今日の1枚(193)
今朝は北風が冷たくて、やっと冬がそこまで来ていることを実感しました。となると、CDを聴くのにも良い季節だと感じます。秋から初冬にかけてはやはりブラームスでしょう。ということで今日もブラームスを聴くことにしました。
これも最近NMLで配信が開始されたEMI録音のブラームス/ヴァイオリン・ソナタ全集。イツァーク・パールマンのヴァイオリンと、ウラディーミル・アシュケナージによる定評ある名盤です。
パールマンもアシュケナージも同曲の再録音があったと思いますが、これは二人にとっても初録音だったと記憶します。EMIはとっておきのカタログを「Great Recordings of The Century」としてシリーズ化していましたが、今回聴いた配信もその一つ。同社の art (abbey road technology) でリマスタリングされた一枚で、音質は向上しています。
音源の配信のみなのでブックレットは読めません。そこで別資料、今回はレコード芸術の付録だった Record Year-book ’86 でデータを拾ってみました。
それによると、録音は1983年4月20日から23日まで、ロンドンのアビー・ロード・スタジオでのもの。プロデューサーはスーヴィ・ラジ・グラッブ、エンジニアはクリストファー・パーカーとクレジットされています。
1985年8月にLP2枚組で日本発発売された時(EAC 90284/5)は、FAEソナタのスケルツォ楽章、ハンガリー舞曲集から3曲がフィルアップされていましたが、当シリーズはソナタ3曲を番号順に収録しています。
イヤーブックによると、レコード芸術では85年度室内楽曲部門の推薦盤に上げられた1点で、門馬直美氏と佐川吉男氏の推薦文が抜粋で掲載されていました。
特に門馬氏は、「パールマンはポルタメントを好んで使用し、訴えかけるような効果を出す。第1番の第1楽章など、とかく一本調子になりやすいのだが、燃えているものもあるし、よく歌ってもいて、多様な変化をみせている」と評しています。
件のポルタメントですが、かつての巨匠時代の様な大袈裟なものではなく、例に挙がった第1番の第1楽章では、第5小節目のDからFへの下降音型で使われます。更に歌謡性の強い第2楽章では多用され、第13小節から第15小節にかけての跳躍の大きい音程での啜り泣くような表現が特徴的。
ただこれは聴いている内に気にならなくなるし、2番、3番と聴き進む内にポルタメントそのものも少なくなっていくようでした。
同じ個所を、やはり配信が始まったばかりの同じEMI盤アンネ・ゾフィ―・ムターとアレクシス・ワイセンベルクの演奏と比べると、ムターではポルタメントは一切排除されていることが判ります。こうして手軽に演奏比較が出来るのもNMLならではのことでしょう。
更にイヤーブックには録音評(音質のこと)も点数で表記されていて、このアルバムは93点。標準的に好録音とされるものが90点ですから、これは音質的にも標準以上と評価されたのでしょう。
もちろんリマスタリングによって音質は更に向上、中央に置かれたピアノ、その前に位置するヴァイオリンという空気感が手に取るように判る名録音です。グレート・レコーディングスに選ばれるに相応しい名盤。
参照楽譜
リー・ポケット・スコア No.6
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