ニューバリーもトライアル
ニューマーケットのクラシック・トライアルが終わった翌々日、今度はニューバリー競馬場のトライアルが行われました。例年のように二つのギニー・トライアルに加え古馬の中長距離戦も加え、この日はG戦3鞍です。
馬場は good to firm と高速馬場で、これが結果にも左右したようです。最初はジョン・ポーター・ステークス John Porter S (GⅢ、4歳上、1マイル4ハロン5ヤード)、正式なレース名は変わっていますが、昔からこの名称で親しまれており、一般的にも以前のレース名で通っている一戦。
8頭が出走し、去年のダービー3着、セントレジャー2着のロムスダル Romsdal が13対8の1番人気。今期はケンプトンのポリトラック開催で既にリステッド戦に勝っており、叩かれた強みも人気の一因でしょう。
本命ロムスダルがスタートから主導権を握っての逃げ作戦ですが、残り2ハロンで2番手を追走していた5番人気(10対1)のピサーズ・ムーン Pether’s Moon と4番手に付けていた2番人気(11対4)のアラブ・スプリング Arab Spring が並んでスパート、本命馬を交わすと2頭の叩き合いとなり、アラブ・スプリングがピサーズ・ムーンに1馬身差を付けて優勝しました。4分の3馬身差でロムスダルは3着。
アラブ・スプリングはサー・マイケル・スタウト厩舎、ライアン・ムーアが騎乗した5歳馬で、これが未だ6戦目という如何にもスタウト師好みのタイプ。3歳時は僅か1戦して2着のみで、4歳初戦のケンプトンで初勝利を挙げたあとハンデ戦を3連勝。7月のニューマーケットでG戦(プリンセス・オブ・ウェールズ・ステークスGⅡ)に初挑戦して4着しましたが、以後はレースを使わず今回が長期休養明けだったもの。
スタウト師はジョン・ポーターは6勝目。アラブ・スプリングは未だ馬自体が若く、今期は2000メートルから2400メートルのG戦で大きな可能性を試すことになりそうです。
続いては1000ギニーのトライアルとなるフレッド・ダーリング・ステークス(GⅢ、3歳牝、7ハロン)。2頭の取り消しがありましたが11頭と多頭数。G戦勝は2頭というバラつきのあるレヴェルで、去年ラウザー・ステークス(GⅡ)とチーヴリー・パーク・ステークスに勝っているティッギー・ウィッギー Tiggy Wiggy の実績が断然勝って11対10の1番人気。2歳時に8戦(6勝)も経験している使われ過ぎと距離不安が資格ですが、7ハロンなら克服できるというのがファンの評価です。
3番人気(12対1)のレッドスタート Redstart が逃げ、ティッギー・ウィッギーはスタミナを温存すべく2番手で大事にパワーを貯める流れ。しかしいざ勝負所で追い出してみると、やはり瞬発力は不発、結局はレッドスタートに逃げ切られてしまいました。後方から追い込んだ2番人気(11対4)のジェリクル・ボール Jellicle Ball が逃げ馬に4分の3馬身まで迫って2着に入り、ティッギー・ウィッギーは更に1馬身4分の3差離されての3着。人気上位3頭で決まったのですから順当とも言えましょうが、やはり波乱の印象は拭えません。
勝ったレッドスタートはラルフ・ベケット厩舎、パット・ダブス騎乗。去年はレスターのデビュー戦2着のあとケンプトンの7ハロン(ポリトラック)で初勝利。シーズンオフを挟んでこれが3戦目となります。師が明かした所では、事前の調教は余り動きが良くなかったので3歳デビューはもう少し先延ばしするようオーナーに進言したそうですが、オーナーの強い意志で出走に舵を切った由。
陣営では当初ドイツ1000ギニーにでも挑戦する計画だったようですが、この勝利でニューマーケット挑戦にも本気になってきた様子。英1000ギニーにも登録があり、オッズはレース前の66対1から一気に16対1に上がりました。父が英愛2000ギニーを連覇したコックニー・レベル Cockney Rebel だけに、血統的裏付けも充分と言えそうです。
一方敗れたティッギー・ウィッギーのリチャード・ハノン師も落胆はしておらず、敗因は距離よりシーズン初戦と考えているよう。このまま1000ギニーに向かい、そこで距離をステイ出来なかった時には、アスコットでは6ハロン戦を目指すとのこと。本当の評価が出るのは本番の結果次第ということになりそうですね。
ニューバリーの最後は、近年パコ・ボーイ Paco Boy 、フランケル Frankel 、オリンピック・グローリー Olympic Glory 、去年のキングマン Kingman と、後のGⅠホースを続出させているグリーナム・ステークス Greenham S (GⅢ、3歳、7ハロン)。今年も9頭が参戦し、何と既にG戦に勝っているのが6頭、残る3頭の内2頭は無敗馬というレヴェルの高さで、先日のクレイヴァン・ステークスより遥かに大きな注目が集まっていました。
その中で13対8の1番人気に支持されたのは、ジュライ・ステークスとリッチモンド・ステークス勝馬でミドル・パーク・ステークス2着のアイヴァウッド Ivawood 。9対2の2番人気がサパラティヴ・ステークスとシャンペン・ステークスの覇者でデューハースト・ステークス4着のエスティドカー Estidhkaar 、この2頭は何れもリチャード・ハノン厩舎のギニー候補です。GⅠのデューハーストを制したベラード Belardo が何とか3番人気(7対1)というのもレヴェルの高さを証明しているようだし、オブライエン厩舎が送りこんだムーア騎乗でフェニックス・ステークス勝馬のディック・ウィッティントン Dick Whittington も4番人気(8対1)という具合。
レースはポール・ハナガン騎乗のエスティドカーが積極的に前に出、これにミル・リーフ・ステークスの勝馬で6番人気(10対1)のトゥークールフォースクール Toocoolforschool が並び掛ける強いペース。アイヴァウッドはこの2頭をピタリとマークして抜け出しを図りましたが、これらを前に置いて待機したブービー人気(16対1)のムハーラー Muhaarar が早目に抜け出して先頭。一旦は交わされたエスティドカーが再び差し返してスリリングな叩き合い。最後はムハーラーがエスティドカーを首差抑えての逆転劇となりました。3着は4馬身半差離されて本命アイヴァウッドが粘り、ディック・ウィッティントン4着、トゥークールフォースクールが4着。ベラードは精彩を欠いて8着惨敗に終わっています。勝ち時計は1分20秒80とコース・レコード更新、馬場の固さとペースの強さを証明しました。
チャーリー・ヒルズ厩舎、フランキー・デットーリが騎乗したムハーラーは、人気こそ8番手でしたが、この馬もジムクラック・ステークスに勝ってミドル・パークは3着だったG馬6重奏の一角。ドンカスターで新馬勝ちしたあとジュライ・ステークス3着。続くリステッド戦も3着に終わりましたが、ジムクラックを制してG戦のタイトルを手にしていました。ヒルズ師はやや距離不安を抱えていたようですが、この勝利で2000ギニーのオッズは40対1から12対1に急上昇。デットーリ騎手は仏2000ギニーの方が適しているという判断ですが、ヒルズ師はもちろんニューマーケットに意欲。いずれにしても最終決定はオーナーのシェイク・ハムダンが下すことになります。
2・3着馬を管理するリチャード・ハノン師もこの結果は失望からは遠いもので、特に先行して2枚腰を発揮したエスティドカーには自信を深めた様子。理想的な形でトライアルを越えたのは間違いなく、オッズも勝馬と同じ12対1(20対1から)が出されました。
一方ベラードを管理するロジャー・ヴァリアン師は、レコードが出る様な馬場を敗因に挙げています。この敗戦で2000ギニーを取り消すことはありませんが、馬場状態が「良」なら出走させないと明言しています。もっと柔らかい馬場での捲土重来を期す構え。
この日ハットトリックを達成したデットーリ騎手ですが、ムハーラーでのムチ過剰使用のルールで2日間の騎乗停止を喰らいました。期間は5月4日と5日ということでギニー開催はセーフ、今年のギニーでも得意のフライング・ディスマウントが見られるか・・・。
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