オブライエンの一日4勝
アイルランド・ダービーが行われる週末は、カラー競馬場が最も華やかな時間でもあります。ダービー翌日の日曜日もGⅠを含めて4鞍のG戦が行われました。順に行きましょう。
G戦は第2レースからで、最初はシーズン最初の2歳牝馬戦のグランジソン・スタッド・ステークス Grangeson Stud S (GⅢ、2歳牝、6ハロン)。馬場は前日に続いて固く、good to firm 。11頭が出走してきました。前走ナースのリステッド戦で3着と好走したストームフライ Stormfly が3対1で1番人気。
しかしストームフライは3番手追走の伸びず、最後は10着と凡走。獣医のチェックを受けたところ、後脚の蹄鉄が外れていたとのことでしたが、これが敗因でしょうか。優勝は6番人気(12対1)アイ・アム・ビューティフル I Am Beautiful の逃げ切り勝ち。最後は3頭が並ぶ大接戦でしたが、短頭差の2着が3番人気(5対1)のジニー・ガール Jeanne Girl 、3着はハナ差で4番人気(7対1)のクインタ・ヴァーデ Quinya Verde でした。
アイ・アム・ビューティフルはエイダン・オブライエン厩舎2頭の内の1頭で、シーマス・ヘファーナン騎乗。ジョセフは5番人気(10対1)のアズ・グッド・アズ・ゴールド As Good As Gold を選びましたが、こちらは8着に沈んでいます。
勝馬はこれが初勝利で、カラーのデビュー戦は10着、前走の2走目もレパーズタウンので4着でした。これまでと違うのは馬場状態、固い馬場でスピードが活きたのでしょう。同馬はリップ・ヴァン・ウィンクル Rip Van Winkle の初産駒という点にも注目、父はガリレオ Galileo 産駒ながらQEⅡ、サセックス、ジャドモント・インターナショナルなど1マイルから10ハロンでGⅠに勝った馬で、大種牡馬ガリレオもそろそろ孫の時代に入りつつあるということを印象付けた一戦でもありました。
オブライエン厩舎はこの日の第1レース、2歳の未勝利戦をジョセフが騎乗した本命グレネーグル Gleneagles で勝っており、早々とダブル達成です。
続いてはカラー・カップ Curragh Cup (GⅢ、3歳上、1マイル6ハロン)。2頭が取り消して7頭立て。去年の勝馬アーネスト・ヘミングウェイ Ernest Hemingway が6対4の1番人気に支持されていました。前走はドバイ・ゴールド・カップでの8着、これが事実上ヨーロッパでのシーズン初戦となります。
2番人気(4対1)のタラナ Tarana が逃げ、アーネスト・ヘミングウェイは後方2番手に待機。直線、外に持ち出した本命馬が一気に前を捉え、最後方から追い上げる3番人気(11対2)のケートラック Certerach に2馬身差を付けて期待に応えました。オブライエン厩舎は冒頭からハットトリック。半馬身差の3着には逃げたタラナが粘っています。
これでこの日2勝目となるジョセフ・オブライエンが騎乗したアーネスト・ヘミングウェイは、このレース2連覇達成。去年は引き続きバリーローン・ステークス(GⅢ)と連勝しましたが、オブライエン師の見解ではあくまでも良馬場が好走の条件。今後は何に出ようとも、馬場が重くなった場合には出走させないという決意のようです。
この日3つ目のG戦は、3歳と古馬が対戦する10ハロンのインターナショナル・ステークス International S (GⅢ、3歳上、1マイル2ハロン)。例年は古馬が優勢なレースですが、今年は2頭の古馬に3頭の3歳馬が挑戦する5頭立て。5対4の1番人気には、ダービーに出走して9着だった3歳馬エバノラン Ebanoran が選ばれていました。
レースは3番人気(5対1)のメコン・リヴァー Mekong River の逃げ。これを追走していた2番人気(9対4)の5歳馬パリッシュ・ホール Parish Hall が外から捉えてそのまま引き離すかに見えましたが、内で粘るメコン・リヴァーは諦めず再び差し返し、最後は首差で叩き合いを制しました。4番手を進んだエバノランは、2馬身4分の3差で3着。
終わって見ればこれまたエイダン・オブライエン厩舎の3歳馬で、負担重量が軽いためシーマス・ヘファーナンの騎乗。メコン・リヴァーは今期初戦のリングフィールド・ダービー・トライアル(L)では9頭立て9着でしたが、前走ガリニュール・ステークス(GⅢ)では2着に巻き返していました。これがG戦初勝利です。ところでオブライエン/ヘファーナンのコンビは、去年のこのレースもフライング・ザ・フラッグ Flying the Flag で制しており、同一調教師/騎手のチームで2連覇ということにもなりました。
オブライエン厩舎はこれで一日4勝、ジョッキーもジョセフとヘファーナンが2勝づつで分け合っています。
日曜日最後は牝馬のGⅠ戦となるプリティー・ポリー・ステークス Pretty Polly S (GⅠ、3歳上牝、1マイル2ハロン)。2頭が取り消して8頭立て。去年の勝馬で前走エプサムのコロネーション・カップ(GⅠ)でも牡馬相手に3着と好走したアンビヴァレント Ambivalent が15対8の1番人気。
本質的に逃げタイプのアンビヴァレントが今回も逃げ切りを図りましたが、残り3ハロンで2番人気(7対2)のヴィーナス・ド・ミロ Venus de Milo に交わされます。しかしそれも束の間、3番手を進んでいた3番人気(4対1)のシスル・バード Thistle Bird の末脚が勝り、ヴィーナス・ド・ミロに2馬身4分の3差を付けて戴冠。4分の3馬身差3着には去年の愛1000ギニー馬ジャスト・ザ・ジャッジ Just the Judge が追い込み、アンビヴァレントは4着に敗退しました。
ロジャー・チャールトン厩舎、ジョージ・ベイカー騎乗のシスル・バードは、前走エプサムのプリンセス・エリザベス・ステークス(GⅢ)を制して同レース2連覇を達成したばかり。前々走のミドルトン・ステークス(GⅡ)ではアンビヴァレントの6着と敗れていましたが、ここで雪辱した形です。G戦に連勝し、GⅠは初制覇。チャールトン厩舎はオブライエンの独占を阻止しましたが、それでもチーム・オブライエンは2着を確保。
昨日はフランスでもG戦が2鞍行われています。サン=クルー競馬場から、最初は3歳牝馬の長距離戦マユレ賞 Prix de Malleret (GⅡ、3歳牝、2400メートル)。こちらは good to soft と重い馬場に6頭立て。シャンティーの条件戦に勝って仏オークス挑戦、9着には敗れたもののラヴェンダー・レーン Lavender Lane が9対5の1番人気。
3番人気(3対1)のサヴァンヌ Savanne がダッシュ良く飛び出しましたが、アガ・カーンのペースメーカーを務めるミンタカ Mintaka が直ぐに先頭を奪ってペースを作ります。このペースに乗った2番人気(19対10)のアガ・カーン所有馬ドルニーヤ Dolniya が作戦通り抜け出し、2番手追走のサヴァンヌに4番の3馬身差で優勝。ラヴェンダー・レーンは最後方から追い込みましたが、短首差及ばず3着に終わりました。
アラン・ド・ロワイヤー=デュプレ厩舎、クリストフ・スミオン騎乗のドルニーヤは、デビュー戦こそ2着だったもののメゾン=ラフィットの条件戦、コンピエーニュのリステッド戦と連勝し、これで3連勝。今回は安全圏に入りながら再び差を詰められたのは、馬が未だ若いからと見ることが出来るでしょう。陣営でも仏オークスで1番人気に支持されながら4着だったシャムカラ Shamkala とは甲乙付け難いとの評価で、伸び代はドルニーヤが上とも。いずれにしても秋競馬が試金石になるでしょう。
最後はサン=クルー大賞典 Grand Prix de Saint-Cloud (GⅠ、4歳上、2400メートル)。7頭が参戦し、ジャドモント牧場のフリントシャー Flintshire が6対4の1番人気。去年のパリ大賞典勝馬で、秋は不本意な成績に終わったものの今期はエプサムのコロネーション・カップでデビュー、シリュス・デ・ゼーグル Cirrus des Aigles の2着に来て復調の兆しが見えていました。
逃げたのは、同じジャドモントの勝負服を纏った3番人気(7対2)のノーブル・ミッション Noble Mission 。フランケル Frankel の全弟という名前が先行してきましたが、今期になって本格化、前走GⅠのトトソルズ・ゴールド・カップを含めて3連勝中の5歳馬です。残り1ハロンでは逃げ切り完勝と見えましたが、最後は流石にバテ、4番人気(56対10)スピリットジム Spiritjim の末脚に頭差屈しました。短首差でシルジャンズ・サガ Siljan’s Saga が3着に入り、フリントシャーは5着敗退。
ノーブル・ミッションは自分でペースを作り、自身のスタミナで敗退。2000メートルが最適なタイプであることを自ら実証したとも言えるでしょう。今後は10ハロンが中心となります。
一方スタミナでは何の問題も見せなかったパスカル・ベイリー厩舎、クリストフ・ルメール騎乗のスピリットジム、昨シーズンをドーヴィルのリステッド戦で締め括ると、今期はロンシャンのリステッド、デドーヴィル賞(GⅢ)、シャンティー大賞典(GⅡ)と一気に5連勝。夏場は休養に充て、秋は凱旋門賞を目指すという大目標が出来たようです。充実著しい4歳馬、不気味な1頭が登場してきたと言えそうです。
ところでスピリットジムは仏2000ギニー馬シルヴァー・フロスト Silver Frost の半弟。兄の父がヴァーグラス Verglas だったのに対し、こちらはガリレオ Galileo 。今回はスピリットジム・ノーブル・ミッションとガリレオ産駒のワン・ツーでしたが、まだまだガリレオの天下は続きそう、1マイル半のタイプ、10ハロンのタイプ、更にはマイラーと多彩な産駒を擁する辺りが、大種牡馬たる所以なのですね。
最近のコメント