今日の1枚(212)

EMIの「20世紀の偉大な指揮者たち」シリーズ、続いてはスイスの名指揮者、エルネスト・アンセルメです。アンセルメは徹底したデッカのアーチストで、EMIとはライヴァルだったレーベル。その枠を超えてのリリースとなりますが、音源は全てデッカ録音となります。
ただしアンセルメはSP時代からステレオ期まで極めて録音の多い指揮者で、同曲の再録音もたくさんあった人。どの録音が採用されているのは聴かなければ判らないものです。その録音は多くが優秀録音として評判になり、私の世代はアンセルメ抜きにはレコード・ライフは成立しませんでした。EMIが1枚目に選んだのは、

①ストラヴィンスキー/交響詩「夜鳴き鶯の歌」
②リムスキー=コルサコフ/交響組曲「シェエラザード」
③ドビュッシー/牧神の午後への前奏曲

①と③はスイス・ロマンド管弦楽、②はパリ音楽院管弦楽団の演奏で、全てステレオ録音。この配信には録音年月日などは掲示されていませんが、別資料によると、
①は1956年5月1日から11日まで、ジュネーヴのヴィクトリア・ホール、
②が1954年9月22日にパリのサル・ド・ラ・ミュチュアリテ、
③は1957年10月28日、ジュネーヴのヴィクトリア・ホールとなっています。プロデューサーやエンジニア名は断定できませんが、ジュネーヴ録音の多くはプロデューサーが James Walker 、エンジニアは Roy Wallace が担当していました。

①はアンセルメの唯一の録音、NMLでは歌劇のハイライトとクレジットされていますが、これは明らかにオペラを元にした交響詩の全曲版。流石に古さを感じさせる音質ですが、デッカ特有の色彩感に満ちたもの。

②はスイス・ロマンドとの再録音ではなく、パリ音楽院との旧盤。ただし旧盤と言ってもアンセルメはパリ音楽院で2度録音しており、スイス録音と併せて3種類の録音が存在します。意外と知られていませんが、最初のモノは1948年のSP録音。今回EMIが採用したのは1954年の再録音(新盤)で、英国ではデッカ、LXT 2769 のLPが初出でした。
もちろん当初はモノラルとして発売されたのですが、録音そのものは最初期のステレオでも残されており、私は今回の配信で初めて聴くことが出来た音源です。これも別資料によると、ヴァイオリン・ソロはコンサートマスターのピエール・ネリニとのこと。
第1楽章のE手前で僅かにパウゼを置いて ff に突入する所、第2楽章ではRの10小節前と3小節前の弦のトレモロにアクセントを付ける所は、SPの旧録音と同じでした。なお旧録音はナクソス・ヒストリカルから配信されており、両者を容易に聴き比べることもできます。

③もアンセルメはスイス・ロマンドとモノ、ステレオの二度録音しており、ここに収められたのはステレオの方。長くこの曲の名盤として聴かれてきた一品で、明記されていないものの、フルートは同オケの首席奏者だったアンドレ・ぺパン Andre Pepin でしょう。
今更紹介するまでもない優秀録音。フルートを包む空気感と、オーケストラの細部が手に取れるように聴き取れるデッカの技術が最高度に発揮されています。

参照楽譜
①ブージー&ホークス No.633
②オイレンブルク No.493
③オイレンブルク No.1116

 

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