2015桜花賞馬のプロフィール

今年もクラシック・ホースの血統観察を続けていきたいと思います。メインは英愛仏3か国のクラシック勝馬ですが、等しく日本の5大クラシック馬も取り上げていく積りで、例年通りです。

さて世界に先駆けて行われた2015年度クラシックの第一弾は桜花賞、5番人気の馬が勝ったわけですから決して波乱とまでは言えませんが、単勝1.6倍の支持を集めた「底知れない強さ」の本命馬が9着に敗退したショックはかなり大きかったと思われます。
ここではレースの評価などは一切せず、あくまでも勝馬の血統紹介が目的です。
日本で血統と言えばほとんどが父系に関する情報が主で、牝系については余り触れられないのが常。このブログでは逆に牝系が主体の話になりますが、競走馬は牝系が最も大事、というのが持論であるからでもあります。

桜花賞を逃げ切ったレッツゴードンキ(Let’s Go Donki)は父キングカメハメハ、母マルトク、母の父マーベラスサンデーという血統。牝系に入る前に父系についても簡単に触れておきましょう。
キングカメハメハに付いては紹介無用。ただこの馬の産駒が桜花賞を制したのは2010年のアパパネ以来のこと。2011年から去年まではディープインパクト産駒が4連覇していたわけですから、その5連勝を止めたということも注目点の一つ。
また母の母の父がジェイド・ロバリー Jade Robbery ということで、現代サラブレッド生産界を二分する勢力の一つであるミスター・プロスペクター Mr. Prospector の4×3という配合になっていることも取り上げるべきでしょう。かつてこの配合は、奇跡の血量などと呼ばれて持て囃されたものでした。

いよいよ牝系に入ります。
先ず、戦前の競走馬名を髣髴させるような名前も持つ母マルトク(2001年 栗毛)は、中央競馬で2歳から6歳まで走り、32戦5勝した馬。レッツゴードンキの調教師・梅田智之師の父である梅田康雄師が調教した馬で、勝鞍5勝は全て一般戦でした。
その内容をもう少し詳しく見ていくと、2歳時は京都のダート1200メートルで新馬勝ちし、2戦1勝。3歳時の成績が最も良く、11戦2勝2着3回1着1回で、勝鞍は8月小倉のダート1000メートルと10月京都のダート1200メートル。
4歳時は12月阪神のダート1200メートルに勝って6戦1勝2着1回。5歳時は7戦して勝鞍はありませんでしたが2着に3回、3着に1回。そして最後の現役となった6歳時にも6戦1勝3着1回、勝鞍は4月京都のダート1400メートルでした。
以上の戦績からは、ダートの短距離馬という特質が見えてきます。因みに特別競走は15戦し、3歳時に新涼特別(阪神ダート1200メートル)で2着したのが最高で、重賞競走の出走歴はありません。

2008年に繁殖入りしてからの成績を列記すると、
2009年 マルトクグレース 牝 栗毛 父キングヘイロー 未出走
2010年 マルトクスパート 牡 鹿毛 父アルデバランⅡ世 Aldebaran 中央と地方で34戦11勝 勝鞍は全て園田競馬場でのもの
2011年 ココナフレイバー 牝 鹿毛 父スウェプト・オーヴァーボード Swept Overboard 地方で8戦2勝 勝鞍は大井競馬場
2012年 レッツゴードンキ(当該馬)

つまりレッツゴードンキは4番仔で3頭目の勝馬ということになります。間違いなく現時点では兄弟姉妹の出世頭と言えるでしょう。

続いて2代母エリットビーナス(1996年 鹿毛 父ジェイド・ロバリー Jade Robbery)は中央競馬で3戦して未勝利に終わった馬。競走馬としては名前を残すことは出来ませんでしたが繁殖牝馬としては遥かに成功し、マルトクの他に3頭の勝馬を出しました。
即ち、マルトクの一つ上のスーパーボス(2000年 せん 青鹿毛 父フサイチコンコルド)は中央で34戦3勝、西脇特別(阪神ダート1800メートル)に優勝。
マルトクの一つ下の妹クイーンマルトク(2002年 牝 青毛 父マイネルラヴ)も中央で46戦3勝、特別ではSTV賞(札幌1200メートル)に勝っていますが、彼女は障害競走にも1戦(未勝利)した経験があります。
更に次の娘スーパーマルトク(2003年 牝 鹿毛 父アドマイヤボス)も勝馬で、やはり中央で29戦3勝、函館日刊スポーツ杯(函館1200メートル)を制しました。彼女の2番仔に当たるマルトクビクトリー(2012年 牝 鹿毛 父フレンチ・デピュティ French Deputy)はレッツゴードンキと同期で現時点では未勝利ですが、去年のフェニックス賞3着で小倉競馬場の掲示板に載っています。

エリットビーナスは初産駒から4年連続で勝馬を出しましたが、残念ながらその後は産駒に恵まれていません。勝馬4頭、うち3頭の牝馬の中から特別勝ちの無かったマルトクがクラシック馬を輩出したのですから、競走馬のエネルギーの不思議を感じてしまいます。

3代母に行きましょう。フリースピリット(1986年 鹿毛 父リアルシャダイ Real Shadai)も、娘エリットビーナス同様3戦未勝利だった馬で、12頭の産駒が出走し、半分の6頭が勝馬となりました。
その中で特別競走以上に勝ったのは、最後の産駒となったニューイチトク(2005年 牡 鹿毛 父サウスヴィグラス)だけ。中央で16戦4勝、舞鶴特別(京都ダート1800メートル)と白川郷ステークス(中京ダート1700メートル)に勝ったダートの中距離馬でした。
なお、フリースピリットの娘で中央1勝のレディフリージアが、荒尾ダービー3着のニシケンフロドという地方4勝馬を出していることを付け加えておきましょう。

3代母はこれくらいにして、レッツゴードンキの4代母ダイナフランダース(1979年 鹿毛 父ノーザン・テースト Northern Taste)を見ていきましょう。名前と父から判るように、この馬は社台牧場産で、そもそもこの牝系は吉田善哉氏がアメリカから輸入した牝馬を基礎として日本で枝葉を伸ばしてきたファミリーなのですね。
ダイナフランダースは中央で24戦6勝した強豪牝馬で、特別勝鞍は伏拝特別(福島1800メートル)、ルビー・ステークス(福島1800メートル)、みなみ北海道ステークス(函館2500メートル)、ブラッドストーン・ステークス(中山3200メートル)と4勝。中距離から初めて最後は2マイルを克服するステイヤーだったことに注目すべきでしょう。

ダイナフランダースには、調べた限りでは初産駒のフリースピリット以下8頭の産駒がありましたが、勝馬は僅かに3頭だけでした。しかし4番仔で最初の勝馬となったセンボンザクラ(1992年 牝 栗毛 父サクラユタカオー)は中央で31戦4勝、ローズマリー賞(福島1200メートル)、蔵王特別(福島1800メートル)、若水賞(中山ダート1200メートル)と特別競走にも3勝します。
しかしセンボンザクラが現在でも記憶されているのは、エリザベス女王杯(GⅠ)を制したクィーンスプマンテ(2004年 牝 栗毛 父ジャングルポケット)の母としてでしょう。クィーンスプマンテは他にもみなみ北海道ステークス(札幌2600メートル)、鳥屋野特別(新潟1800メートル)、八甲田特別(函館2600メートル)に勝った長距離馬で、22戦6勝の成績でした。これから繁殖牝馬としての活躍が期待される1頭でしょう。
更にセンボンザクラの初産駒モスフロックスからは、ベゴニア賞(東京1600メートル)に勝ってシンザン記念2着、鳴尾記念3着のドリームガードナーが出ていることも報告しておきます。

もう1頭、ダイナフランダース産駒では最後から2頭目のルーベンスメモリー(2000年 牡 鹿毛 父ジェニュイン)が40戦6勝、秩父特別(東京2000メートル)、幕張特別(中山2000メートル)、迎春ステークス(中山2500メートル)と中長距離の特別競走に3勝しています。

今年の桜花賞馬、5代母まで遡ると、社台ファームの基礎牝馬の1頭となったレディー・フランダース Lady Flanders (1969年 黒鹿毛 父チーフテン Chieftain)に辿り着きます。
レディー・フランダースは未出走でしたが、吉田善哉氏が日本に輸入。ダイナフランダース以外にも袖ヶ浦特別(中山ダート1200メートル)のダイナリーガル、札幌日経オープン(札幌1800メートル)など特別に4勝してクイーン・ステークスと中山記念で2着など重賞でも入着を果たしたレディゴシップを出しました。

レディゴシップからは、2代目に特別2勝のハイオン、地方の重賞に勝ったウルトラエナジーがあり、レディ・フランダースの別の娘シャダイチーフも特別勝のダイナタイフーンを出していますが、やはり日本におけるこの牝系で最も成功しているのが、レッツゴードンキに直接繋がるファミリーということになるでしょう。

レディー・フランダースの母モール・フランダース Moll Flanders からはメイトロン、スピナウェイのGⅠ戦に勝ってケンタッキー・オークス3着のミセス・ウォレン Mrs. Warren に繋がる牝系もありますし、
更に上のレジェンドラ Legendra まで遡れば、CCAオークスとデル・マー・オークスのレディー・オブ・シャムロック Lady of Shamrock を産む牝系、愛ダービーのシャリーフ・ダンサー Shareef Dancer や歴史的名牝ゼニヤッタ Zenyatta を輩出する牝系にも繋がることになります。
いずれにしてもレディー・フランダースを輸入した社台ファームの慧眼に脱帽すべきでしょう。

ファミリー・ナンバーは4-r。カブ・メア Cub Mare を基礎とする古い牝系で、このファミリーから出た桜花賞馬は、戦前輸入のソネラ系から出た1953年のカンセイに続く2頭目となります。

 

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