第638回都響定期

昨日は東京都響の定期を聴いてきました。上野の東京文化会館。曲目は次のものです。

松村貞三/管弦楽のための前奏曲
松村貞三/ピアノ協奏曲第1番
~休憩~
ミヨー/ディヴェルティメント「ケンタッキアーナ」作品287
オネゲル/交響曲第5番「三つのレ」
指揮/下野竜也
ピアノ/野平一郎
コンサートマスター/山本友重

プレトークがあるというので、やや急ぎ足で会場に向うと、丁度コンサートをプロデュースしている別宮貞雄氏がゆるゆると登場された所。選曲の意図などを語り始められたけれど、いつの間にかバルトークの話になっています。話が佳境に入りかかった所で、事務局と思われる男性が氏にメモを渡しました。
“エッ、バルトークは来週か。今日はミヨーとオネゲルの日だっけ、間違えちゃった”という具合。客席から拍手が起きたりして、話は全てリセット。時間が押せ押せになって、結局5分ほど遅れての開始と相成りました。

しかし話は面白いものでした。別宮氏はそもそもミヨーの弟子でしたから、氏でなければ語れないような内容のもので、貴重な体験でしたね。
ここに内容を書くわけにはいかないけれど、プログラムにも概要が記載されていますし、都響のホームページにも指揮者との対話の形で抄録されています。興味ある方はそちらを。

改めて座席を見ると、1階10列22番、随分良い席です。定期会員でもないし、そんなに早くチケットを手配したわけでもないのに何故でしょうか。見回せばかなり空席が目立ちます。さすがの都響でもこういうプログラムでは人が入らないのでしょうかねぇ。
思えばここで本格的なオーケストラを聴くのは随分久し振りのような気がします。オペラでは時々来るけれども。

その久し振りのオーケストラ・サウンド、素晴らしかった。響きはクールだけれど、サントリーホールのように濁らないし、オーチャードホールのようにもやもやしない。川崎のミューザを除けば、首都圏では最高クラスの響きですね。何よりもバランスが抜群です。
尤も席が良いということもあるのでしょうが、曲が進むに連れて昔ここで聴いた名シーンのいくつかを思い出してしまいました。
ここで定期演奏会を開いているのは都響だけなんですかね。何とも勿体無いことです。

この日の演目は、オネゲルを除いては知らないものばかり。しかしながら作品の質はどれも高いもので、退屈するような場面はありませんでした。それでも周りから鼾らしきものが聞こえてきたのには苦笑。全体に聴衆の高齢化も進んでいるのでしょう。拍手は良かったですよ。フライングなど一切なし。尤もどこが終わりなのか判らない作品ばかりでしたからね。

私はオネゲルが目当てで出掛けたのですが、最も感動的だったのは松村作品です。特に最初の前奏曲は、オーケストラの充実した響きも相俟って、実に感動的な20分でした。

ピアノ協奏曲も、別宮氏によれば、ゲルギエフが夢中になっているというだけあって、日本生まれの世界的傑作と断じて良いでしょう。真摯にして本格的な音楽、推進力に富んだ名曲です。野平氏も好演、客席の松村氏にも大喝采が贈られました。
別宮氏の意図は優れた作品の再演にあると思いますが、その意味でも優れた企画。「再演」の大切さをしみじみと感じました。私は初演などは聴いておりませんが、繰り返し演奏されることで作品自身が成長し、より主張も明確になってきますね。オーケストラ自体も、初演当時とは比べもののないくらいレヴェルが高くなっているはずです。

ミヨーは名前すら聞いたことのない作品ですが、弦は10型の小振りなもので、アメリカ民謡が20曲も引用されている由。どれも知らない民謡ですが、ミヨーらしい楽観的な音楽で、オネゲルとは好対称です。
(ミヨーとオネゲルは同い年。子供の頃から仲が良く、お互いに尊敬し合っていたのだそうです。しかし両者には夫々取り巻きがいて、その取り巻き連中が酷く仲が悪かった、とは別宮氏の話。ミヨーはワーグナーが大嫌いだったというのは頷けますね)

期待のオネゲルも同じ。何故最近は無視されてしまったのか。今回久し振りに聴いてみて、改めて大傑作であることが確認出来ましたね。

各楽章の最後に登場するティンパニ。楽譜にはアドリブという指示があります。つまりティンパニを使わなくても良いのですが、この日はそれを逆手に取ったのか、ティンパニを舞台上手、コントラバスの手前に出して叩かせていました。たった三発ですが。面白いアイディアです。

ただ、この曲にはもっと厳しい解釈、というかスケールの大きさを求めたくなりましたが、今の下野クンにそれを求めるのは酷でしょう。いずれにしても、もっと頻繁に演奏されるべき名曲です。

なお、このコンサートは「日本管弦楽曲の名曲とその源流」と題したシリーズの一環で、去年から始められているようです。

第1回 2006年1月19日 指揮/若杉弘
別宮貞雄/交響曲第2番「メシアンに捧ぐ」
別宮貞雄/チェロ協奏曲「秋」(向山佳絵子)
メシアン/微笑み
メシアン/キリストの昇天

第2回 2006年1月24日 指揮/湯浅卓雄
芥川也寸志/弦楽のための三楽章
芥川也寸志/チェロと管弦楽のためのコンチェルトオスティナート(山崎伸子)
プロコフィエフ/交響曲第6番

第3回がこの日。第4回は来週、高関氏の指揮で間宮、小倉とバルトークが演奏されます。更に来年は沼尻氏で武満とべリオ、若杉氏で三善とデュティユー、ブーレーズが取り上げられる予定です。
長く定着して欲しいシリーズですし、出来る限り聴き続けたいと思っています。

 

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