から聴こえてくるような気がして、若干違和感もありました。とにかく良く歌うモーツァルトで、レガートが勝った印象。
しかし2曲目のベートーヴェンとなると、さすがにアタックも強く、このスタイルにも慣れてきました。音量も小振りなホールの空間に配慮せず(本当は多少抑えているのかも知れませんが)、特にファーストのパフォーマンスに圧倒されます。メヌエット楽章に出る ff の3音、特に繰り返された時の表現は松脂が飛び散る様な迫力で圧倒。
その一方で、ヴィオラはほとんど立ち位置を変えず、冷静に全体を支えて行くのも印象的。如何にもドイツ音楽の主旋律と内声という伝統を見るような思いでした。
休憩に入ると、係員が出てきて椅子を3脚追加。これで後半は、あるいはメンデルスゾーンは普通に座って演奏することが判ります。
このスタイルに何か意味があるのかは確認できませんでしたが、もちろん全曲を立って演奏するのは疲れるという単純な理由ではないでしょう。あるいは作曲家当時の演奏スタイルを再現したのだとか、まさか。
そのメンデルスゾーン、これは凄い演奏でしたね。前半の古典派より更にパワー・アップした印象で、特にファーストがメヌエットやアダージョ後半で聴かせるソロの美しさとテクニックの素晴らしいこと。
フィナーレも納得のスピードで、彼らの大先輩であるメンデルスゾーン(ゲヴァントハウス管の創始者だ!)の素晴らしさに改めて感銘を受けました。指先から火の出るようなメンデルスゾーン、とでも表現しておきましょうか。
もちろんアンコールもありました。チェロが曲名を告げたようでしたが、良く聞きとれません。短いコラール風のしったりした音楽で、ヨハン・セバスチャン・バッハの作品であることだけは判りました。
終了後、主催者のH氏に確認すると、本人からはソング・ブックの中の「ザ・デイ・ハズ・ゴーン The day has gone」と紹介されたとのこと。帰宅して調べると、バッハの70曲近くあるシェメッリ歌曲集の第9曲に「Der Tag ist hin, die Sonne gehet nieder」(一日は終わり、太陽は沈む)なる一品があるのを発見。恐らくこれでしょう。BWV番号で言うと447番に当たります。
バッハは言うまでもなく、ライプツィヒ聖トーマス教会のカントールだった巨匠。演奏会の締めくくりとしてこれほど相応しい音楽はありません。
これを裏付けるものとして、彼らの膨大なCDカタログの中に「アンコールズ」という一枚があり、このアルバムの中にも上記447が含まれています。
なおこのアンコール・ピース集、ヒンデミットの例の朝7時に湯治場で下手くそな楽員が云々という逸品も含まれています。昨日の会場販売にはありませんでしたが、これ欲しいなぁ~。
最初に書いたように、今回のライプツィヒQは現代音楽には触れず、彼らの活動の一面のみ。しかしドイツ音楽伝統の流れをライプツィヒ楽壇のマエストロで締め、最後にライプツィヒの父に敬意を表するというコンサートは、正にこの団体のバックボーンとも言える一夜だったと断言できましょう。
演奏会が終わって会場を出ると、どうやらさっきまで雷雨があった様子。空を見上げると雲は切れており、さしづめ The Rain has gone だな、と思った次第。
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