日本フィル・第281回横浜定期演奏会

この頃はスッカリ出不精になって、中々演奏会に出掛ける機会の無いメリーウイロウです。定期会員としてチケットが回ってくる回を除き、態々予定をチェックしてチケットを取るという行為そのものが面倒になっている「今日この頃」というワケ。
ということで10月の演奏会はたった3回しか予定に入っていません。その貴重な機会の一つが昨日の日フィル横浜定期でした。これぞ秋! という絶好の日和の中、みなとみらいコンサートホールに向かいます。

リスト/交響詩「プロメテウス」
メンデルスゾーン/ヴァイオリン協奏曲
     ~休憩~
プロコフィエフ/バレエ音楽「ロメオとジュリエット」抜粋
 指揮/アレクサンドル・ラザレフ
 ヴァイオリン/ノエ・乾
 コンサートマスター/扇谷泰朋
 フォアシュピーラー/江口有香
 ソロ・チェロ/菊地知也

横浜定期で聴き逃せないのがこれ。というより、ラザレフが何度か登場してくれるからこその横浜。人気の高いマエストロだけに、1回券では良席が入手できないのが現実。会員として席を確保しておく理由もそこにあります。
メインのプロコフィエフは、あの3・11当日と翌日に演奏された作品。私は辛うじて二日目を聴きましたが、あの時はラザレフ自身が腰を痛めており、ストールに座っての痛々しい指揮でした。事情が事情だけに、マエストロにとっても私にしてもリヴェンジの選曲です。

今回の幕開けは、リストの馴染の無い交響詩。リストの交響詩と言えば「前奏曲」の独り勝ち状態で、13曲ある当ジャンルで時々掛かるのがオルフェウスとマゼッパというのが現状でしょう。私もプロメテウスはナマでは初体験です。記録を紐解いても、1979年に東フィルがウリ・セガル指揮で取り上げたのがプロ・オケ定期での初演で、それ以外のデータは見当たりませんでした。
日フィルのプログラムは全てラザレフが持ってきたもの、この曲を頻繁に取り上げているのかどうかは判りませんが、実際に聴いてみると如何にもラザレフの演奏スタイルにピッタリの推進力に満ちた音楽。戦いをイメージしたパッセージとフーガ風展開、ホルンの刻みに手に汗を握ります。
先月の横浜定期にあったベートーヴェンのプロメテウスに引っかけたような選曲は偶然でしょう。

続いてはメンデルスゾーンの余りにも有名なヴァイオリン協奏曲。横浜ならではでしょう。ソロのノエ・乾(のえ・いぬい)という若手はギリシャ人の母と日本人の父の間に生まれた(1985年生まれ)27歳。使用するのはトマゾ・バレストリエリという18世紀の楽器だそうで、繊細な中にもホールの遠くまで良く響く楽器でした。
演奏も端正で好感が持てましたが、驚いたのはラザレフの伴奏指揮。普段耳にするような初々しいロマン派の響きとは一線を画すもので、鳴るは鳴るは。ソロが休む場面でオケが強奏する場面では弦もボウを一杯に使用し、恰もシンフォニーの様な響きを現出するのでした。こんなメンコンは、正直初めてです。

ノエ君のアンコールはパガニーニ、24のカプリースから最後の24番が弾かれました。ワォ~!

そしてメイン。1年7か月前の日記を読み返しましたが、あの状況で感想はほとんど無し。取り上げられたナンバーについても書洩らしていました。改めて、どんな場合でも演奏された作品の詳細はキチンと残しておかなければならないと反省した次第。
その時の演奏はCD化されており、今回と全く同じ内容であることが確認できます。改めて演奏されたナンバーを曲順に列記すると、以下の10曲。
1.「モンタギュー家とキャプュレット家」(第2組曲第1曲)
2.「少女ジュリエット」(第2組曲第2曲)
3.「ローレンス神父」(第2組曲第3曲)
4.「ダンス」(第2組曲第4曲)
5.「別れの前のロメオとジュリエット」(第2組曲第5曲)
6.「情景」(第1組曲第2曲)
7.「ジュリエットの墓の前のロメオ」(第2組曲第7曲)
8.「アンティルから来た少女たちの踊り」(第2組曲第6曲)
9.「仮面」(第1組曲第5曲)
10.「ティボルトの死」(第1組曲第7曲)

前回の録音とを比較する余裕はありませんが、手術から全快したラザレフの棒は絶好調。楽員に少しは体調が悪い方が助かるとまで嘆かせた徹底したリハーサルで、オケの能力を200%も引き出すのでした。
これまた並みの演奏で聴くロミジュリとは大違い。極端に大きいダイナミックスと、スコアのどんな細部も疎かにしない読みで聴き手を圧倒します。客席にも、グラズノフでは生じた曲間の拍手も出来ないほどの緊迫感が支配します。

例えば「別れの前のロメオとジュリエット」での繊細な弱音トレモロとホルンの壮大な歌。「モンタギュー家とキャプュレット家」の ff と ppp の落差、それに続く舞曲のアグレッシヴなまでの弦の弓使い。「ティボルトの死」の最後では二人に増員したシンバルの痛撃で、何処までもエスカレートするクライマックス。
何処を取っても、この表現はマエストロのハッタリに非ず。あくまでもプロコフィエフの音楽に忠実であろうとする、誠実な音楽家の姿勢から生まれてくる説得力に裏打ちされているのです。

前回のアンコールは古典交響曲のメヌエットでしたが、今回は同じプロコフィエフのシンデレラから有名なワルツ。弦のうねりが魅惑的な一品。

ところでマエストロ、来週の東京定期を振り終えた後は京都に遠征、初めて京都市響の定期に登場します。チャイコフスキーの弦楽セレナーデと第5交響曲という二本立てですが、何とリハーサルは4日間を抑えてあるとか。
恐らく京響がこれほどの徹底したリハ(シゴキと訳すべきか)を体験するのは楽団創設以来初めてのことでしょう。楽員の反応、本番の出来上がりが楽しみですが、チケットは既に完売しているとか。ラザレフの関西参上はどのように受け取られるでしょうか。

更にラザレフは日本に留まります。今月末に予定されている東京国際音楽コンクールの指揮者部門の審査員を務める由。10月29日から11月4日までのスケジュールですが、マエストロの滞在は長期になります。↓

http://www.conductingtokyo.org/16th/

次回日フィルへの登場は早くも来年1月。このときも2月にかけての長期滞在になる予定だそうで、猛将ラザレフのスキンシップは増々熱意の度を加えていきましょう。

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