トルコのオーケストラ、プロムス・デビュー
一昨日のプロムスは、今年のプロムスの三本の矢の内の二つを満たすコンサート。第一の矢である東洋と西洋の出会いを意味し、地球儀を俯瞰するオーケストラの登場の一つとなるトルコのオーケストラのプロムス・デビューでした。
7月29日 ≪Prom 16≫
バラキレフ=リャプノフ/イスラメイ
ホルスト/ベニ・モラ
ガブリエル・プロコフィエフ Gabriel Prokofiev/ヴァイオリン協奏曲(BBC委嘱 世界初演)
~休憩~
モーツァルト/歌劇「後宮からの逃走」序曲
ヘンデル=ビーチャム/歌劇「ソロモン」~シバの女王の到着
レスピーギ/シバの女王ベルキス
ボルサン・イスタンブール・フィルハーモニー管弦楽団 Boursan Istanbul Philharmnic Orchestra
指揮/サッシャ・ゲッツェル Sascha Gortzel
ヴァイオリン/ダニエル・ホープ Daniel Hope
ボルサン・イスタンブール・フィルとは、トルコの大企業ボルサンがスポンサーとなり、1999年に創立されたオケだそうです。未だ結成15年ですが、お聴きになれば直ぐに判るように、素晴らしい団体だと思いました。
指揮者はウィーン・フィルの団員でもあったサッシャ・ゲッツェルで、日本では神奈川フィルの首席客演指揮者としてお馴染み。私は未だ実演に接したことはありませんが、何時か神奈フィルに客演する際には出掛けてみたいと思います。オーケストラと同様、今回がプロムス・デビューとのこと。
6曲も取り上げられる盛りだくさんのコンサートですが、前半最後の協奏曲を除いては、全て東洋を題材にした西洋音楽という共通項があります。それをトルコ(東洋に分類しても良いでしょう)のオケが演奏するという趣向。
最初の2曲は、どちらもヘフリッヒからスコアが復刻されていて、私は特に聴く当てもなく以前に買っておいたもの。今になって役に立つときが来たという感想ですね。
バラキレフのイスラメイは「東洋的幻想曲」とサブタイトルが付けられているように、現在世界の耳目を集めているクリミア地方の民謡も出てくるもの。原曲はピアノ曲ですが、オーケストレーションされたものがいくつかあり、今回演奏されたのはリャプノフ版。これがヘフリッヒから復刻されているのです。他にカセルラの編曲もありますが(マタチッチの録音があった)、そちらの譜面は見たことがありません。
これを聴いていて、第2ヴァイオリンが右手から聴こえてくることに気が付きました。対抗配置が採られているのでしょう。
次のホルスト作品も管弦楽のための東洋組曲というタイトルが付されています。新婚間もないホルスト夫妻がアルジェリアに休暇で出かけた時の印象をスケッチしたものが題材。アラビアの少女が二羽の鳥に語りかけると、鳥が答えたという四つの音がモチーフ。
全体は①最初の踊り ②二番目の踊り ③フィナーレ「ウーレット・ナイールズ Ouled Nails の街で」の三楽章から成っています。「ベニ・モラ」というタイトルは、ロバート・ヒッチェンズが1904年に書いた「アラーの庭」という小説から採られたそうな。
③では四音モチーフが最初から最後まで延々と繰り返され、様々なメロディーが登場してくるもの。初演の評判は余り良くなかったそうですが、ボールトが価値を認めて彼方此方で紹介、これが後の「惑星」にまで発展して行きます。ホルストは惑星だけの作曲家ではない、という一曲。
前半の最後は、三日連続で世界初演されるBBC委嘱作。作曲家のガブリエル・プロコフィエフという人は、有名なセルゲイの孫に当たるそうですが、母は英国人。1975年のロンドン生まれですから、英国の作曲家と言うことになります。
どうもノン・クラシックの世界でも活躍しているそうで、2011年のプロムスでは珍曲のターン・テーブルと管弦楽のための協奏曲という作品が紹介されています。G・プロコフィエフの出版社であるフェイバーのホームページにはいきなりこのコンサートのユーチューブが掲載されていますから、これを見るのが英国プロコフィエフのプロフィールを知るには一番でしょう。
http://www.fabermusic.com/composers/gabriel-prokofiev
初演されたヴァイオリン協奏曲についての解説は見当たりませんでしたが、4楽章制のようです。夫々10・7・10・7分で全体は35分ほどの大曲です。「1914年」というタイトルが付けられるようで、今年のプロムス第2の矢である第一次世界大戦勃発100年を記念していると思われます。
第1楽章には暫く行くと軍隊の行進のような、あるいは何処かの国の軍歌のような一節が登場し、最後はソロの極めて高い音で終わります。
全曲が終わると作曲家も登場、中々拍手が止まず、多くの聴衆から好意的に受け取られたことが聞きとれました。ソロを弾いたホープは、確か来年の夏に来日し、日フィルとエルガーの協奏曲を演奏するはず。マエストロ・サロンでもあればこの初演に付いても聞いてみたいところですが・・・。
後半は西洋と東洋の出会いの象徴でもあるモーツァルトの序曲から始まり、旧約聖書に出てくるシバ王国の女王をテーマにした2曲が続きます。シバは狭い意味の西洋から見れば東洋に当たる訳で、今回のプログラムの趣旨に適ったもの。
特にレスピーギはこのコンビでの録音もあり、プロムス初登場に相応しい一品。バレエ全曲ではなく、レスピーギ自身が編んだ組曲版が演奏されました。全体は4楽章で、リコルディから出ているポケット・スコアとは第2楽章と第3楽章を入れ替えての演奏。彼らの録音もこの順序ですし、他にもこの形でのレコードもあります。
また第4楽章だけに出る「遠方からの声」は、声は舞台裏のトランペットで代用。これもレスピーギの指示通りです。
モーツァルトやヘンデルを聴いただけでもこのオーケストラの性能の良さは明らかで、コンサートは大成功。途中で楽員のインタヴューもあり、“ウィーン・フィルやベルリン・フィルが目標だが、未だ15年では・・”と語っていましたが、世界の超一流に並ぶのもそう遠いことではないでしょう。何より音楽的な演奏が最大の魅力。
最後のゲッツェルによるスピーチも最高でしたし、アンコールも飛び切り楽しいもの。アナウンスもありましたが、曲名は聞きとれません。トルコでは最も有名な曲とか。繰り返し聴きたいコンサートでした。
プロムスへの日本のオケの招聘はないのかな。最近実力が上がっているので本場で演奏してほしいな。