日本フィル・第314回横浜定期演奏会

昨日の土曜日、とても寒に入った首都圏とは思えない暖かさの中、今年最初の演奏会を聴きに横浜へ出掛けました。去年の締め括りと同じ、みなみみらいホールを会場とする日フィルの横浜定期です。
プログラムは新年に相応しい以下のもの。

ヴィヴァルディ/ヴァイオリン協奏曲集「四季」作品8
     ~休憩~
ドヴォルザーク/交響曲第9番ホ短調 作品95「新世界より」
 指揮とチェンバロ/大植英次
 ヴァイオリンとコンサートマスター/木野雅之
 フォアシュピーラー(前半はコンサートマスター)/千葉清加
 ソロ・チェロ/辻本玲

日フィル1月の横浜は新世界と決まっていますが、個人的には何故ドヴォルザークの最後の交響曲が新年と関係があるのか判りません。確か世界初演は12月だったと思いますし、特に新しい年を迎えるのに相応しい作品とも思えません、よネ。
一方のヴィヴァルディも特別お正月の音楽ではないと思いますが、まぁ松の内を明けたばかりですから、固いことは言いますまい。

今年の新世界は、日本フィルとは初共演となる(はず)大植英次、という所が新鮮。どんな出会いになるでしょうか。ヴィヴァルディではチェンバロを弾きながらの指揮ということで、これも見物(いや、聴きモノ?)でしょう。
そのヴィヴァルディ、大植のチェンバロはご愛嬌と言うか、特に変わった装飾を加えるわけではなく、和声の補完的な伴奏に留まっていました。そもそも横浜の大ホールでチェンバロ1台を響かせるのは無理な話で、辛うじて秋の第2楽章でつつましい音色が聞こえた程度。

木野コンマスのソロも相変わらず気迫よりは上品さが勝ったもので、12型の弦楽合奏とお馴染みの美しいメロディーで楽しい聴き初めとなりました。
有名な春と秋より、大植が細部に拘った夏が面白く聴けたようです。

後半は大植拘りの解釈と前評判の新世界より。なるほど普段聴き慣れているドヴォルザークとは細部が随分違っていました。
何よりテンポの伸び縮みが激しく、これに付いて行くオーケストラの苦労が想像されます。演奏後のメンバーの表情がいつもよりは固く感じられたのは、その所為かな?

テンポに加えてアーティキュレーション、各パートのバランスに付いても独特な拘りがあるようで、噂によればドヴォルザークの手書きファクシミリ楽譜を基にした大植版とでも呼べるような演奏でしょう。
しかし改竄や加筆などは行っていないようで、第2楽章では2本のオーボエの他にイングリッシュ・ホルンを用意していましたし、チューバも第2楽章のコラールだけ譜面通りに参加していました。第1楽章の第2主題は、提示部ではファースト真鍋、再現部ではセカンド難波の吹き比べもバッチリ楽しめましたよ。

このメンゲルベルク風、あるいは近衛秀麿流の新世界も、些か聴き飽きた小生の耳には極めて新鮮で、偶にはこういう演奏も良いものだと感じた次第。
隣で聴いていた家内に感想を求めると、“自己陶酔型の指揮者ね。でも案外好きかも!”という回答は正鵠を射たものかもしれません。大植再登場はあるのかな?

アンコールは何かな? と想像していたら、木野コンマスのソロで始まる弦楽合奏版の「アメージング・グレイス」。ヴァイオリン・ソロからスタートし、徐々にプルト数を増やしていく美しい弦の響きに、改めて日本フィルの名物が弦楽器のハーモニーにあることを思い出しました。

この作品はそもそも出典の定かでないメロディーですが、一般的にはアメリカ古謡、黒人霊歌や賛美歌という説もあるようです。
コンサート開始前にヨーロッパ文化史を研究されている小宮正安のプレトークがあり、氏はドヴォルザークが新世界交響曲を作曲した当時の時代背景と、アメリカとヨーロッパでの夫々の音楽作品の評価が語られましたが、ドヴォルザークの新世界にはアメリカの民族的なスピリッツが含まれていることが強調されていました。
もちろんドヴォルザークはアメリカ民謡などの引用は一切行っていませんが、特に第2楽章などはアメージング・グレースの世界と通ずるような世界が広がります。もしかするとドヴォルザークはこのメロディーを知っていたかも? ことによると小宮氏もアンコール曲を知っていて、あの解説をしたのかも知れません。

ドヴォルザークはアメリカ・インディアンの英雄譚であるロングフェローの「ハイアワサの歌」をオペラ化する希望を抱き、例の第2楽章のテーマ「遠き山に日は落ちて」はその習作だったという説もあります。
その意味でも大植英次が選んだアンコールは、文献的にも精神的にも新世界交響曲の後には相応しいもの。演奏が止んで暫く会場は沈黙が支配し、堪り兼ねた聴き手の一人が拍手を始めましたが、指揮台上の大植は首を振って未だ未だの合図。漸く指揮姿勢を解いてホールには拍手が満ちましたが、改めてこの指揮者の上質な感性を見直しました。

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