今日の1枚(201)
コーツの2枚目は、前回のプロフィールで紹介したワーグナー作品を中心にした構成になっています。
①ワーグナー/歌劇「タンホイザー」序曲
②ワーグナー/楽劇「ラインの黄金」~神々のワルハラへの入城
③ワーグナー/楽劇「ワルキューレ」~魔の炎の音楽
④ワーグナー/楽劇「神々の黄昏」~夜明けとジークフリートのラインへの旅
⑤ワーグナー/楽劇「トリスタンとイゾルデ」第2幕~愛の二重唱
⑥フンパーディンク/歌劇「ヘンゼルとグレーテル」序曲
⑦R.シュトラウス/交響詩「死と変容」
1枚目と同じく、全てロンドン交響楽団の演奏とクレジットされています。
①は所謂ドレスデン版の序曲で、英HMVから D 1138/9 の2枚組4面に収められたもの。WERMではオケは単に交響楽団と表記されていました。273小節以降、Molto Vivace でやたらにテンポが速くなるのが特徴。
②は同じく D 1117 の品番で、これも交響楽団。ドンナーの呼びかけ以降を適宜カットしてSP1枚に纏めたもので、ラインの乙女たちのコーラスは木管楽器を遠くから響かせることで代用しています。ラインの黄金からは、コーツは他に前奏曲の録音もあって、こちらは D 1088 。
③は第3幕、オイレンブルク版1005ページの4小節目以降がカットなく収録されているもので、ヴォータンのパートは金管楽器(バス・トランペット?)で代用。SP盤は D 1797 。コーツはもちろん他にワルキューレの騎行も録音しています。
④も夜明けの部分とラインへの旅の部分を巧みに繋いだもので、終結部は賑々しく終わるフンパーディンク版ではなく、第1幕に pp のまま流れ込むエディションを使用。英HMVの初出は D 1777 で、これは①~③とは異なり最初からロンドン交響楽団の演奏と表記されていました。
なおコーツはジークフリートの葬送行進曲の録音もある他、この楽劇の全曲抜粋というものもあって、コリングウッド、ブレッヒ、ムックと分担し、楽劇全曲が揃うという歴史的なセットもあります。その中心となって最も多くの音楽を録音したのがコーツで、SP32枚組になる由。ショルティ以前の重要なワーグナー指揮者であったことがこれからも証明されます。
⑤はあらゆるワーグナー録音でも最も傑出した録音でしょう。第2幕の序奏部から始まり、トリスタンとイゾルデの登場から愛の二重唱を経て、第3場に突入するまでが、何処をどうカットしたのか判らないほど巧みに繋ぎ合わせて17分弱に纏めています。ワーグナーのスコアを隅々まで知り尽くしたコーツならではのアレンジでしょう。
歌はトリスタンがラウリッツ・メルヒオール Lauritz Melchior 、イゾルデがフリーダ・ライダー Frida Leider で当時の名ワーグナー歌手が聴けるのも魅力。初出SPについては該当する録音が見つかりませんでした。
⑥は英HMV D 1261 。これもオーケストラは単に交響楽団と表記されているもの。コーツは他に「夢のパントマイム」の音楽も録音していました。
最後の⑦は D 1525/7 の3枚組6面に収録されたもので、オケも最初からロンドン交響楽団と表記。変容の部分に入る所で鳴らされるドラが、まるで深い音のする鐘で演奏されているよう。あるいは鐘を使って録音されたのかも知れず、SP期を代表する音源と言えそうです。
以上コーツの指揮する伴奏物ではない録音を纏めて聴きましたが、改めてWERMを繰って見ると、ベートーヴェンのエロイカや第9の全曲盤も残している指揮者。ワーグナーの録音からも判るように、EMIが「偉大な指揮者」の一人に選んだ理由が判るような気がしました。
参照楽譜
①オイレンブルク No.903(歌劇全曲版)
②オイレンブルク No.907(歌劇全曲版)
③オイレンブルク No.908(歌劇全曲版)
④オイレンブルク No.910(歌劇全曲版)
⑤オイレンブルク No.905(歌劇全曲版)
⑥ショット 3423(歌劇全曲版)
⑦ペータース Nr.4192
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