知られざるヴァイオリン協奏曲の名曲

今日BBCプロムス中継を楽しんだのは、メナ/BBCフィルが取り上げた英国プログラム。思わぬ大発見の一夜でした。

7月25日 ≪Prom 10≫
ウォルトン/ヒンデミットの主題による変奏曲
モーラン/ヴァイオリン協奏曲
     ~休憩~
デヴィッド・ホーン David Horne/デダラスの飛翔 Daedalus in Flight (ロンドン初演)
エルガー/エニグマ変奏曲
 BBCフィルハーモニー管弦楽団
 指揮/ファンホ・メナ Juanjo Mena
 ヴァイオリン/タスミン・リトル Tasmin Little

プロムスは世界に誇るイギリスの音楽祭ですから、毎年の様に英国作品をズラリと並べたコンサートが登場します。日本では「パーセル以来エルガーまで英国のクラシックは不毛でした」という誤った評論家の戯言が信じられていますが、事実は全く違います。正常な耳を持つ音楽ファンは、そろそろ自分の耳で判断する勇気を持ちたいもの。
その意味で、昨日は真に興味深い作品が並びました。全体の構成も変奏曲で始まり変奏曲で終わる、しかも両曲には「友情」という共通点もあるという中々に玄人好みの選曲でもあります。

冒頭のウォルトン作品は、題名の通りウォルトンがヒンデミットとの友情を切っ掛けに生まれた作品。ヒンデミットのチェロ協奏曲(1940年の方)から取ったテーマを9つの変奏曲とフィナーレとに再構成しています。日本ではセル/クリーヴランドによる録音で知られてきましたが、ナマで聴ける機会は滅多にありません。
この変奏曲、主題だけではなく第7変奏にはヒンデミットの代表作でもある画家マチスからの引用も出てきます。練習番号で言えば34番ですが、スコアにもちゃんと「画家マチスからの引用」と書かれていますね。この引用、実はフィナーレの最後、練習番号53にも再登場します。今回予習復習で確認しました。画家マチスの交響曲では、第3楽章でラングサムとテンポも音量も落ち、弦合奏だけで演奏される個所(こちらは練習番号14の3小節目にチェロで奏される)に登場する3度下降音型です。
こうした解説は、セル盤CDの日本語解説には一切触れられておらず、如何に英国音楽が不当に扱われてきたかの証拠でしょう。我が国の評論家と称する人たちは、楽譜も見ずに解説文を書いているのでしょうか。

ウォルトン以上に衝撃だったのは、次のモーランの協奏曲です。私はアーネスト・ジョン・モーラン(1894-1950)は交響曲くらいしか聴いたことはありませんでしたが、今回はナクソスのNML(リトルによるシャンドス盤が聴けます)を含めて何度か聴いてみました。これが何と美しいヴァイオリン協奏曲であることか。恥ずかしながら初めてこの佳曲を知ったのです。
全体は3楽章。第1楽章がアレグロ・モデラート、中間楽章はテンポの速いロンド、終楽章がゆったりしたレントという構成で、特にレントの後半の素晴らしいことと言ったら!! 是非BBCの中継を聴いて貰いたいと思います。例えばヴォーン=ウィリアムスの揚げひばり、あるいはエルガーの愛の挨拶に反応される方は、この協奏曲に一発で惚れ込むこと間違いなし。
スコアはノヴェロ社から取り寄せることが可能で、今直ぐというワケにはいかないものの、恐らく1年以内には発注しているでしょうねェ~。

休憩を挟んで、後半はスコットランドの作曲家デヴィッド・ホーンの新作ロンドン初演。ホーンのホームページは↓
 
http://www.davidhorne.net/

また今回演奏された作品は既にブージー社から出版されていて、こちらから詳しい曲目解説を読むこともできます。10分程度の如何にも現代音楽という風貌のオーケストラ曲。
ギリシャ神話のダイダロスとイカロスの飛翔がタイトルですが、具体的にストーリーを追った作品ではありません。(因みに Daedalus は、英語では「デダラス」と発音していました)

http://www.boosey.com/pages/cr/catalogue/cat_detail.asp?site-lang=en&musicid=100784

最後のエルガーは、日本でも頻繁に聴くことが出来る名曲。冒頭のウォルトン同様、作曲家の友情が創り上げた音楽です。

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