今日の1枚(218)

音盤ジャンルが続きます。今日はNMLの「20世紀の偉大な指揮者たち」シリーズの配信からセルゲイ・クーセヴィツキーの巻。私はこの指揮者、もちろん名前は良く知っていますが、録音は恥ずかしながら余り聴いたことはありません。良い機会なので改めて色々調べながら聴いてみました。
クーセヴィツキーは1874年にロシアのヴィシュニー・ヴォロチェクで生まれ、1951年にアメリカのボストン(1941年にアメリカの市民権を取得)で77年の生涯を閉じたロシアの指揮者にしてコントラバス奏者。今日ではそのコントラバス協奏曲が時折演奏される作曲家として名を残しています。

1901年から5年間、ボリショイ劇場のコントラバス奏者として活躍し、その1901年にモスクワで、1903年にはベルリンで、1907年にはロンドンでリサイタルを開いたほどコントラバスの名手として知られていました。
指揮者としては1908年にベルリン・フィルを振ってデビューしたというから驚き。何の実績も無い人がいきなりベルリン・フィルでデビューするなど今日では考えられませんが、何か裏でもあったのでしょうか。一度伝記でも読んでみたいもの。
1910年にクーセヴィツキー交響楽団なるものを創設し、1918年まで活動、特にスクリャービンの作品を熱心に取り上げました。ペトログラード、モスクワのオペラなどでも活躍した後、1921年にパリに出、ここでもコンセール・クーセヴィツキーというオーケストラを設立して1928年まで活動。いくつもオーケストラを作るところは、前回まで紹介していたビーチャムと通ずるところがあるようですね。

1924年にモントゥーの後任としてボストン交響楽団の首席指揮者に就任すると、1949年までアメリカを始めとする様々な新しい作品を紹介、1940年にはタングルウッドにバークシャー音楽センターを創設して後進の育成にも力を注いだことは夙に有名。クーセヴィツキーに足を向けて寝られない一人にバーンスタインがいることも良くご存知でしょう。
更に1943年に創設したクーセヴィツキー財団を通して生まれた作品には、バルトークの管弦楽のための協奏曲、ブリテンのピーター・グライムズ、メシアンのトゥーランガリラ交響曲など、現代のオーケストラやオペラのレパートリーに欠かせない作品が並びます。ラヴェルにムソルグスキーの展覧会の絵のオーケストレーションを依頼し、初演したのもクーセヴィツキー、実際に彼が指揮した音盤以上に、その多面的な活動が音楽界に残した功績は偉大だと言うしかないでしょう。

そんなクーセヴィツキーのレコードをこれまで余り聴かなかったのは、子供の頃に読んだ「クーセヴィツキーの練習は、先ず鏡に向かって指揮のポーズをチェックすることから始まった」というような文章が引っ掛かっていたから。手元に無いので確認は出来ませんが、田代秀穂氏の「世界の指揮者」という書物だったような気がします(間違っていたら謝ります)。
芝居っ気タップリの指揮者という先入観があったものと思われます。ゴタクはこの位にして、早速1枚目を聴きましょう。

①チャイコフスキー/交響曲第5番
②ラフマニノフ/交響詩「死の島」
③リスト/メフィスト・ワルツ第1番

全てボストン交響楽団を指揮したもので、もちろんモノラル録音。没年から判断してもクーセヴィツキーにはステレオ録音は無かったと思います。
NML配信でデータ等を見ることは出来ませんので、他の記録を調べると、

①は1944年11月22日の録音のようです。クーセヴィツキーとしては最も新しいレコードでしょう。WERMによれば、初出はヴィクターのSP、11-9192/7 の6枚12面で出ていたもの。LPが開発されると直ぐ、LM 1047 の品番で再発されました。
演奏はやはり芝居気というか、テンポの揺れが激しいもの。どこでどうしているかを書くのは余りに煩わしいので省略しますが、例外はあれどもクレッシェンドではテンポを速め、ディミニュエンドではスローダウンする傾向があります。もちろんチャイコフスキーの譜面には書かれていないことで、当時のヴィルトゥオーソ指揮者の特徴でもありました。

②は1945年4月23日の録音だそうで、ヴィクターのSP、11-8957/9 の3枚5面での発売。最終第6面には同じラフマニノフの「ヴォカリーズ」をラフマニノフ自身がオーケストレーションした版での演奏が収録されていました。

③は1936年5月8日の録音だそうです。これはヴィクターではなく英コロンビアから発売されたSPで、初出は DB 2984/5 の2枚3面。第4面にはシューベルトのロザムンデから第9曲のバレー曲ト長調が同じクーセヴィツキー指揮でカップリングされています。
このシリーズで取り上げたカットの多かったコーツ盤に対し、こちらはノー・カットの演奏。同じく終結は第1稿を使用しています。

参照楽譜
①フィルハーモニア No.63
②インターナショナル・ミュージック No.619
③オイレンブルク No.1361

 

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