将来のチャンピオンを探すニューマーケットの旅

凱旋門賞から2週間、ヨーロッパ競馬は今年最後の盛り上がりを見せます。競馬の発祥国イギリスが面子をかけた二日間、ニューマーケットとアスコットという二大舞台でのGⅠ戦6連発。
ここ数年秋開催の再編が進んできた英国競馬でしたが、恐らく今年のスタイルが最終的な着地点になるものと思われます。即ち、10月第3週にニューマーケットとアスコットで連日大きなフェスティヴァルを催すというもの。私が旅行会社の企画担当なら躊躇うことなく「秋の英国競馬巡り」というツアーを提案しますね。競馬と競り、牧場巡りを盛り込めば、本場の競馬を満喫する旅になること間違いなしですわ。

ということで、10月17日の金曜日はニューマーケット競馬場でのG戦6連戦。一日7レースでしたから、第2レースから最終までは全てG戦ということになります。主に来年のクラシックを闘う馬たちの試金石となるレースが続きました。
馬場はこの時期らしく soft 、最初はコーンウォーリス・ステークス Cornwallis S (GⅢ、2歳、5ハロン)。去年までは10月初めにアスコット競馬場で行われていたものですが、今年から舞台をニューマーケットに転じ、同じ2歳戦と同日開催。こちらは5ハロンということで、クラシックよりは短距離路線に進む馬たちが出走してきました。
12頭立て、人気は割れ、3頭が9対2の1番人気に並びました。即ち、ロベール・パパン賞2着、ミル・リーフ・ステークス4着とG戦で好走してきたストラス・バーン Struth Barn 、ヨークのリステッド戦2着が目を惹いたムーンレイカー Moonraker 、それに既に3勝しているスクワッツ Squats の3頭です。

中でも実績は最上位と思われたストラス・バーンが逃げ切り策に出ましたが、馬場の中央を先行していた9番人気(16対1)の伏兵ロイヤル・ラザルマ Royal Razalma がストラス・バーンを1馬身半差し切っての番狂わせ。首差で珍しくスウェーデンから遠征してきた5番人気(15対2)のヴォラタイル Volatile が3着に入りました。スクワッツは4着、ムーンレイカーは10着敗退。
ジョナサン・ポートマン厩舎、リチャード・キングスコート騎乗のロイヤル・ラザルマは、3戦目にグッドウッドで初勝利。そのあとソールズベリーとエアのGⅢ戦で夫々5・4着と続けてきた馬。父がフランスの2冠馬ロぺ・デ・ヴェーガ Lope de Vega という点を記憶しておいてください。

続いてが2歳GⅠ戦の第一弾、ミドル・パーク・ステークス Middle Park S (GⅠ、2歳牡、6ハロン)。1頭が取り消して6頭立て。ここは3戦無敗、ジュライ・ステークスとリッチモンド・ステークスでGⅡに2勝しているアイヴァウッド Ivawood が1対2の断然1番人気。
レースは3番人気(8対1)でジムクラック・ステークス(GⅡ)勝馬のムハーラー Muhaarar が先手を取っての逃げ。アイヴァウッドも好位からスパートしましたが、これまでの瞬発力は見られず、馬場の中央を先行していたブービー人気(22対1)のチャーミング・ソート Charming Thought との一騎打ちとなり、結局は伏兵がハナ差大本命を抑えての逆転劇。ムハーラーは1馬身4分の1差で3着に粘っていました。以下2番人気(6対1)でアイルランドのGⅢ馬カペラ・サンセヴェーロ Cappella Sansevero 4着、モルニー賞(GⅠ)馬クール・カンパニー Kool Kompany が5着。

チャーミング・ソートはゴドルフィンの期待馬で、意外にも今シーズンはゴドルフィンにとってGⅠ初勝利。今年からゴドルフィンの調教師に抜擢されているチャーリー・アップルビー師にとっても勿論GⅠは初勝利で、ウイリアム・ビュイックが騎乗していました。ノッティンガムのデビュー戦は2着でしたが、そのあとリングフィールド、レスターと一般戦に連勝、3連勝でG戦も初勝利となります。
陣営はこのレースに追加登録料を支払っての参戦。血統的にやや疑問は残りますが、良馬場なら1マイルまでは克服できそうとの見解です。2000ギニーのオッズは16対1が出されました。
一方2000ギニーの有力候補と見做されていたアイヴァウッドは、やはり重馬場が瞬発力を殺いだとの考えで、来年のギニーを目指す計画には変更ありません。ただオッズはレース前の7対1から12対1へと下降してしまいました。

続いてはフィリーズ・マイル Fillies Mile (GⅠ、2歳牝、1マイル)。去年までは9月開催で行われていたものですが、ここまで遅らせての編成です。7頭が出走、ここ3年連続でこのレースを制しているゴドルフィンが3頭出しで臨みましたが、中でもアイルランド(ジム・ボルジャー厩舎)で調教されているロックフェル・ステークス(GⅡ)勝馬のルシーダ Lucida が6対5の1番人気。
前走ニューバリーのリステッド戦を逃げ切った2番人気(10対3)のマーシュ・ホーク Marsh Hawk が今回も逃げ、これをゴドルフィンの3騎が追走する展開。本命ルシーダが逃げ馬を捉えに掛かった時、両馬は接触するアクシデントで後退すると、ルシーダの外を先行していた4番人気(7対1)のトゥギャザー・フォーエヴァー Together Forever が抜け出し、後方から追い込むメイ・ヒル・ステークス(GⅡ)勝馬で3番人気(5対1)のアグネス・スチュアート Agnes Stewart を半馬身抑えて又しても番狂わせ。ハナ差でゴドルフィンのブービー人気(20対1)ウインターズ・ムーン Winters Moon が3着という波乱になりました。アクシデントがあったとはいえ、ルシーダは5着敗退。

勝ったトゥギャザー・フォーレヴァーは、アイルランドのエイダン・オブライエン厩舎、ジョセフ・オブライエン騎乗の親子コンビ。4戦目にゴウランで初勝利を挙げ、僅か五日前に重馬場のカラーでリステッド戦に連勝したばかり。レース後の状態が極めて良く、ここに使ってきた由。これで6戦も消化したことになり、やや使い過ぎの印象もありますが、オブライエン師はギニーからオークスまで行ける器と踏んでいるガリレオ Galileo の娘。1000ギニーには16対1のオッズが提示されました。
ただオブライエン厩舎には、先日マルセル・ブーサック賞を制したファウンド Found がおり、トゥギャザー・フォーエヴァーは2戦目でファウンドには負けていた馬。持ち駒豊富な陣営にあって、主役に躍り出るのは更に実績を重ねる必要があると思います。

GⅠ3連発のトリは、もちろんデューハースト・ステークス Dewhurst S (GⅠ、2歳牡牝、7ハロン)。1頭が取り消して4頭立て。シャンペン・ステークス(GⅡ)を制しているエスティドカー Estidhkaar が11対8の1番人気、ここ4年で1番人気が3勝している本命馬が強いレースでもあります。
しかしここでも結果は波乱。4番人気(7対1)のコーディ・ベアー Kodi Bear が逃げ、エスティドカーはスタートから行き脚が付かず、付いていくのに精一杯の不安な流れ。結局先行していた最低人気(10対1)のベラード Belardo が抜け、逃げたコーディ・ベアーに2馬身差を付ける大波乱。更に2馬身半差で2番人気(7対2)のスマッグラーズ・コーヴ Smuggler’s Cove が3着に入り、エスティドカーは4着まで。

ロジャー・ヴァリアン厩舎、アンドレア・アトゼニ騎乗のベラードは、ヤーマスでデビュー勝ち。ジュライ・ステークス(GⅡ)4着のあとニューバリーのリステッド戦で2勝目を挙げましたが、前走ドンカスターのシャンペン・ステークス(GⅡ)ではエスティドカーの4着に敗れ、G戦はやや荷が重いと評価されていた馬。今年のデューハーストはレヴェルに疑問符が付く結果となりました。
それでも2000ギニーは33対1のオッズで初登場。GⅡ以下ではGⅠ勝ちのペナルティーを背負うことになりますから、苦戦は強いられそう。ここで思い出してもらいたいのが、同馬もコーンウォリスに勝ったロイヤル・ラザルマと同じロぺ・デ・ヴェーガ産駒であること。この父馬に付いては、2010年のクラシック馬のプルフィール(3)で詳しく紹介しています。そちらも参考に。

この日の第6レースはチャレンジ・ステークス Challenge S (GⅡ、3歳上、7ハロン)。取り消しが1頭あり13頭立て。人気は2頭が1番人気(7対2)で並び、ペナルティーを背負いながらも前走ハンガーフォード・ステークス(GⅡ)に勝ったブレトン・ロック Breton Rock と、仏愛1000ギニー出走経験(夫々8・11着)があり前走カラーのリステッド戦に勝っているアル・サキーラ Al Thakhira 。
ハイランド・コロリ Highland Colori の逃げ、後方を進んだ4番人気(8対1)のヒア・カムズ・ウェン Here Comes When が7番人気(14対1)のケーブル・ベイ Cable Bay に1馬身差を付け、これも波乱の結末。頭差でブレトン・ロックが3着に入り、人気の一角アル・サキーラは5着。

アンドリュー・ボールディング厩舎、ジム・クロウリー騎乗のヒア・カムズ・ウェンは、前々走ロイヤル・アスコットのロイヤル・ハント・カップ(伝統的ハンデ戦)こそ着外に終わったものの、前走はドイツでGⅢ(エッティンゲン・レンネン)に勝っており、G戦2連勝となります。

そして最後はダーレー・ステークス Darley s (GⅢ、3歳上、1マイル1ハロン)。ここも13頭と多頭数が揃い、前走ニューバリーの重馬場で行われたハンデ戦に勝った上がり馬エア・パイロット Air Pilot が11対4の1番人気。
オーシャン・テンペスト Ocean Tempest が逃げ、これを後方から一気に追い込んだ9番人気(20対1)のバークシャー Berkshire が2番人気(11対2)のムタカイェフ Mutakayyef に半馬身差を付けて止めの番狂わせ。首差でエア・パイロットは3着と、この日は1番人気馬全敗の一日となってしまいました。3歳馬は2頭しか出走していませんでしたが、終わって見れば3歳のワン・ツー・フィニッシュです。

ポール・コール厩舎、ジム・クロウリー騎乗のバークシャー、実は去年ロイヤル・ロッジ・ステークス(GⅡ)に勝っていた実力馬。今期はグリーナム・ステークス(GⅢ)9着で体調を崩し、ここまで長期休養を余儀なくされていた3歳馬で、久々の実戦を格上で制した印象です。クロウリー騎手は、チャレンジ・ステークスのヒア・カムズ・ウェンに続き連勝でG戦ダブル達成。

以上、本命馬にとっては散々なニューマーケットとなりましたが、馬場が重くなり、夏場の成績が反映されなかったのが原因でしょうか。明日のアスコット、チャンピオンズ・デイもお楽しみに・・・。

 

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