今日の1枚(155)
作曲家の生年順に配列されている「トスカニーニ・ベスト・セレクション」、第11集はシューベルトの交響曲2曲です。
BVCC-9921 、日本ビクターが開発したK2レーザー・カッティングによる素晴らしい音質の1枚。シューベルトの交響曲は番号が錯綜していますが、当盤は昔から使われてきた番号を踏襲しているようですね。
①シューベルト/交響曲第8番ロ短調「未完成」
②シューベルト/交響曲第9番ハ長調「ザ・グレイト」
例によって最初に録音データを記すと、
①1950年3月12日 及び6月2日 NBCスタジオ8H
②1953年2月9日 カーネギーホール
①は2度に分けて行われた録音。一度でOKにならなかったのは何か理由があるのでしょうが、日本盤の解説には経緯などは一切書かれていません。逆に長大な②は1日で収録。いずれも聴衆の入らないセッション収録です。
両録音は年代に3年弱の開きがあり、会場も別ながら不思議に音質は見事に統一され、まるで同じ日に同じ場所で演奏されたかのよう。その意味で、かなり珍しい1枚と言えるのではないでしょうか。
当然ながら演奏の質も酷似。シューベルトの晩年(敢えてそう言いますが)の交響曲は、トロンボーンの使い方が特徴、と私は考えます。
ベートーヴェンもいくつかの交響曲でトロンボーンを使いましたが、シューベルトは一層大胆。シューベルトの2曲では、緩徐楽章でもトロンボーンが終始活躍するのが独特で、トスカニーニはそうしたシューベルトの独自性を見事に表現しています。逆に言えばその点こそが好き嫌いの分かれ目で、トスカニーニのシューベルトを評価しない人もあって当然でしょう。
①は当初SPで発売されたもの。ヴィクターの DM 1456 というセットもの、3枚6面での発売でした。SP盤としては異様に高音質だったはずです。
第1楽章提示部の繰り返しは省略。ベートーヴェンと違い、トスカニーニはシューベルトのオーケストレーションにはほとんど手を入れていません。
トスカニーニは②を2度録音しているようで、当録音は二度目のもの。最初からLPで発売され、ヴィクターの LM 1835 という品番でした。
こちらも繰り返しはほとんどが省略され、唯一実行しているのは、第3楽章スケルツォの前半のみです。
冒頭のホルンは2本がユニゾンで吹きますが、トスカニーニの録音では恰も一人で吹いているかのよう。
トスカニーニは一般的にイン・テンポだと言われますが、第2楽章のクライマックスなどは正にその好例かもしれません。248小節の fff も、そのあとの全休符もほぼ一貫したテンポを維持しています。この辺りは、例えばフルトヴェングラーと比較すると素っ気ないと感じらる所以でしょうか。
この曲も①同様、オーケストレーションの加筆・変更等は認められません。これまたドイツ・オーストリア系の指揮者たちとは異なるところです。
参照楽譜
①ユニヴァーサル(フィルハーモニア) No.2
②オイレンブルク No.410
②シューベルト/交響曲第9番ハ長調「ザ・グレイト」
は1960年代に擬似ステレオとしてもリリースされましたね。当時流行の同種の擬似ステ盤とはちょっと違っていて、かなり豪華な装丁を施したボックス仕様でした。演奏は素晴らしく、最初のホルンから惹き付けられて全曲があっという間に終わった印象があります。思い出深い録音をご紹介くださり感謝申し上げます。