チャンピオンズ・ウィークエンドとロンシャンのトライアル
G戦てんこ盛りの週末、二日目はアイルランドとフランスで大レースが正に目白押しでした。フランスのレースの一部は日本でも放送されたそうですが、ここはアイルランドから順に追っていきましょう。
実際にはカラーとロンシャンは同時進行していて、現地では2国間のレースが入り乱れて大変だったようですね。結果が出るたびに、例えば凱旋門賞のオッズも上がったり下がったり、ブックメーカーの競馬部門はさぞかしてんてこ舞いだったでしょうに。
先ずチャンピオンズ・ウィークエンドのアイルランド、日曜日はカラー競馬場に舞台を移しての一日G戦5鞍でした。馬場は乾燥が続いていて、散水をしても good to firm と、この時期にしてはスピード競馬になったようです。
最初はブランドフォード・ステークス Blandford S (GⅡ、3歳上牝、1マイル2ハロン)。7頭が出走し、オークス2着、愛オークス5着の3歳馬タファーシャ Tarfasha が11対10の1番人気。距離もグレードも1ランク下げたここでは断然の人気でした。
3頭出しで臨んだオブライエン厩舎のシェル・ハウス Shell House が逃げ、タファーシャは3番手追走。危な気ないレース運びの本命馬は、力を発揮して抜け出すと、後方2番手から追い込む2番人気(11対4)のチキータ Chicquita に1馬身4分の3差を付けて人気に応えました。更に2馬身4分の3差で3番人気(6対1)のローエリン Roheryn が3着と人気通り。
デルモット・ウェルド厩舎、パット・スマーレン騎乗のタファーシャは、シーズン初戦のブルー・ウインド・ステークス(GⅢ)に続き二つ目のG戦勝利となりました。
しかしこのレースで注目すべきは、オブライエン厩舎のチキータの方かも知れません。彼女は去年の愛オークス馬で、その前の仏オークスでは2着だったGⅠ級の4歳馬。3歳時はフランスでデュプレ師が管理していましたが、今年からエイダン・オブライエン厩舎に転じ、今回は1年2か月ぶりの実戦。この日の末脚を見ると、この秋は一気に開花する気配すら感じさせました。次走は何処になるのか未定ですが、最も注目すべき1頭であることに間違いありますまい。
続いてはフライング・ファイヴ・ステークス Flying Five S (GⅢ、3歳上、5ハロン)。1頭取り消して9頭立て。今期はキングズ・スタンド・ステークスとナンソープ・ステークスと二つのGⅠ戦で2着しているステッパー・ポイント Stepper Point が9対4の1番人気。GⅠでニアミスして来た実力馬、レヴェルをGⅢに落としたここでは必勝の鞍でしょう。
そして期待通りスピードを活かしたステッパー・ポイント、鮮やかに逃げ切って人気に応えました。4番人気(7対1)のサー・マクシミリアン Sir Maximillian が2馬身4分の3差で2着に入り、7番人気(12対1)のラシアン・ソウル Russian Soul が首差3着。
ウイリアム・ミュイール厩舎、マーチン・ダイヤー騎乗のステッパー・ポイントは、3月22日にリングフィールドのリステッド戦に勝って以来の勝星ですが、上記GⅠ戦でも徐々に勝馬との差を縮めてきている5歳馬。有利とされる3歳勢を蹴散らし、未だ未だ若い馬には負けない心意気を見せたと言えましょうか。
次のモイグレア・スタッド・ステークス Moyglare Stud S (GⅠ、2歳牝、7ハロン)からはGⅠ戦3連発となります。10頭が出走し、11対8の1番人気に支持されたのは、アルバニー・ステークス(GⅢ)勝馬で、前走ラウザー・ステークス(GⅡ)でも2着の格上馬カーソリー・グランス Cursory Glance 。7ハロンは初挑戦ですが、新興勢力の台頭に受けて立つ構え。
ジャンニー・ガール Jeanne Girl が逃げ、5番手を進んだカーソリー・グランスとこれをマークした4番人気(6対1)ルシーダ Lucida が抜けての叩き合い。最後は実績に勝るカーソリー・グランスが首差ルシーダを抑えて人気に応えました。半馬身差でオブライエン厩舎の1戦1勝馬で2番人気(7対2)のファウンド Found が3着。ファウンドも厩舎評価の高さを立証しています。
勝馬の調教師ロジャー・ヴァリアン、騎乗したアンドレア・アトゼニは、前日セント・レジャーをキングストン・ヒル Kingston Hill を制したコンビ。二日続けてのGⅠ勝利という快挙を成し遂げました。
GⅠ第2弾は、牡馬の2歳チャンピオン決定戦ともなるナショナル・ステークス National S (GⅠ、2歳、7ハロン)。5頭立てと小頭数ですが、ここは前走フューチュリティー・ステークス(GⅡ)を含めて3連勝中のグレンイーグルス Gleneagles が1対3の断然1番人気。チーム・オブライエンのクラシック候補として恥ずかしくない競馬が求められていました。
オブライエン厩舎のペースメーカーであるトスカネリ Toscanelli がレースを引っ張り、グレンイーグルスは指定席の最後方。ジョセフ・オブライエンのゴーサインに反応した大本命、4番手から進出した3番人気(7対1)トスカニーニ Toscanini に1馬身半差を付けて期待に応えました。1馬身差で2番人気(9対2)のダッチ・コネクション Dutch Connection が3着。
これで未勝利からタイロス・ステークス(GⅢ)、フューチュリティーと4連勝のグレンイーグルス、デビュー戦4着以外はパーフェクトでここまで来ました。今シーズンはデューハースト・ステークス(GⅠ)で締め、来年のクラシックに備えます。エイダン・オブ イエン師は同馬をギニー・タイプと評価、現時点でのオッズは14対1となっていますが、これは高いのか低いのか、その時になって見なければ判らないのも競馬です。
カラーのチャンピオンズ・デイを締め括るのは、今期のアイルランドGⅠ戦最後ともなるアイリッシュ・セント・レジャー Irish St. Leger (GⅠ、3歳上、1マイル6ハロン)。少し早いようにも感じられますが、アイルランドの平場シーズンはこれでほぼ終了という印象です。最後のGⅠを目指すのは11頭。ここでは無敵のステイヤー、リーディング・ライト Leading Light が9対10の断然1番人気でした。チーム・オブライエン、去年のセントレジャー馬で今年のゴールド・カップ馬、敗戦はデビュー戦と距離不適合の去年の凱旋門賞だけという本命です。
しかし競馬はやって見なければ判りません。本命馬のペースメーカーを務めるアイ・オブ・ザ・ストーム Eye of the Storm が逃げ、リーディング・ライトは6番手で待機しましたが、この日輝いたのは2番手から残り3ハロンでスパートした6番人気(14対1)のブラウン・パンサー Brown Panther 。一気にリードを安全圏に広げると、懸命に追うリーディング・ライトに6馬身半差を付けていました。本命の頭差3着には、一昨年のセントレジャー馬エンカ Encke が入り、GⅠらしい締めくくりとなりました。
トム・ダスコウム厩舎、これがGⅠ初勝利となるリチャード・キングスコート騎乗のブラウン・パンサーは、今期はオーモンド・ステークス(GⅢ)、ヘンリー2世ステークス(GⅢ)と連勝し、ゴールド・カップ(4着)、モーリス・ド・ニエィユ賞(2着)、グッドウッド・カップ(3着)と堅実に来た6歳馬。2012年の愛セントレジャーは3着で、去年はグッドウッド・カップも制している常連のステイヤー、GⅠは念願の初制覇です。今年はメルボルンには行かずにアスコットに向かう予定。そのあとはドバイに遠征し、もう1シーズンは現役に留まる計画だそうです。
この日は本命馬が順当に勝った一日でしたが、最後を大本命で飾れなかったリーディング・ライト。それでもエイダン・オブライエン師は敗因を挙げず、単に勝馬が強かったとコメント。大勝ちするタイプではないだけに、競り合う展開に持ち込めなかったのが痛かったと言えそう。この馬には未だ先があります。
以上でアイルランドを終え、次は一日6鞍のG戦に沸くロンシャン競馬場へ。珍しく馬場は good で、3週間後の本番向けて恰好のトライアルになったようです。
最初はプティ・クーヴェール賞 Prix du Petit Couvert (GⅢ、3歳上、1000メートル)。もちろんアベイ・ド・ロンシャン賞のトライアルです。2頭が取り消して9頭立て。ここ2戦、サン=ジョルジュ賞(GⅢ)に勝ってグロ=シェーヌ賞(GⅡ)2着と堅実なキャットコール Catcall が9対5の1番人気。
レースは乱戦となり、内で先頭争いを演じた2番人気(3対1)のミルザ Mirza が逃げ切り勝ち。半馬身差で6番人気(111対10)のムーヴ・イン・タイム Move in Time が中団から伸びて2着に入り、更に1馬身差で後方の7番人気(179対10)カレドニア・レディー Caledonia Lady が3着。人気のキャットコールは6着に終わりました。3番人気(49対10)のランガリ Rangali が4着で入線しましたが、直線で左に斜行し、結果最下位で入線したカンビオ・ド・プラーヌ Cambio de Planes の進路を妨害したと判定され、最下位降着となっています。従って4着以降は順次繰上り。
レー・ゲスト厩舎、フランキー・デットーリ騎乗のミルザは、去年に続きこのレース連覇。尤も去年はディバージ Dibajj との1着同着でしたから、単独での初勝利ではあります。去年のアベイは19着と大敗でしたが、今年はどうなるでしょう。今年はドーヴィルのリステッド戦に勝ったほか、前走はビヴァリー競馬場のリステッド戦2着からここに臨んでいました。
次は去年キズナが制したニエル賞 Prix Niel (GⅡ、3歳牡牝、2400メートル)。ご存知凱旋門賞トライアルの一つで、3歳限定戦。本番同様せん馬には参加資格がありません。8頭が出走し、これが4月以来の休み明けとなるエクトー Ectot が2対1の1番人気に支持されていました。2歳時にクリテリウム・インターナショナル(GⅠ)を制した馬で、今期初戦のフォンテンブロー賞(GⅢ)でも後の仏ギニー馬カラコンティー Karkontie を破った実力。残念ながら故障のためクラシックを棒振った存在です。
エクトーはペースメーカーとしてセランス Serans を投入する万全の態勢。最後方から鋭く伸びると、同じく後方勝負の3番人気(19対5)テレテキスト Teletext に首差、2番人気(13対5)アデライデ Adelaide に更に1馬身4分の1差を付けて復活を果たしました。
エリー・ルルーシュ厩舎、グレゴリー・ブノア騎乗のエクトーは、デビュー戦の2着が唯一の敗戦。ここまで長期休養を挟んで6連勝となります。更に同馬はシェイク・ジョハーン・アル・サニ氏が購入したばかり、氏の凱旋門賞制覇の夢がまた一歩近付いた結果でもありました。エクトーの突然の登場に凱旋門賞のオッズも右往左往、8対1から14対1までブックメーカーも判断に迷っているようです。
父はニエル賞から凱旋門賞を射止めたハリケーン・ラン Hurricane Run ということもあり、ここを一叩きして更に良化必至のエクトー、真に怖い存在になってきましたね。馬場は固くても重くても実績を残しているだけに、馬の状態次第では制覇の可能性はかなり高いと見ても良いでしょう。
続いてはアル・サニ・オーナーが最も期待するトレーヴ Treve が参戦するヴェルメイユ賞 Prix Vermeille (GⅠ、3歳上牝、2400メートル)。本来は3歳牝馬の頂点レースでしたが、ここから凱旋門賞に勝つ馬が続出したこと、古馬にも開放されたことからもトライアルとしての性格が増してきた一戦です。1頭が取り消して9頭立て。もちろんトレーヴ Treve がイーヴンの1番人気ですが、不振に続くジョッキーの交代劇、故障明けもあって不安な本命馬でしょう。
残念ながら不安は的中、スタートも芳しくなく、最後方から進めたトレーヴ、直線では外から進出しましたが去年のような瞬発力は影を潜め、鞍上ティエリー・ジャルネも無理せずに4着で入線しました。
逃げたのは2番人気(17対5)の4歳馬ポモロジー Pomology 、これを内の中団から短頭差捉えたのが6番人気(203対10)の伏兵バルチック・バロネス Baltic Baroness でした。1馬身4分の1差3着には3番人気(22対5)の3歳馬ドルニーヤ Dolniya が入り、トレーヴはこの馬と頭差の4着です。
アンドレ・ファーブル厩舎、マクシム・グィヨン騎乗のバルチック・バロネスは、3歳時にクレオパトラ賞(GⅢ)に勝って仏オークスに挑戦するも11頭立て10着だった馬。今期はランクを落とし、コンピエーニュのリステッド戦、メゾン=ラフィットのリステッド戦と連勝してここに臨んでいました。凱旋門賞に付いての情報は入っていませんが、上がり馬であることは確かです。
一方敗れたトレーヴ、ヘッド女史はこれによって取り消す考えはないとのこと。休み明けだったこと、ここは未だ本番では無いこともその理由。当然ながらオッズは下がり、レース前の7対2から6対1となりました。これを受けてタグローダ Taghrooda が5対1に上昇、更にエクトーも7対1に上がるという混乱ぶり。因みにアヴニール・セルタン Avenir Certain は6対1となっています。
この日四つ目のG戦は、オルフェーヴルが2連覇してきたフォア賞 Prix Foy (GⅡ、4歳上牡牝、2400メートル)。6頭が出走し、去年のパリ大賞典馬でニエル賞4着、凱旋門賞は8着だったフリントシャー Flintshire が6対5の1番人気。今期は未勝利ですが、コロネーション・カップ2着、サン=クルー大賞典4着と王道GⅠ路線を歩む4歳馬です。
レースは3番人気(7対2)と評価を下げた去年のダービー馬ルーラー・オブ・ザ・ワールド Ruler of the World が逃げ、フリントシャーは中団から。しかし逃げたのは単なる逃げ馬じゃありません、フリントシャーは2番手に上がったものの、結局はルーラー・オブ・ザ・ワールドが本命馬を1馬身半差寄せ付けず逃げ切り勝ち。更に1馬身半差でサン=クルー大賞典勝馬(後に禁止薬物が検出されて失格)のスピリットジム Spiritjim が3着。
スタミナを極限にまで使ってダービー以来の勝星を挙げたルーラー・オブ・ザ・ワールドは、その後エクトー、トレーヴのオーナーでもあるアル・サニ氏が権利の半分を取得してクールモアと共同で所有している馬で、今でもエイダン・オブライエン厩舎の管理馬。今回の騎乗はトレーヴから降ろされたフランキー・デットーリ(この日2勝目)で、言わば復讐の逃走劇だったとも言えそう。今期はドバイ・ワールド・カップ(16頭立て13着)の敗戦が唯一の実戦でしたが、ここに来て凱旋門賞の有力馬に再浮上してきました。オッズは33対1から16対1へと急上昇しています。
そしてムーラン・ド・ロンシャン賞 Prix du Moulin de Longchamp (GⅠ、3歳上牡牝、1600メートル)。1マイルの頂点は凱旋門ウィークではなく、ここと来月アスコットのクィーン・エリザベスⅡ世ステークス。これはトライアルという性格ではありません。10頭が出走し、チャンピオン古馬マイラーのトルネード Toronado が6対4の1番人気。前走サセックス・ステークスでは3歳馬キングマン Kingman の後塵を拝しましたが、ここは負けられない一戦です。
レースはドイツ馬モガディシオ Mogadishio の逃げで始まり、2番手に付けたトルネードがこれを捉えましたが、本命馬を内から5番人気(61対10)のチャーム・スピリット Charm Spirit が、外から2000ギニー馬で2番人気(11対2)のナイト・オブ・サンダー Night of Thunder が追い詰め、3頭の激しい競り合い。最後はスピリット・チャームが頭差でトルネードを抑え、首差でナイト・オブ・サンダーが3着でした。トルネードはこれで3歳馬に2連敗、如何に今年の3歳レヴェルが高いかを又しても証明することになりました。
フレッディー・ヘッド厩舎、ティエリー・ジャルネ騎乗のチャーム・スピリットは、ポール・ド・ムーサック賞(GⅢ)、ジャン・プラ賞(GⅠ)に続きG戦3連勝。ヘッド師得意のBCへは行かず、アスコットのQEⅡを目指すことを明言しました。もし実現すれば、キングマンに加えてこの日の上位3頭を加えた世紀の名勝負が期待できそう。これにオーストラリア Australia が挑戦して来れば、そう言っては失礼ながらドングリの背比べの様な凱旋門賞より遥かにスリリングな一戦になることが期待されます。
日曜日の最後は、カドラン賞のトライアルとなるグラディアトゥール賞 Prix Gladiateur (GⅡ、4歳上、3100メートル)。興行としても長期低落の長距離戦、11頭が出走し、前走メゾン=ラフィットで2マイルのリステッド戦で2着したハイ・ジンクス High Jinx が31対10の1番人気。
そのハイ・ジンクスが逃げ切りを図りましたが、中団を進んだ2頭がこれを捉え、8番人気(168対10)の伏兵バサイロン Bathyrhon が9番人気(181対10)のキッキ―・ブルー Kicky Blue に2馬身差を付けて優勝。半馬身差で本命ハイ・ジンクスが3着に粘りました。
スウェーデン生まれのピア・ブランド女史が管理し、マクシム・グィヨンが騎乗したバサイロンは、6戦目にサン=クルーのハンデ戦で初勝利を挙げ、これが2勝目となる4歳馬。シャンティー大賞典(GⅡ)5着、シャンティーの条件戦で3着、前走ドーヴィルのケルゴレー賞(GⅡ)4着からの参戦でした。この結果がカドラン賞に繋がるとは考え難い波乱でもあります。
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