日本フィル・第667回東京定期演奏会
1月30日は大寒の真っただ中、首都圏は暦通り朝から雪が舞い、今シーズン一番の寒さになっていました。
日本フィルの今年最初の定期、シーズンとしては前期の最終回の昨日は、そんな気候にピッタリの「シベリウス生誕150周年プログラム」。正にシベリウス日和でしょう。
グリーグ/ホルベルク組曲
モーツァルト/オーボエ協奏曲
~休憩~
シベリウス/交響曲第2番
指揮/小林研一郎
オーボエ/杉原由希子
コンサートマスター/扇谷泰朋
フォアシュピーラー/千葉清加
ソロ・チェロ/菊地知也
前半に置かれた2曲は小林研一郎にとっては比較的珍しい演目で、どちらも私は初めて耳にしたと思います。
冒頭のグリーグ、本来はピアノ曲で、グリーグ自身が弦楽合奏にアレンジしたもの。生誕200年記念に作曲したという作品のタイトルであるホルベルクは「デンマーク文学の父」と呼ばれ、時代的にはバッハと同じバロック時代の人です。
ですからグリーグは弦楽版のオーケストレーションではバロック期の組曲スタイルを強調し、特に最後の第5楽章ではコンチェルト・グロッソの書法を連想させますね。
これをコバケン氏がどう料理するかも興味の一つでしたが、やはり思った通りと言うか、こんなグリーグもありか、というのが正直な感想。
ホールに入って驚いたのは、通常は室内楽風なアンサンブルで「軽やかに」演奏するのが定番なのに、舞台一杯に広がっている椅子の位置。楽員が登場すると、何と16型のフル編成に改めて驚かされます。
当然演奏もそれを反映し、所謂ビッグバンドのグリーグになっていました。こういうスタイルのホルベルク組曲は初めて聴きました。CDではカラヤン/ベルリンによるものを聴いたことがありますが、ナマでは初体験。
加えて、ゆったりした第2楽章サラバンドと第4楽章アリアが北欧の爽やかな抒情というより、「艶歌」になってしまうのが如何にもコバケンらしいところ。
後で知ったことですが、当初は少ない弦で演奏する予定だったようですが、マエストロの一言“やっぱり大編成でやりましょう”、ということになったのだとか。残響時間の多いホールの特質も味方にし、朗々と響く弦楽合奏を楽しみました。模擬バロックというより、弦楽のための交響曲。
2曲目のモーツァルトは、個人的には最も楽しみにしていた作品。同じ材料によるフルート協奏曲の方が有名になってしまいましたが、実はこれがモーツァルトのオリジナルです。原曲のアレンジという意味では最初のグリーグとは逆で、プログラムの共通点としては面白い視点だと気が付きました。
ソロを吹く杉原由希子は日フィルのオーボエ首席で、このような形でソロを聴くのは私は初めて。日頃から美しいオーボエの音色に魅了されていましたが、彼女の音楽を楽しむ絶好のチャンスでしょう。私にとっては今日の一押し。
その期待は裏切られませんでした。流石にここでは弦のプルトをグッと落とし、コバケン/日フィルとしては意外なほどにスリムでスタイリッシュなモーツァルトでサポートします。譜面台は無く、ソリストはもちろん、指揮者も暗譜での演奏。
杉原の音は雑味が無く、ピュアな明るさを持った音色が魅力。それでいてオーケストラの全奏を突き抜けてくる強さもあり、今や日フィルの看板奏者の一人に成長してきました。
オーボエ協奏曲は三つの楽章全てにカデンツァがありますが(モーツァルトの自作は無い)、カデンツァで満席に近い聴衆が一斉に息を潜めてソロに聴き入る空気感はライヴならでは。この緊張感は録音では決して味わえません。カデンツァはこれまで流れていた時間がピタリ、と止まるような錯覚を味わえるのでした。
オケも仲間を支える暖かさに満ち、フィナーレのコーダでヴィオラがグイッと存在を主張する遊び心も垣間見せる素敵な協奏曲に120パーセントの満足感。
そしてメインのシベリウス。演奏後恒例のスピーチでマエストロが語ったように、シベリウスは日本フィルにとっては特別な存在。故渡邉暁雄氏が日比谷公会堂の創立演奏会で取り上げたのが第4交響曲でしたし、第1回定期演奏会もやはりシベリウスの第2交響曲がメインでした。
以来私の記憶に残っているものでも、タウノ・ハンニカイネン、パーヴォ・ベルクルンド、ネーメ・ヤルヴィ、オッコ・カム、そして現在のピエタリ・インキネンと綿々と受け継がれてきた北欧音楽のDNAが存在します。そうした積み重ねを踏まえた小林研一郎のシベリウス。これはこれで氏の「音楽」を十二分に盛り込んだ第2となりました。
一言で言えば、聴かずとも想像できるような「濃い」シベリウス。第3楽章からアタッカで流れ込む第4楽章の第1主題は、音を極限まで引き伸ばした上での突入。再現部も同じで、音符が一つ多いのじゃないかと錯覚するほど。
トランペット・ソロ(オットーの妙技)から始まる長いコーダの盛り上がり。チューバが加わる辺りから、コバケンの棒はリズムを刻まず右手を高く掲げて楽員を鼓舞するだけ。
恐らくリハーサルではもっとテンポは速かったのでは、と思われますが、コバケン氏は乗れば乗るほどテンポが遅く、フレーズの切れ目もコッテリしてくるタイプ。その意味でも予定演奏時間を大幅にオーバーしたことが、この日の演奏の全てを物語っていたと思います。
極めて熱いシベリウスを聴いた後では、外の空気に触れても「少しも寒くないわ」とジョークも出かかりましたが、ヤッパリ寒い。
日フィル東京定期のあとは馴染の中華料理店で空腹を満たし、有志が集まって情報交換というのが私共の習慣ですが、昨日は寒さもあってつい四川担担麺を注文してしまいましたわ。
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