今日の1枚(228)

今年最初の音盤カテゴリーは、去年から引き続きNML配信で聴くEMIの「20世紀の偉大な指揮者たち」シリーズから、フリッツ・ライナーのアルバムを聴きましょう。
ライナーと言えばRCAに録音していたシカゴ交響楽団との名演が数多くあり、私もクラシック音楽入門時代にいろいろ聴いたものでした。特にレスピーギのローマの松・泉のLPは当時でも超ハイファイ録音で、学校から帰ると毎日の様に聴くのが一日の日課になっていたほどです。
ということで圧倒的にRCA録音が多いライナーですが、若い頃には他のレーベルとの録音もあって、EMIが選んだ最初の1枚はこんなラインナップです。

①ベートーヴェン/序曲「コリオラン」
②ブラームス/ピアノ協奏曲第2番
③モーツァルト/交響曲第36番
④メンデルスゾーン/劇付随音楽「真夏の夜の夢」~スケルツォ

①~③はシカゴ交響楽団との演奏で、②のソロはエミール・ギレリス。最後の④は珍しくフィラデルフィア管弦楽団を指揮した録音です。当配信にはデータが無いので、手持ちのCDや別資料を参考にすると、
①は1959年5月5日にシカゴのオーケストラ・ホールで収録されたステレオ録音。プロデューサーは Richard Mohr 、エンジニアが Lewis Layton で間違いないでしょう。LP盤が無いので確信はありませんが、同じベートーヴェンの第5交響曲とカップリングされていたと記憶します。BMGがリヴィング・ステレオをCD化したものが出ていますから、聴かれた方も多いでしょう。
ライナーらしく堂々とした演奏。彼は余りスコアに手を入れる人ではありませんでしたが、曲の最後、286小節の2拍目にティンパニを加えています。

②はBMGのリヴィング・ステレオ・シリーズではCD化されていなかったと思われる録音。1958年2月8日に収録されたステレオ盤で、ある資料によるとチェロのソロはヤーノシュ・シュタルケルとクレジットされていました。
ライナー/シカゴ響のブラームス第2ピアノ協奏曲と言えばヴァン・クライバーンとの1961年録音盤(こちらはシュタルケルじゃありません)が何度もリリースされてきましたが、ギレリスとの正規録音があったとは現在まで知りませんでした。ライナーは確かリヒテルとも第2を録音する筈でしたが、私の古い記憶では二人が対立、“あんな○○とは共演しない”とライナーがキャンセルし、結局ラインスドルフの指揮で録音されたのではなかったか知ら。
ギレリスはDGにヨッフム/ベルリン・フィルと録音した名盤がありますが、何故ライナーとのRCA盤がお蔵入り(? 私が知らなかっただけかナ)したのかは不明です。

今回初めて聴きましたが、音質も当時の最高クラス。何よりライナーとギレリスがガップリ四つに組んだブラームスは真に見事で、この曲の代表盤と言って良いでしょう。こういうものがNMLで聴けるとは何と贅沢な。

③はシカゴ響との演奏ですが、モノラル録音です。収録年は判りませんが、ライナーはシカゴ響とモーツァルトの交響曲では39・40・41番も録音しており、それらも全てモノラル時代のもの。三大交響曲は1955年の録音でしたから、恐らくリンツも同じ時期、モノラル録音最後期のものでしょう。
ライナーはシカゴに来る前のピッツバーグ時代、シカゴの初期には楽章の終わりにリタルダンドを掛ける癖があって、このリンツもそれが良く出た演奏になっているのが面白い所でしょう。特に第3楽章メヌエットでは、二度目の再現時のみ、最後から一つ前の楽章をピアノに落とし、最後の楽章でフォルテを強調しながらリタルダンドで終わるのは如何にも大時代的な感じがします。
更にケッサクなのは終楽章で、展開部に入ると(練習記号Eから)ファゴット、オーボエが次々と下降音形をカノン風に出して行きますが、これを引き継ぐヴィオラ→第2ヴァイオリン→第1ヴァイオリンを全てソロで弾かせているのです。次のチェロはテュッティのように聴こえますが、他の弦をトップ奏者だけに担当させているのは実に面白いアイデアだと感心してしまいました。何でもない個所ですが、ちゃんと聴いてみると意外な発見があるもの。

④も音質の良いモノラル録音で、③と同様にモノラル最後期の収録でしょう。WERMによるとロビン・フッド・デル管弦楽団という覆面オケとの録音とあり、ヴィクターの LM 1724 というLPで発売されたものかと思われます。
この盤は真夏の夜の夢の序曲、スケルツォ、間奏曲、夜想曲、結婚行進曲が含まれ、更にドビュッシーの小組曲とラヴェルのクープランの墓(これのみNBC響の演奏)が含まれる盛り沢山の内容でした。
ここではスケルツォだけが収録されていますが、聴いてみると真に巧い演奏で、確かにフィラデルフィア管なのでしょう、手兵だったシカゴ響より巧い。これはシカゴが下手という意味ではなく、フィラデルフィアが巧過ぎるという意味ですよ。

参照楽譜
①オイレンブルク No.626
②オイレンブルク No.715
③フィルハーモニア No.49
④ドーヴァー

 

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