ブリーダーズ・カップ初日は、ロージーの劇的な引退劇
不思議なことに日本ではほとんど話題になっていませんが、今週の金曜日と土曜日はアメリカ競馬の総決算となるブリーダーズ・カップ・シリーズが行われます。何故か日本からは1頭も参加していないのでニュースにもならないのでしょうが、世界の競馬ファンの目は舞台となるサンタ・アニタ競馬場に注がれていました。
凱旋門賞には血眼になる我が競馬会ですが、アメリカ競馬には関心が無いのでしょうか。アメリカも日本競馬のレヴェルの高さは認めていて、宝塚記念の勝馬には自動的にBCターフへの優先出走権が与えられます。しかし関係者は歯牙にもかけていなかったようで、参戦の意思は示されませんでした。折角与えられた権利、行使しないのは如何なものでしょうか。凱旋門→BCならローテーション的にも問題ありませんし、ネ。
野球にしてもサッカーにしても、日本人選手が世界で活躍しているので国内でも話題になるので、このままでは競馬だけがただ一人マイナーなスポーツに沈んでしまうのでは、と些か残念な気もします。
さて愚痴は以上、昨日の金曜日はBCシリーズの4鞍に加え、前哨戦として2鞍のG戦が行われました。先ずそれから。
最初はラス・ヴェガス・マラソン Las Vegas Marathon (GⅡ、3歳上、14ハロン)。初めて聞くレース名ですが、実は去年まで6年間行われてきたBCマラソンがブーリーダーズ・カップに求められるレヴェルに満たないとの結論が出て去年までで廃止。それに代わり、BCマラソンと全く同じ条件で施行されるのがこのレースというワケ。fast の馬場に1頭が取り消して8頭立て、夏のデルマーで12ハロンのクーガー・ハンデ(GⅢ)を制したアイリッシュ・サーフ Irish Surf が2対1の1番人気。
レースは長丁場、3番人気(7対2)の一角ビッグ・カザノヴァ Big Cazanova が外、5番人気(8対1)のビッグ・キック Big Kick が内、この2頭が後続を離してレースを引っ張ります。アイリッシュ・サーフはじわじわと2~3番手から押し上げてきましたが、前半は大きく離れて死んだふりをしていた2番人気(5対2)のキャリー・ストリート Cary Street 、向正面に入ると一気にスパートして前の馬たちをゴボウ抜き、直線で早目先頭の本命馬を外から交わすと、バテたアイリッシュ・サーフに9馬身4分の1の大差を付ける独り相撲でした。6番人気(23対1)の伏兵ペイトリオテックアンドプラウド Patrioticandproud が半馬身差の3着。
ブレンダン・ウォルシュ厩舎、ミグェル・メナ騎乗のキャリー・ストリートは、前走9月1日にパークス・レーシング競馬場でグリーンウッド・カップ・ステークス(GⅢ、12ハロン)に勝った長距離馬。これで19戦6勝、同じ長距離馬アイリッシュ・サーフに完勝してアメリカのチャンピオン・ステイヤーの座を確実なものにしています。
続いてはBCプログラムには無い3歳馬のみによる一戦、トゥワイライト・ダービー Twilight Derby (芝GⅡ、3歳、9ハロン)。firm の馬場に1頭が取り消して11頭が出走し、タンパ・ベイ・ダービー(GⅡ)、サラナック・ステークス(GⅢ)、ヒル・プリンス・ステークス(GⅢ)と既にG戦に3勝しているリング・ウィークエンド Ring Weekend が8対5の1番人気。
1番枠スタートから飛び出した4番人気(9対1)のソイヤーズ・ヒル Sawyer’s Hill が逃げ、内ラチ沿いギリギリに粘りましたが、これをゴール寸前で外から捉えたのは、前半4番手の外を追走していた6番人気(11対1)のロング・オン・ヴァリュー Long On Value 。粘るソイヤーズ・ヒルを首差捉えていました。勝馬と並んで内の4番手に付けていた2着馬と同じ4番人気(9対1)のディヴァイン・オース Divine Oath が外から迫りましたが首差3着。リング・ウィークエンドは3番手追走も直線では失速、6着敗退に終わりました。
ウイリアム・モット厩舎、ロージー・ナプラヴニク騎乗のロング・オン・ヴァリューは、前走9月13日にカンタベリー・パークで一般ステークスのミスティック・レイク・ダービーに勝っていましたが、G戦はこれが初勝利。これで13戦5勝2着2回3着1回となりました。当日記にはアーリントン・クラシック(GⅢ)の2着で登場したことがあります。
そして、ここからがBCシリーズ。金土合わせて13鞍、全てGⅠレース、今年のトップ・バッターはブリーダーズ・カップ・ジュヴェナイル・ターフ Breeders’ Cup Juvenile Turf (芝GⅠ、2歳牡せん、8ハロン)。16頭の登録がありましたが、出走枠は14。1頭が取り消したため予備登録から1頭が繰り上がっての14頭立て。1勝馬ながら3つのG戦で入着しているアイルランドのエイダン・オブライエン厩舎が送りこんだウォー・エンヴォイ War Envoy がライアン・ムーア騎乗で7対2の1番人気。
レースはスタートから飛ばした5番人気(8対1)のラック・オブ・ザ・キッテン Luck of the Kitten が逃げ粘りましたが、これを3番手で追走していた6番人気(6対1)のフーテナニー Hootenanny が追い詰め、最後は4分の3差で差し切っての快勝。1馬身半差の3着争いは大混戦で、写真判定の結果、4番手を進んだ7番人気(17対1)のダディー・ディー・ティー Daddy D T が3着に上がっています。人気のウォー・エンヴォイは中団7番手に付けていましたが、直線では前が開かず苦戦、結局ほとんど競馬をしないまま12着敗退に終わりました。
勝馬を管理するウェスリー・ワード師は、2着馬も管理していて師のワン・ツー・フィニッシュ。フーテナニー(ヨーロッパ・レポートではホーテナニーと表記していました、ここで訂正)にはフランキー・デットーリ、ラック・オブ・ザ・キッテンにはマイク・スミスが騎乗していました。フーテナニーは本命馬と同じクールモアの所有馬で、キーンランドでデビュー勝ち。続くピムリコの一般ステークスも連勝した後、馬主の関係もあってヨーロッパに遠征し、ロイヤル・アスコットのリステッド戦(ウインザー・キャッスル・ステークス)に優勝。ドーヴィルのモルニー賞(GⅠ)2勝でも2着して、今回は遠征帰りで一皮剥けた印象です。
続いてはブリーダーズ・カップ・ダート・マイル Breeders’ Cup Dirt Mile (GⅠ、3歳上、8ハロン)。1頭が取り消して9頭立て。去年の勝馬ゴールデンセンツ Goldencents が3対5の被った1番人気。勝てばBCダート・マイル初の2連覇となります。
スタートが最も良かったのは7番人気(20対1)のヴィカーズ・イン・トラブル Vicar’s in Trouble でしたが、直ぐにゴールデンセンツが1番枠スタートを利してハナを奪うと、向正面ではこの2頭が一時は後続に8馬身差を付ける逃走劇。ヴィカーズ・イン・トラブルを振り切ったゴールデンセンツに、5番手を進んだ2番人気(9対2)のタピチュア Tapiture がナプラヴニクのムチに応えて一歩また一歩と差を詰めましたが、最後は1馬身4分の1差まで。念願の2連覇達成となりました。3着は5馬身離され、去年の7着から盛り返した4番人気(9対1)のパンツ・オン・ファイア Pants On Fire が3着。
去年はダグ・オネイル師が調教していましたが、師は目下45日間の制裁中とあって今年はアシスタントのレアンドラ・モーラ師の管理下。モーラ師にとってはBC初勝利となります。騎乗していたラファエル・ベハラノは去年も載っていたため連覇、BCは5勝目となりました。ゴールデンセンツは前走サンタ・アニタ・スプリント・チャンピオンシップ2着からの勝利で、去年と同じパターン。これが現役最後のレースとなり、来春からは種牡馬として新たなスタートを切ることになっています。
この日三つ目がブリーダーズ・カップ・ジュヴェナイル・フィリーズ・ターフ Breeders’ Cup Juvenile Fillies Turf (芝GⅠ、2歳牝、8ハロン)。これも制限枠14を2頭超える16頭が登録していましたが、結局補欠馬は出走できず。更にゲートイン直前で獣医の判断からレディー・ズーズー Lady Zuzu も発走除外となり13頭立て。4頭を参戦させてきたチャド・ブラウン厩舎でも最も期待しているレディー・イライ Lady Eli が2対1の1番人気。
レースは2番人気(9対2)のサンセット・グロウ Sunset Glow が逃げましたが、第4コーナーを回るところでやや外に膨れた隙を突き、内ラチ沿いに伸びてきたのが、前半は4番手に控えていたレディー・イライ。そのまま一気に先頭を奪うと、サンセット・グロウに2馬身4分の3差を付けて見事期待に応えました。前半8番手から追い込んだ3番人気(5対1)のオサリア Osalia が2馬身4分の1差で3着。
チャド・ブラウン厩舎、イラッド・オルティス騎乗のレディー・イライは、これで無傷の3戦3勝。サラトガでデビュー勝ちし、前走ミス・グリロ・ステークス(芝GⅢ)でも豪脚を披露しての連勝。芝コースの2歳牝馬では間違いなく最強の存在でしょう。
初日の最後は、最強古馬牝馬決定戦となるブリーダーズ・カップ・ディスタッフ Breeders’ Cup Distaff (GⅠ、3歳上牝、9ハロン)。11頭が出走し、3頭が参戦した3歳馬の代表アンタパブル Untapable が8対5の1番人気。去年の勝馬ビホールダー Beholder は10月初めに発熱があって回避、古馬チャンピオンと目されていたプリンセス・オブ・シルマー Princess of Sylmar は既に引退しており、新たな女王として3歳馬に期待が掛かりました。対する古馬勢では、今期アップル・ブロッソム・ハンデ、オグデン・フィップス・ハンデ、パーソナル・エンサイン・ステークスとGⅠ3勝のクローズ・ハッチェス Close Hatches が3対1で2番人気。
先手を取ったのは5番人気(11対1)のティズ・ミッドナイト Tiz Midnight でしたが、2番手に付けた4番人気(7対1)のアイオタパ Iotapa がこれを交わして先頭。前半7番手の中団に付けていたアンタパブルも第3コーナー辺りから進出を開始し、第4コーナーではアンタパブルに外から並び掛ける勢いで先頭に立つと、直線は鞍上ロージー・ナプラヴニクのドライヴに乗って差を広げ、最後方から追い込む3番人気(6対1)のドント・テル・ソフィア Don’t Tell Sophia に1馬身4分の1差を付けて人気に応えました。粘ったアイオタパはゴール前でハナ差交わされて3着。クローズ・ハッチェスは大外スタートからやや強引に3番手まで上がったのが堪えたか、後半は精彩を欠いたまま11着最下位で入線しています。
スティーヴン・アスムッセン厩舎のアンタパブルは、これが四つ目のGⅠ制覇。ケンタッキー・オークスに続きマザー・グース・ステークスに連勝。牡馬に挑戦したハスケル・インヴィテーショナルこそ5着でしたが、前走コーティリオン・ステークスも制して最強3歳牝馬の座を守っていました。今回は古馬牝馬との初対決も制し、今年の最強牝馬は間違いなさそう。
以上が初日の結果ですが、ディスタッフ終了直後の記者会見で電撃発言が飛び出しました。アンタパブルの勝利騎手ロージー・ナプラヴニクが明日のBC最終日を最後に引退することを宣言。記者団からも溜息が聞かれています。
彼女によれば、調教師であるジョー・シャープと結婚、今後はファミリーを築くことに専念するとのこと。現在26歳、一昨年は勝鞍数でも獲得賞金でもジュリー・クローンの記録を塗り替え、今年もリーディングは第6位に付けるほどの腕前です。3冠レースの全てに騎乗した唯一の女性騎手というタイトルを残し、ターフを去るのは真に残念としか言いようがありません。ブリーダーズ・カップは、2012年にシャンハイ・ボビー Shanghai Boby のジュヴェナイルに続いて2勝目。もちろんこれも彼女の大きな勲章でしょう。
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