サルビアホール 第39回クァルテット・シリーズ

毎年6月と11月は興味深い音楽会が目白押し、特に室内楽は首都圏のホール総動員という印象です。その一つ、鶴見のサルビアホールもフル稼働で、11月の第2週から12月第2週まで5週間連続でクァルテット・シリーズが行われています。
昨日は第12シーズンがスタート、その第1回としてシュトイデ・クァルテットのコンサートが行われました。

モーツァルト/弦楽四重奏曲第14番ト長調K387
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第11番へ短調作品95「セリオーソ」
~休憩~
シューベルト/弦楽四重奏曲第14番ニ短調D810「死と乙女」

何ともウィーン古典派・ロマン派の名曲をズラリと並べた選曲、鶴見としてはやや珍しい類のプログラムではないでしょうか。それも其の筈、今回サルビア初登場となるシュトイデ・クァルテットは、あのウィーン・フィルのメンバーによって構成されるウィーン正統派のクァルテットだから、なのですね。
彼等の簡潔なホームページもありますので、先ずこちらを・・・。

http://www.steudequartett.com/

第1ヴァイオリンのフォルクハルト・シュトイデ Volkhart Steude 、第2がホルガ―・グロー Holger Groh 、ヴィオラはエルマー・ランダラー Elmar Landerer 、チェロがヴォルフガング・ヘルテル Wolfgang Haerter という男性4人のメンバー。会場の椅子も高めに設定され、メンバーも足の長さを持て余しているよう。
コンサートマスターを務めるシュトイデ以下全員がウィーン・フィルのメンバーで、最年長のシュトイデが1971年生まれ、最も若いグローが1976年生まれということですから、全て40歳前後という世代的にも音楽的にも統一された音楽家達。これが彼らの音楽創りの全てではないでしょうか。

2002年のお正月に結成され、翌年4月に初来日。年4回の定期演奏会をスタートさせたのは2009年からで、去年落成したというウィーンの新しいホール「MuTh」が会場だそうです。
未だ結成して10年チョッと、本格的な活動も5年目ということで、ホームページのレパートリーを見ると、何とベートーヴェンが1曲も無い。シューベルトも今回の「死と乙女」も載っていないのが意外にも感じられました。
しかしこれは未だ定期で取り上げていないというだけのことでしょうし、ウィーン・フィルのメンバーがベートーヴェンやシューベルトと無縁であるわけはありません。回を重ねて行けば、当然ながらスタンダードなレパートリーも充実して行くことと思われます。従ってセリオーソも死と乙女も日本で先取した、と考えればよろしい。CDも未だ数枚がリリースされているだけの様ですね。

こちらにウィーン・フィルのクァルテットという先入観がある所為もありましょうが、演奏会の印象は、正にウィーン・フィルの四重奏版というものでした。所謂常設の団体ではないのでしょうが、アンサンブルの積み重ねがウィーン・フィルの基本、このクァルテットもその特質を十二分に生かしていました。
縦線をキッチリ合わせる、針の穴に糸を通すような緻密なアンサンブルを期待するファンには物足りないかも知れませんが、大事なのは音楽そのもの、という古くからの聴き手には大いに楽しめるコンサートです。

冒頭のモーツァルト。第3楽章のメヌエットでは、間に挟まれるトリオの前に一息置く。フィナーレでも一旦楽章がフォルテで終わったかのように見せて、最後にピアノでテーマをサラッと奏する。言わば騙しの様な表情で、“ネ、これがモーツァルトだよ”と言っているようにシュトイデが客席にニコリと微笑む。バリリやコンツェルトハウスでこういう名曲を聴いてきた古参は思わず、“あぁ、ウィーン”と思ってしまうのでした。
ベートーヴェンも厳しい切り口の中にも歌心満載、何処までもウィーン風に徹したセリオーソです。

しかし彼等が最も共感しているのはシューベルトでしょう。ウィーンは音楽の都と言いながら、この楽都で産まれた大作曲家はシューベルトとヨハン・シュトラウス位のもの。シューベルトこそ我が町の音楽、という気概があるのでしょう。
朗々と、しかし気品溢れる第2楽章の歌。特にチェロのヘルテルは風貌もシューベルトそっくり。この楽章の新しくも懐かしい情感は、何時までも聴いていたい幸福感に満ちたものでした。

曲目を告げることなく弾かれたアンコールも、ドヴォルザークのアメリカから第2楽章。誰でも知っている名曲で締め括りました。
こんな作品を並べて「鶴見をバカにしているのかッ、」と言いたくもなりますが、正統派ウィーンのスタイルを満喫させてくれれば、「恐れ入りましたッ、」と平伏するしかありません。水戸黄門が印籠を翳すようなものでしょ。“これぞウィーンの音楽じゃッ、”

 

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