グラインドボーン音楽祭の新たなる挑戦

今年最初のブログ更新です。このニュースを知ったのは昨年12月も押し詰まってから。当初は敢えてブログには書かないつもりでしたが、未だご存じないファンもおられるかと思い、年が明けてから紹介しようと気持ちが変わった次第。
毎年夏、英国グラインドボーンで極めて質の高い音楽祭が開催されていることは良く知られています。グラインドボーン音楽祭も世界各地の例に漏れずコロナの影響を受け、中止や規模の縮小に見舞われてきました。これに伴い、かつてから映像配信にも積極的だった同音楽祭が、今年12月にストリーミング配信のための有料プラットホームを新たに立ち上げたのです。名付けて「グラインドボーン・アンコール」。年間購読料は凡そ80ポンド。これまでのアーカイヴ映像を自由に閲覧でき、新しいシーズンの演目も配信される。

オペラ好きの小欄、これまでもグラインドホーン音楽祭をレーザー・ディスク、テレビ、映画館などで楽しんできましたが、グラインドボーン・アンコールを購読すれば何時でも好きな演目にアクセスできる。こんな美味しいチャンネルをスルーする理由は何処にも無いでしょ。ということで早速、年間視聴手続き。メールアドレスと自由に設定するパスワードで会員登録し、クレジット決済を済ませた瞬間からモニターにはグラインドボーン音楽祭が映し出されましたね。私が購入した時の為替で税込み1万5千円ほど。
月一回、Opera of the Month として特集を組むのだそうで、12月の第一弾がヘンデルの「サウル」。話題のコスキー演出で、これを含めて2022年度の新演目6本が自由に視聴できるのですから、1万5千円は廉過ぎじゃないでしょうか。

その「サウル」。ヘンデルの歌劇ではなく劇的オラトリオと呼ばれるジャンルで、これをオペラ仕立てにしたもの。原曲は3部、というか3幕ですが、今回の演出では2幕ものとして再構成されています。
演出のバリー・コスキー、舞台装置のカトリン・レア・タークは、昨年ウィーン国立歌劇場がプレミエ演目として上演・無料配信された「ドン・ジョヴァンニ」と同じコンビで、ウィーン以上に過激な?演出を満喫することが出来ました。こんなキャストです↓

ヘンデル/オラトリオ「サウル」(2015年8月22日公演)

サウル(イスラエル王)・サムエルの霊/クリストファー・パーヴス Christopher Purves
ダビデ/イェスティン・デイヴィス Iestyn Davies
メラブ(サウルの長女)/ルーシー・クロウ Lucy Crowe
ミカル(サウルの次女)/ソフィー・ビーヴァン Sophie Bevan
ヨナタン(サウルの息子)/ポール・アップルビー Paul Appleby
アブネル(イスラエルの将軍)・司祭・アマレク人・ドエグ(サウルの家臣)/ベンジャミン・ヒューレット Benjamin Hulett
エンドルの魔女/ジョン・グレアム=ホール John Graham-Hall
指揮/アイヴァー・ボルトン Ivor Bolton
演出/バリー・コスキー Barrie Kosky
舞台装置/カトリン・レア・ターグ Katrin Lea Tag
振付/オットー・ピヒラー Otto Pichler
照明/ヨアヒム・クライン Joachim Klein
管弦楽/オーケストラ・オブ・ジ・エイジ・オブ・エンライトンメント
リーダー/アリソン・バリー Alison Bury
合唱/グラインドボーン合唱団(合唱指揮/ジェレミー・パインズ Jeremy Bines)

幕が開くと巨大なゴリアテ人の生首に驚かされますが、冒頭のハレルヤ・コーラスから圧巻。ほとんど馴染みのないヘンデル作品ですが、見ていて飽きる瞬間がありません。オットー・ピヒラーの振付も正に現代の聴衆の眼と耳をガッチリ掴んで離しません。
原作の第2幕半ば、ミカエルとダビデの愛の二重唱までで一旦休憩となりますが、直ぐに次の幕が上がって数多くの蠟燭が並ぶ舞台。ここで聴衆から思わず拍手が起きます。更にこの蝋燭の中にオルガンがせり上がり、幕間の音楽としてオルガン協奏曲が演奏される。もちろん舞台のオルガンはあくまでも舞台装置の一つなのですが、このアイデアには舌を巻きましたね。客席からも拍手と歓声。

こんな具合で2時間半、字幕は英語だけですが、ウィキペディア博士やペトルッチ教授にアドバイスをお願いし、この聖書物語を改めて勉強する良い切っ掛けにもなりました。
グラインドボーン・アンコール、お勧めです。80ポンドが高いか安いか、それは聴き手次第でしょうが、現在無料で配信中のパーセル「妖精の女王」を見て判断されても良いかも。

一ヶ月が経過し、Opera of the Month は大野和士が指揮したラヴェルのダブル・ビル(「子供と呪文」と「スペインの時」)に替っています。もちろん「サウル」も引き続き見ることが出来ますしね。この他、1月現在で合計15本のオペラと、4本のコンサート映像、加えて音声のみのオペラも4本聴くことが出来ます。
思えば事実上の主役であるダビデを歌い演じたイェスティン・デイヴィス。このグラインドボーン公演の半年後には来日し、鵠沼サロンコンサートに出演してくれたんですよね。その時は良く知らなかったデイヴィスでしたが、改めて凄い人を目の前で聴いたんだと胸が熱くなってしまいました。

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