日本フィル・第311回横浜定期演奏会

11月の日本フィルは首席指揮者ラザレフの指揮。東京ではショスタコーヴィチの交響曲シリーズに取り組んでいるマエストロですが、横浜ではずっと親しみ易い作品を取り上げています。
特にロシア音楽に拘らないのが横浜のプログラミングですが、今回も序曲→協奏曲→交響曲という極めてオーソドックスな編成で楽しませてくれました。その選曲は、

ブラームス/大学祝典序曲
リスト/ピアノ協奏曲第1番
     ~休憩~
ボロディン/交響曲第2番
 指揮/アレクサンドル・ラザレフ
 ピアノ/小川典子
 コンサートマスター/扇谷泰朋
 フォアシュピーラー/千葉清加
 ソロ・チェロ/菊地知也

横浜では開演に先立ってプレトークが行われるのが目玉。今期からは客席で聞くことができますし、開場時間も5時10分と早くなりました。前回はウッカリしてプレトークの前半を聞き逃しましたっけ。
で、今回は間違えないように早目に家を出、10分には入場して奥田佳道氏の解説を楽しみます。

毎回プログラムには書いていないことを紹介するのが奥田氏の解説。今回はボロディンとリストの(一般には)知られざる逸話が中心でした。それによれば、ボロディンはリストを訪問したことがあり、二人でボロディンの新作交響曲(今回の第2番の可能性もあり)をピアノ連弾したそうな。
この時にリストはボロディンに、批評家や先生の余計な批評を気にしないように、とアドバイスしたとか。リストの偉大さは、後進の逸材を多数育てたことにあるのかも知れません。

またボロディンの訪独は音楽家としてではなく科学者としての旅で、弟子の科学者をドイツの権威筋に紹介するのが目的だったそうな。アマチュア音楽家としてのボロディンを知る実に興味深い話題でした。
奥田氏の推測では、ラザレフは最初にボロディンの2番を決め、ボロディンならリストの協奏曲という連想が働いたはず。更にリストの協奏曲なら小川典子意外に無いでしょ、という二人の絆から今回のプログラムに決まったのではないかとのことでした。

これを前置きに、ラザレフの相変わらず豪快な演奏に突入。冒頭のブラームスから一切のセンチメントを排し、堂々たるシンフォニックな構築性で客席を唸らせます。
今回の3曲、実はピッコロとトライアングルという通常のオーケストラでは珍しい(そうでもないか?)楽器が登場するのも共通点でしょう。

そのリスト、これはもう小川典子とラザレフの激突、というか競演が実にスリリング。両横綱がガチンコでぶつかる力相撲を連想させました。バックのオケを圧倒せんばかりのピアノのダイナミズムは流石に小川、ビンビンと響くスタインウェイの超低音に酔い痴れる圧倒的な20分でしたね。
盛大な拍手が長々と続きましたが、今回はアンコール無し。第1協奏曲のあとでは何を弾いても蛇足になるでしょう。

リストが「トライアングル協奏曲」だとすれば、ラザレフのボロディンは「ティンパニ交響曲」と呼んでも良いほど。第1音からして気迫に満ちた和音が響きましたが、その後のティンパニの打ち込みは尋常ではない迫力。
今回の奏者はゲストだと思いますが(最近の日フィルには度々登場する外人奏者)、もちろんラザレフの指示でしょう、技術と共にパワフルな音色が正にボロディンにはピタリ。その後の楽章でもティンパニに釘付けになってしまいました。

ボロディンの第2は、私の知る限りでは二通りのスタイルがあって、一つはフランス系の洒落てエレガントな演奏。もう一つはロシア系の土臭さが特徴ですが、ラザレフはどちらとも違う独特なもの。
マエストロの自信に満ち溢れた第2交響曲を聴いていると、これ以外には考えられないほどに説得力に満ちたボロディンと化してしまうのでした。相変わらずの速いテンポで4楽章はアッという間。

プレトークでも暗示されましたが、ブラームスのみに登場していた第3トランペットが登場し、アンコールはハチャトゥリアンの「ガイーヌ」からレズギンカ。
冒頭の太鼓(tamburo militaire)に合わせてラザレフが首だけを横に振るパフォーマンスに客席は大爆笑。豪快なレズギンカを初めて聴いた方は、恐らく度肝を抜かれたことでしょう。演奏後の作品名を掲示したボードには、写真に収める人集りも。

予想はしていても、やっぱりラザレフは只者ではない。どちらかと言えば聞古された作品たちでしたが、どれも初めて聴いたような新鮮さに満ちていました。
このプログラムは、翌日サントリーホールの名曲コンサートでも再演されます。東京のファンは是非こちらで・・・。

 

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