今日の1枚(205)

ヴァーツラフ・ターリッヒの2枚目。ターリッヒは1883年のモラヴィア生まれで、ヴァイオリン出身の指揮者。日本ではほとんど知られていないと思いますが、1903年から1904年にかけてベルリン・フィルのコンサートマスターを務めています。アルトゥール・ニキシュの時代ですね。指揮のスタイルもニキシュから受け継いだ部分もあるのでしょう。
1919年から1941年まで、一度中断がありましたが長年チェコ・フィルの指揮者を務め、この時期にチェコ・フィルは世界的なアンサンブルにレヴェル・アップしたのでした。歌劇場でも活躍、スロヴァキア・フィルの創設も手掛け、1956年引退。1961年に78歳で没。

2枚目のラインナップは盛り沢山で以下の内容。

①ゲオルク・ベンダ/交響曲変ロ長調
②モーツァルト/交響曲第33番変ロ長調K.319
③チャイコフスキー/組曲第4番「モーツァルティアーナ」~第3楽章
④スメタナ/プラハの謝肉祭
⑤ドヴォルザーク/交響曲第9番
⑥ノヴァーク/スロヴァキア組曲~第3曲「恋人たち」

③はターリッヒが設立したスロヴァキア・フィルとの録音ですが、他は全てチェコ・フィルを指揮したモノラル録音。

①は18世紀にボヘミアで活躍したベンダ・ファミリーの一人で、特に有名な作曲家3兄弟の真ん中、1722年生まれのゲオルクの作品。弦楽合奏による3楽章の交響曲で、徐々にテンポが上がっていくのがウィーン古典派とは違うところ。
1954年3月30日にプラハの Domovina Studio で録音されたもので、ディレクターは Ladislav Slip 、エンジニアが Franticek Burda 。初出はウルトラフォン&スプランフォンの C 24383 。ターリッヒとしては最後期のもので、録音も聴き易く優秀。

②はターリッヒには珍しいライヴ録音で、チェコ放送局提供の音源。1954年6月9日にプラハ Rudolfinum のドヴォルザーク・ホールで行われた演奏会で、ディレクターやエンジニアの名前は判っていません。
この交響曲は第3楽章と第4楽章のみに反復記号がありますが、ターリッヒは第3楽章のみ繰り返し実行。演奏の最後には拍手がありますが、スプラフォンのターリッヒ・スペシャル・エディション9では拍手がカットされています。拍手があるのは初めて聴きました。なおターリッヒには同曲のスロヴァキア・フィルとの録音もありますが、これはそれとは別のもの。

③は1951年にブラティスラヴァの Government Building 大ホールでの録音。これもディレクター、エンジニアの名前はありません。もちろんスプラフォン盤は全曲録音ですが、HMVの配信は第3楽章のみ。
オリジナルの全曲盤はウルトラフォン(海外ではスプラフォンのブランドで販売していた)の H 23973/6 でSP4枚7面に収録、最終面にはモーツァルトのK.426のフーガ(2台ピアノ曲)がフィルアップされていました。

④は1953年6月6日、プラハ Rudolfinum のドヴォルザーク・ホールでの録音。これもディレクター、エンジニアとも名前の記載は無いようです。初出の記録もWERMには見出せませんでした。
スメタナが晩年に計画していた連作管弦楽曲の一曲で、完成したのはこれのみという遺品。初演の際には評価が賛否両論、真っ二つに割れたことでも有名ですね。ターリッヒは終結部、102小節と103小節のラルゴの2小節をカットし、109小節にティンパニのトレモロによるクレッシェンドを加筆しています。別稿があるのかは不明。

ターリッヒ/チェコ・フィルは新世界をSP期とLP期の二度録音していますが、⑤は新しい方が採用されています。古い音楽ファンの間では長く定番として親しまれてきたもので、1954年9月28日から30日までの3日間、Rudolfinum のドヴォルザーク・ホールで収録されたもの。ディレクターは Miloslav Kuba 、エンジニアが Franticek Burda で、どれもスプラフォンのスペシャル・エディションに掲載されているデータから拾ったものです。
ターリッヒの録音では最も新しいもので、ティンパニなど皮の振動が伝わってくるような新鮮さがあります。第3楽章の繰り返しはスコア通りですが、第1楽章の繰り返しは省略。当時はこれが普通で、確か第1楽章提示部をリピートして録音したのはバーンスタイン/ニューヨーク・フィルが最初だったのじゃないでしょうか。
因みに同コンビの旧録音は、スプラフォンから10面のSPとして出ていましたが、私は聴いたことがありません。

⑥はアンコールの様な趣で収録されているもの。5曲から成る組曲で、オリジナルはもちろん全曲録音。1953年6月9日から12日まで、やはり Rudolfinum のドヴォルザーク・ホールで収録されています。ディレクターとエンジニアは新世界と同じ Miloslav Kuba 、Franticek Burda のコンビ。
日本でノヴァークはほとんど知られていませんが、LPの初出はスプラフォン、LPV 211 というLP盤で、同じ作曲家の交響詩「タトラ山にて」をアンチェル指揮チェコ・フィルによる演奏とカップリングされていました。当時の日本では出しても売れないレコードだったでしょうから、半世紀以上が経過して初めてわが国でも聴けるようになった録音です。

参照楽譜
①無し
②オイレンブルク No.543
③オイレンブルク No.863
④ヘフリッヒ No.1392
⑤オイレンブルク No.433
⑥ヘフリッヒ No.600

 

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