N響プレミアムコンサート
昨日は東京オペラシティコンサートホールで行われたN響・プレミアムコンサートを聴いてきました。
苦手な初台ですが、さすがに最近は足繁く通わざるを得ず、新宿地下迷路も慣れてきました。目隠ししてもスイスイとまではいきませんが、ここは右に進路を取る、あそこで左に曲がる、という要領は覚えてきました。地下の構造が大体頭に入ってきたんでしょう。
でもサントリーが再開して足が遠のけば、またぞろ迷子寸前になるでしょうが・・・。
ということで昨日は悠然と着席。そもそもこのコンサートの存在を知ったのは公式案内があってから大分経っていたのですが、その割には良い席が取れました。(1階11列17・18番)
恐らく空席が目立つのだろうと思いましたが、どうしてどうして最上階の隅まで埋まっている様子。N響のブランド力は恐ろしい。
曲目は全てサン=サーンス。前半が動物の謝肉祭とチェロ協奏曲第1番。チェロのソロはN響首席・藤森亮一。後半が第3交響曲です。事前の発表ではピアノとして児玉姉妹(麻里ちゃんと桃ちゃん)、オルガンのギラン・ルロワの名前も印刷されています。
あ、指揮は広上淳一。このコンサートに行くのはもちろん広上を聴くため。説明の要なし。
動物の謝肉祭、プログラムにもフランス語で小さく書いてありますが、これは grande fantasie zoologique 動物学的大幻想曲なんでありますな。メンバー登場で改めて気が付きましたが、オリジナル版の室内楽編成です。これなら指揮者は要らないようなものですが、そこはそれ、堅いことは言わずに広上氏も動物の仲間入りです。
この曲は当時の音楽教師などを皮肉った面もあったんでしょう。サン=サーンスは何度か演奏した後で譜面を隠してしまいましたからね。
あとでデュランが出版したときには、サン=サーンスがパクっている他人の曲(オッフェンバックとベルリオーズ)の出版社にキチンと断りを入れています。(恐らく)版権のないメンデルスゾーンやロッシーニ、それに民謡については不問ですけどね。
そういう訳で、この日の演奏者はヴァイオリンが松田拓之と白井篤、ヴィオラ・佐々木亮、チェロ・木越洋、コントラバス・吉田秀、フルートとピッコロは中野富雄、クラリネットが横川晴児、打楽器は植松透と竹島悟史。皆、N響のメンバーです。それにピアノデュオの児玉姉妹。指揮者を入れて12人の演奏でした。
オーケストラのコンサートでこういう編成が聴けるのは珍しいことで、ホールのサイズにも良くマッチした楽しい演奏でした。クラリネットがカッコウを演ずるために舞台裏に移動したり、ピアニストは初心者風に徹していたり、楽員諸氏も楽しそう。
このコンサートは言ってみればフランス料理のフルコースですが、この前菜は隠し味もあってカラフル。
次は魚料理でしょうか。プリンス藤森氏が登場してチェロ協奏曲。作品が作品なので、ここは軽やかに、時にスペイン風の香りも添えて爽やかな一品。
この名手はオーケストラのメンバー、クァルテットの一員だけでなく、ソリストとしての顔もあるのです。多分彼の性格なのでしょう。実に折り目正しいチェロ。これでもう少し遊びがあったり、大胆な決め所があれば鬼に金棒。盛んに声も掛かりました。
忘れてならないのは、オーケストラが実にメリハリのあるバックをつけていたこと。この辺りは名シェフ、広上淳一の棒が冴え渡っていました。
最後は本日のメインディッシュ、第3交響曲です。オルガンを受け持つギラン・ルロワは、フランスの若手。まだ学校を卒業して1年ながら、パリのコンクールで優勝し、去年の9月から札幌キタラホールの専属オルガニストを務めている人ですね。
名前は Ghislain Leroy と綴ります。フランス語って難しいですね。カタカナからは連想し難いスペル。
広上のサン=サーンスは多分初めて聴きました。シンフォニックな性格を前面に出しながら、コーダのストリンジェンドの追い上げかた、最後のページの思いきったリタルダンドなど、彼ならではのスリルも満点。真に充実したご馳走をいただきました。
N響の噂をあれこれ聞きますが、少なくともこの夜はトップ・オケの名に恥じない、完璧なオーケストラサウンドを響かせてくれました。冒頭の難しい弦のアンサンブルなど一糸乱れず見事。金管の加わるフォルティッシモでも混濁皆無。
当然ながら、マエストロの力量に負う所は大きいでしょう。
広上が指揮すればオーケストラのランクは二つも三つも上がる。これは日本でも海外でも同じことで、ネットの世界で様々なオーケストラの演奏評を読んでいて遭遇する、世界共通の指摘です。最早オーケストラ界の常識。
かつてマエストロは“オレには集客力がない”と自責していました。しかしそれは過去のこと。
私は真の音楽を愛する一聴衆として、事ある毎に「ヒロカミ」を讃えてきましたが、もうその必要はないでしょう。
この夜にしても、指揮者・広上淳一を聴きに来た聴衆は相当数いたはずですし、初めて「ヒロカミ」を体験した人も納得したに違いありますまい。
9月の東京音楽大学100年記念「フィガロの結婚」も行っちゃおう、カナ。ここでは本当の「大先生」だからね。
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