日本産馬がBC初制覇!

ブリーダーズ・カップ二日目は9鞍のチャンピオンシップが争われますが、サンタ・アニタ競馬場以外でもG戦が行われています。ここではBCだけを取り敢えずレポートし、他のG戦は別に項を改めましょう。
ということでサンタ・アニタ競馬場から。

どうやら金曜日の夜は雨だったようで、初日とは馬場状態がかなり違っていたようです。その影響をモロに被ったのが、BCシリーズの前に行われたセナター・ケン・マッディー・ステークス Senator Ken Maddy S (芝GⅢ、3歳上牝、約6.5ハロン)。本番での芝コースを守るため、ダート・コースに変更されてしまいました。
これに伴いGⅢからは降格、一般のステークスとして施行。当初は14頭が出走する予定でしたが、半分以上の8頭が取り消して6頭立てで行われています。従ってここでは簡単に結果だけを書いておきましょう。
変更されたダート・コース、馬場は fast 。優勝は2番人気(5対2)O・ジャレギ厩舎、デニス・カー騎乗のアマランス Amaranth 、本命(2対1)ヴェルヴェット・メスキート Velvet Mesquite に半馬身差を付けていました。1馬身差で4番人気(5対1)のファンティコラ Fanticola が3着。ジャレギ調教師はサンタ・アニタでの初勝利でした。

ここからがBCシリーズ、二日目の第一弾はブリーダーズ・カップ・ジュヴェナイル・フィリーズ Breeders’ Cup Juvenile Fillies (GⅠ、2歳牝、8.5ハロン)。12頭が出走し、前走ここサンタ・アニタの同じ距離で行われたシャンデリア・ステークス(GⅠ)を快勝したアンジェラ・ルネー Angela Renee が3対1で1番人気。
レースは最低人気(60対1)のテイク・チャージ・ブランディー Take Charge Brandi の逃げで始まり、アンジェラ・ルネーは中団8番手辺りで揉まれる展開。直線に入っても逃げ馬の脚色は衰えず、何とテイク・チャージ・ブランディーが逃げ切るという大波乱になってしまいました。7番手辺りから大外を通って追い込んだ4番人気(5対1)のトップ・デシル Top Decile が半馬身差で2着、更に半馬身差で8番人気(15対1)ワンダー・ギャル Wonder Gal が3着。アンジェラ・ルネーは10着大敗に終わっています。2着は昨日引退を発表したロージー・ナプラヴニク騎乗、乗れているジョッキーということでしょうか。
勝ったテイク・チャージ・ブランディーは、これがBC20勝目となる名伯楽ウェイン・ルーカス師の管理馬。最低人気は師にとって失礼だったかも。ヴィクター・エスピノザ騎乗。同馬はチャーチル・ダウンズのデビュー戦こそ勝ったものの、その後勝鞍は無く、これが6戦目にして2勝目。2戦目にスカイラーヴィル・ステークス(GⅢ)2着はあったものの、前2走のG戦は何れも着外に敗れていました。エスピノザによると、ムチが嫌いで気性が難しい馬のようです。

続いてはこの日4鞍が組まれている芝コースのBC第一弾、ブリーダーズ・カップ・フィリー・アンド・メア・ターフ Breeders’ Cup Filly & Mare Turf (芝GⅠ、3歳上牝、10ハロン)。馬場状態は good の発表で、11頭が出走してきました。去年の覇者で英国のスタウト厩舎が送りこんだダンク Dank が2対1の1番人気。
先ずは3番人気(5対1)のデイアットザスパ Dayatthespa が先手を取って逃げ、ダンクは5番手追走。レース半ばではスローに落ちるゆったりした流れとなり、一息ついたデイアットザスパがそのまま後続との差を保っての逃げ切り勝ち。6番手から追い込んだ2番人気(9対2)のステファニーズ・キッテン Stephanie’s Kitten が1馬身4分の1差で2着に入り、チャド・ブラウン厩舎のワン・ツー・フィニッシュ。4番手を進んだ4番人気(6対1)で英国のジャスト・ザ・ジャッジ Just The Judge が半馬身差で3着に入り、ダンクはペースが落ちたのが響いて4着まで。
ハヴィエル・カステラノ騎乗のデイアットザスパは、これで3連勝。前走ファースト・レディー・ステークス(芝GⅠ)に続くGⅠ2連勝で、連勝でここに参戦したのはメンバー中彼女がただ1頭でした。10ハロンは初挑戦でしたが、絶妙なペースで克服したと言えましょう。ブラウン師は前日のレディー・イライ Lady Eli (ジュヴェナイル・フィリーズ・ターフ)に続き連日のBC制覇。ところでデイアットザスパ、明日のノヴェンバー・セールで売りに出されるとのこと、日本のバイヤーたちも暗躍しそうなセールですね。

この日三つ目のBCは、ブリーダーズ・カップ・フィリー・アンド・メア・スプリント Breeders’ Cup Filly & Mare Sprint (GⅠ、3歳上牝、7ハロン)。連覇したグルーピー・ドール Groupie Doll が引退した今年は混戦、10頭が出走し、去年の2着(半馬身差)馬ジュディー・ザ・ビューティー Judy the Beauty が3対1の1番人気。
レースは同じ3対1の支持を集めたストーンスタティック Stonestatic が逃げましたが、4番手を進んだジュディー・ザ・ビューティーが第4コーナーで外を回って前を捉えると、後方2番手から更に外を通って追い込む8番人気(23対1)ベター・ラッキー Better Lucky をギリギリ頭差抑えて人気に応えました。最低人気(39対1)のサンキュー・メイルー Thank You Maylou が3馬身半差で3着。
ウェスリー・ワード厩舎、マイク・スミス騎乗のジュディー・ザ・ビューティーは、去年のBC2着のあと今春はサンタ・アニタでラス・フローレス・ステークス(GⅢ)、キーンランドでマディソン・ステークス(GⅠ)と連勝して一旦休養。8月のサラトガでランチョ・ベルナルド・ハンデ(GⅢ)で休み明けを勝ち、ここまでタップリと間隔を空けての念願成就となりました。ワード師も前日のフーテナニー Hootenanny (ジュヴェナイル・ターフ)に続いて連日のBC制覇。

次もスプリント戦、こちらは芝のブリーダーズ・カップ・ターフ・スプリント Breeders’ Cup Turf Sprint (芝GⅠ、3歳上、約6.5ハロン)。16頭の登録がありましたが、出走枠は14。予定していた1頭が取り消し、補欠から1頭が加わっての14頭立て。ここも大混戦で、結局7対2で1番人気に上がったのは、ヨーロッパでも勝ち、前走キーンランドのセレクト・ステークス(芝GⅢ)を制した快速馬ノー・ネイ・ネヴァー No Nay Never でした。
1番枠からダッシュ良く飛び出した2番人気(5対2)のルネースゴットジップ Reneesgotzip が逃げ、2~3番手を追走した本命ノー・ネイ・ネヴァーが直線で抜けて勝利目前と見えた所に、前半は最後方に控えていた4番人気(7対1)のボビーズ・キッテン Bobby’s Kitten が大外から一気の末脚を爆発させ、ゴール寸前でノー・ネイ・ネヴァーを半馬身差し切っての逆転勝ち。ハナ差で6番人気(13対1)のアンドラフテッド Undrafted が3着。
勝馬を管理するチャド・ブラウン師は、この日BCダブルで今年は3勝目。独特なサンタ・アニタの芝短距離コースを良く知るジョエル・ロザリオが騎乗していました。去年2歳時にピルグリム・ステークス(GⅢ)に勝ち、BCジュヴェナイル・ターフは3着だった同馬、今年もペンシルヴァニア・マイル(一般ステークス)に勝つなど、芝のマイル戦が舞台でした。スプリント戦は初挑戦でしたが、本来追込みを得意とするタイプだけに、ロザリオもパニックにはならなかったようです。

そしてブリーダーズ・カップ・ジュヴェナイル Breeders’ Cup Juvenile (GⅠ、2歳牡せん、8.5ハロン)からは、BCシリーズも佳境に入ってきます。しかしジュヴェナイルは人気になると思われた2頭、フロントランナー・ステークス(GⅠ)の1・2着馬アメリカン・フェイロー American Pharoah とカルキュレイター Calculator が何れも脚部難を発症して取り消し。本命不在のレースになってしまいました。結局11頭立てとなり、9対5の1番人気に支持されたのは、キーンランドのブリーダーズ・フューチュリティー(GⅠ)に勝ったカーペ・ディアム Carpe Diem 。人気馬の取り消しが無くとも人気上位に評価される無敗馬です。
レースはブービー人気(60対1)のブルー・ダンサーが逃げましたが、直線では何頭もの馬が殺到する激しい展開となり、大きく置かれた最後方を進んだ6番人気(13対1)のテキサス・レッド Texas Red があっと驚く末脚で抜けると、漸く後方から追い込んだカーペ・ディアムに何と6馬身半の大差を付ける圧勝。ハナ差3着には3番人気(6対1)のアップスタート Upstart がやはり追い込んでいます。この圧勝をどう読むか、評価の別れそうなレース内容でした。
勝馬を管理するキース・デサーモ、騎乗したケント・デサーモは兄弟。キースにとってはこれがBC5勝目となります。テキサス・レッドは上記フロントランス―・ステークスの3着馬で、これが5戦して2勝目。南米で培われてきた牝系の出身で、血統的にも将来性を注目して行きたい存在です。

仮に日本から参戦が見込まれそうなのが、ブリーダーズ・カップ・ターフ Breeders’ Cup Turf (芝GⅠ、3歳上、12ハロン)でしょう。去年の覇者でオブライエン厩舎のマジシャン Magician が早々と取り消したため12頭立て。芝の長距離とあって、このレースを4勝しているサー・マイケル・スタウト厩舎のテレスコープ Telescope が8対5の1番人気。GⅡ馬で、実績よりもスタウト/ムーア・コンビへの期待という人気でしょう。
レースはイマジニング Imagining 、スタースパングルド・ヒート Starspangled Heat などがハナに立ちましたが、向正面では4番人気(9対1)のハーデスト・コア Hardest Core が先頭で落ち着きます。テレスコープは5番手から抜け出しを図りましたが、その後に付けていた2番人気(3対1)でファーブル厩舎のフリントシャー Flintshire が先ず先頭。そこに前半9番手で控えていた3番人気(6対1)のメイン・シークエンス Main Sequence が外から追い上げ、フリントシャーも差し返す粘りを見せましたが、最後はメイン・シークエンスがフリントシャーに半馬身差で戴冠。1馬身4分の1差で8番人気(19対1)のトゥワイライト・エクリプス Twilight Eclipse が3着に入り、テレスコープも善戦したものの4着、6番人気(14対1)チキータ Chicquita は5着でした。
グレアム・モーション厩舎、ジョン・ヴェラスケス騎乗のメイン・シークエンスは、アメリカ競馬日記の常連。ユナイテッド・ネイションズ、ソード・ダンサー、ジョー・ヒルシュと、アメリカに転じてからは無敗のままGⅠに4連勝。この馬が1番人気に成らなかったのが不思議なほどです。英国でもダービー2着だった馬、アメリカの競馬が余程合っているのでしょう。先ず今年のターフ・チャンピオンは間違いなく、年度代表馬に選ばれる可能性も高くなりました。

最後から三つ目は、ブリーダーズ・カップ・スプリント Breeders’ Cup Sprint (GⅠ、3歳上、6ハロン)。ここも出走枠を超える16頭が登録してきましたが、結局取り消しは無く当初予定の4頭立て。香港からBCに初めて挑戦するリッチ・タピストリー Rich Tapestry が、前走サンタ・アニタのスプリント・チャンピオンシップ(GⅠ)を制したこともあって5対2の1番人気。
レースはハナっ速い馬が揃ってハイペースが予想されましたが、主張したのは6番人気(13対1)ファスト・アンナ Fast Anna 1頭で余り速くならず、2番手を追走した10番人気(19対1)のワーク・オール・ウィーク Work All Week が抜け出し、4番手を進んだ去年の勝馬で2番人気(9対2)のシークレット・サークル Secret Circle を半馬身抑えて優勝。1馬身4分の1差で3着には3番手に付けていたプライヴェイト・ゾーン Private Zone が入り、いわゆる前残りの競馬になりました。本命リッチ・タピストリーは全く見せ場無く14着最下位と大敗。
ロジャー・ブルッヘマン厩舎、これがBC初勝利となるフロラン・ジェルー騎乗のワーク・オール・ウィークは、前走キーンランドのフェニックス・ステークス(GⅢ)でG戦初勝利を挙げた時にも詳しく紹介したように、通算15戦12勝となる真に堅実な5歳せん馬。BCが試金石になると書きましたが、見事ここも勝って短距離王に付きました。

一昨年、去年のワイズ・ダン Wise Dan が制して2年連続の年度代表馬に選出されたブリーダーズ・カップ・マイル Breeders’ Cup Mile (芝GⅠ、3歳上、8ハロン)、そのワイズ・ダンは体調が思わしくなくパスしたため、一気に混戦となりました。予備登録の1頭が除外され、フルゲートの14頭立て。ここはやはり実績から英国のトルネード Toronado が2対1の1番人気。
レースはアメリカのマイラー代表、オビアスリー Obviously の逃げ、これをトルネードが2番手で追走して直線に入りましたが、レースは劇的に変貌し、後方待機組が一斉に襲い掛かるスリリングな展開。結局混戦を制したのは、前半10番手で待機していた12番人気(30対1)の伏兵カラコンティー Karakontie で、12番手から伸びた5番人気(10対1)アノディン Anodin に1馬身差を付ける番狂わせです。更に1馬身差で3着に来た8番人気(20対1)のトレード・ストーム Trade Storm も前半は後方2番手に控えていた馬でした。トルネードは8着に沈み、逃げたオビアスリーも5着。終わって見ればフランス馬、フランス人騎手のワン・ツー・フィニッシュでした。
勝ったカラコンティー、実況アナもカラコナイトと間違って呼んでいた3歳馬で(私も最初は間違えていたように、紛らわしいスペリング)、ご存知日本産のクラシック馬。今年の仏2000ギニーを制し、当ブログのクラシック馬プロフィールでも詳しく紹介しました。日本産馬がBCを制したのは、これが初。ジョナサン・ピアース厩舎、ステファン・パスキエ騎乗。一方2着のアノディンは、あの名牝ゴールディコヴァ Goldikova の全弟で、フレディー・ヘッド厩舎、オリヴィエ・ペリエの騎乗。日仏合作のBC制覇でもありました。

愈々最後はブリーダーズ・カップ・クラシック Breeders’ Cup Classic (GⅠ、3歳上、10ハロン)。ここも15頭が登録していましたが、結局補欠の馬は除外となって14頭立て。今年は3歳馬が7頭も出走するクラシック世代の当たり年で、果たして古馬の壁を破れるかも見どころの一つ。いずれにしても、待っていたのは劇的な幕切れでした。1番人気に支持されたのはやはり3歳馬で、パシフィック・クラシック、オウサム・アゲン・ステークスとGⅠを連勝中のシェアード・ビリーフ Shared Belief が5対2で1番人気。ベルモント・ステークスに勝ち、ジョッキー・クラブ・ゴールド・カップで古馬を一蹴したトーナリスト Tonalist と、今年の2冠馬カリフォルニア・クローム California Chrome とが同じ4対1で2番人気で並んでいました。人気の面でも3歳馬が上位を独占。
しかしスタートは波乱、7番枠からスタートした4番人気(7対1)のバイエルン Bayern がスタートして直ぐに左に寄れ、隣枠の本命シェアード・ビリーフに追突。これが連鎖反応で内の馬を妨害し、更に外枠発走の各馬もインコース目掛けて殺到、極めて荒いスタートとなりました。そのままハナに立ったバイエルンが逃げ粘り、2番手を追走した7番人気(18対1)のトースト・オブ・ニュー・ヨーク Toast of New York 、3番手追走のカリフォルニア・クロームが最後まで続く叩き合い。最後は差が詰まったものの、結局内のバイエルンが中のトースト・オブ・ニュー・ヨークをハナ差抑えて1着入線。外のカリフォルニア・クロームが首差3番手で入線しました。スタートで大きな不利を被ったシェアード・ビリーフは盛り返したものの前3頭から3馬身半離されての4着。当然ながら審議となり、上位3頭は全て対象という乱雑さ。結局は入線通りで確定しましたが、何とも後味の悪いクラシックとなってしまいました。5着トーナリスト、6着キャンディー・ボーイ Candy Boy まで3歳馬が独占したのは評価通りとも言えますが、負けた陣営はどれも不満の残る結果でしょう。
ボブ・バファート厩舎、マーチン・ガルシア騎手を含め、陣営にはレース後の笑顔は見えませんでした。やはり裁決の判断が気になっていたのでしょう。勝馬に付いては改めて解説するまでもないでしょう。ハスケル・インターナショナルに続くGⅠ2勝目、前走ペンシルヴァニア・ダービーを制してのBC挑戦でした。

 

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