今日の1枚(229)

今日はライナーの2枚目を聴きます。私の印象ではライナーは「怖い」指揮者の代表で、オーケストラの団員から最も恐れられた人物としてのイメージが強く残っています。巨匠の時代にはワンマン・タイプの指揮者は当たり前で、トスカニーニ、セル、クレンペラー、バルビローリなど皆有名な独裁者でしたね。
アメリカではトスカニーニが有名。彼は激すると大声で怒鳴りつけたり、懐中時計を叩き付けたりと大変な騒ぎになりましたが、興奮が収まれば後はケロッとしていたようです。
それに対してライナーは陰湿なタイプ。何時までも特定の楽員に根を持って、何かにつけて嫌味を言ったとか。メンバーのモチベーションを下げる最も悪いタイプの指揮者だったと想像されます。オーケストラが海外公演を計画していた時に、ライナーが監督権限で却下したという噂もありました。それでもシカゴに長く君臨できたのは、指揮者とはそういうものだという時代の風潮だったのでしょう。現在でライナーのように振舞えば、一発でクビになるでしょうね。

またライナーは指揮棒をほとんど動かさないことでも知られていました。昔「オーケストラの少女」という映画があって、ストコフスキーが出演したことでも有名でしたが、実はライナーも出ていました。確かハイフェッツとチャイコフスキーの協奏曲を演奏していたと記憶しますが、私が動くライナーを見たのはこれが最初でした。
その後、NHKがアメリカのテレビ番組でシカゴ交響楽団の映像をいくつか放映したことがあって、その時もライナーの演奏会をフルで観ることができましたっけ。最初はベルリオーズの海賊序曲だったと思いますが、ライナーは棒の先を僅かに下げるだけでオケのアンサンブルがスタートするのを興味深く見た覚えがあります。
後で聞いた話ですが、ニューヨーク・フィルにライナーが客演した時、ニューヨークのメンバーは態とアンサンブルを乱してライナーの反応を見たのだとか。するとライナーは合奏が合わなければ合わないほど、棒の動きが小さくなった由。要するに楽員の集中力を高めるために、態々棒の動きを小さくしていたフシがあります。落語の名人が客の注意を引き付けるために態と小声で喋ったという話に似ていなくもないですね。

ということでライナーの2枚目。彼方此方から落穂ひろいの様に集めた選曲のように見えます。

①ブラームス/悲劇的序曲
②ワーグナー/楽劇「神々の黄昏」夜明けとジークフリートのラインへの旅
③バルトーク/ハンガリーの風景~第5曲「豚飼いの踊り」
④リヒャルト・シュトラウス/交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」
⑤ラヴェル/クープランの墓
⑥ファリャ/バレエ音楽「恋は魔術師」

①~③はシカゴ交響楽団、④はRCAビクター管弦楽団、⑤はNBC交響楽団、⑥はピッツバーグ交響楽団と、何れもアメリカのオーケストラと様々な時期に録音した音源。ライヴは一つも無く、全て商業用にスタジオ録音したものでしょう。

①は新しいステレオ録音ですが、リヴィング・ステレオのCD化シリーズには含まれていません。私の記憶ではブラームスの第3交響曲とカップリングされたLPで出ていたはずですが、資料が無いので確信はありません。
ベートーヴェンのコリオラン序曲と同じようにティンパニを加筆している個所があり、それは曲の最後の方、343小節から345小節にかけてと、364小節から365小節にかけてです。

ライナーはキャリアを開始したブダペスト時代からワーグナー、リヒャルト・シュトラウス、バルトークのスペシャリストとして名声がありましたが、②はその一例。これはリヴィング・ステレオにも含まれていて、手元のCDによれば1959年4月18日、シカゴ・オーケストラ・ホールでの録音。Richard Mohr プロデューサー、 Lewis Layton エンジニアの名物コンビによる収録です。
演奏は所謂フンパーディンク版で、オイレンブルク版スコアでは73ページから132ページに一気に飛び、最後は大音量で終わる終結部を付加したもの。「夜明けとジークフリートのラインへの旅」という曲名で演奏される場合はほとんどがこの版によるものでしょう。

③もライナーの定番。もちろんリヴィング・ステレオでも発売されていますが、LP時代には弦チェレとのカプリングで、演奏録音とも決定盤として知られていました。私もこのLPでバルトーク入門を果たした懐かしい録音でもあります。
1958年12月28日と29日の録音で、今聴いても56年前の収録とは思えません。ハンガリアン・スケッチは元々の様々なピアノ曲を小オーケストラ用にバルトーク自身がアレンジしたもので、全体は5曲、EMIのシリーズではその最後のピースだけが選ばれています。

残る④~⑥は全てモノラル録音で、ライナーのシカゴ響時代以前の記録。④は得意のシュトラウスをRCAヴィクターのために録音したもので、オーケストラは録音用に名前を伏せています。同じシュトラウスの「死と変容」とのカップリングで、イギリスでは英コロンビアから FALP 177 で出ていました。ヴィクター盤は LM 1180 という品番です。
ライナーはシカゴ交響楽団と数多くのシュトラウス作品をステレオ録音していますが、ティルと死と変容だけは後にデッカとのアーチスト交換契約でウィーン・フィルと録音しただけ。当時は安易にダブルような商品は作らないのが原則でした。

⑤もNBC響との珍しい録音で、1枚目のメンデルスゾーンと同じLP(ヴィクターの LM 1724)にカップリングされていたもの。全4曲、収録時間の関係でしょうか、沢山ある繰り返しヶ所で実行しているのは、第1曲「プレリュード」(繰り返しは1か所しか無い)、第3曲「メヌエット」の最初、第4曲「リゴードン」の最初だけで、他は全部カットしています。

⑥のソロはキャロル・ブライス Carol Brice という人。ライナーはシカゴに来る前はピッツバーグ響の首席指揮者をしており、このオーケストラとはCBSにかなりの録音を残していました。これもその一つでしょう。
初出はアメリカ・コロンビアのSPで、12409/11D という品番でした。3枚6面ということになりますが、WERMによると第3・5・11曲はカットされているとあります。今回初めて聴いた配信では、カットは一切無く完全な全曲録音。WERMが事実だとすれば、最初は全曲が録音されており、SP3枚に編集する際に数曲が省略されたということになりますね。
ライナーはこの作品を後にシカゴ響、レオンタイン・プライスとステレオで再録音しており、そちらはリヴィング・ステレオでCD化されています。

参照楽譜

①オイレンブルク No.657
②オイレンブルク No.910(楽劇全曲版)
③エディション・ムジカ・ブダペスト No.1
④ペータース Nr.4192 e
⑤デュラン
⑥チェスター JWC 41

 

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