2016クラシック馬のプロフィール(2)

昨日に直ぐ続いて今年のクラシック馬プロフィールの第2弾です。こちらは堂々1番人気に応えて圧勝したマインディング Minding 。そう、オブライエン/クールモアに1000ギニーのワン・ツー・スリーをもたらした第一の立役者でもありますね。
マインディングは父ガリレオ Galileo 、母リリー・ラングトリー Lillie Langtry 、母の父デインヒル・ダンサー Danehill Dancer という血統で、母もクールモアがオーナー、エイダン・オブライエンが調教した名牝であることは既に御存知でしょう。

更に今年の1000ギニーを1着から3着まで独占したガリレオは、意外なことに英1000ギニーは初制覇。これでイギリスの5大クラシック完全制覇を達成しました。既にアイルランドの5つのクラシック(古馬に開放されている愛セントレジャーを加えれば)に勝っているガリレオ、これで英愛10冠クラシック全てを制覇したことにもなります。
因みにフランスでは仏セントレジャー(ロワイアル・オーク賞)を含めれば現時点で4冠に勝利しており、残すは仏2000ギニーのみ。残された年数は僅か思われますが、ヨーロッパ・クラシック完全制覇の可能性も少なくは無いでしょう。

さて母リリー・ラングトリー(2007年)は当ブログでもずっと現役時代をフォローしてきた馬、ブログ内検索でほとんどの競走成績を網羅することが出来ます。とは言いながら一々探すのも面倒ですからザッとおさらいしておくと、

リリー・ラングトリーは二度の競りを経てクールモア・グループが購入し、エイダン・オブライエン厩舎に所属。当時厩舎の主戦騎手はジョニー・ムルタでしたから、彼女も2歳の5月にムルタ騎乗でナース競馬場の未勝利戦でデビューし、2着でした。
この成績だけで翌月、同じナースのクールモア・スタッド・フィリーズ・スプリント・ステークス(GⅢ、現在はG戦に格付けされていません)に出走、2着以下に2馬身半差を付けてあっさりと勝ってしまいます。オーナーがスポンサーになっているG戦でいきなりの初勝利、余勢を駆ってロイヤル・アスコットに遠征し、アルバニー・ステークス(GⅢ)で2着。この時はシーミー・ヘファーナンが騎乗し、22頭立てと多頭数での1番人気でした。負けたとは言え勝馬から1馬身4分の1差は大健闘でしょう。因みにヘファーナンが彼女に騎乗したのはこの一戦のみで、あとは全てムルタが騎乗することになります。
リリー・ラングトリーの4戦目は、地元レパーズタウン競馬場のデビュタント・ステークス(GⅡ)。6頭立て、再びムルタを背に2対5の圧倒的人気に応えてG戦2勝目。そして愈々8月末にはGⅠ戦に挑戦、カラーのモイグレア・スタッド・ステークスにも本命で挑みましたが、何時もの様に後方から追い込むも3着。今回もムルタが騎乗していましたが、ヘファーナンが騎乗した同厩のフェイマス Famous (2着)の後塵をも拝してしまいました。

彼女の現役時代は当競馬日記でも逐一触れてきましたから先を急ぐと、10月にはニューマーケットに遠征してトトソルズ・タイムフォーム・フィリーズ800というレースに出走。これはG戦ではありませんが、1着賞金だけでも40万ポンド以上と言う高額レースで、これに勝ったリリー・ラングトリーは、父デインヒル・ダンサーがこの年のリーディング・サイヤーを獲得するのに大いに貢献します。
そして2歳の終戦がアメリカ遠征のブリーダーズ・カップ・ジュヴェナイル・フィリーズ・ターフ(GⅠ)。この年のBCはサンタ・アニタ競馬場で行われ、ここでも1番人気に支持されましたが12頭立て8着に惨敗、初めて掲示板から外れます。敗因は明確で、レース中に膝に軽度の骨折を発症したためでした。

膝の骨片を取り除く手術もあって、3歳のリリー・ラングトリーは大幅に調整が遅れます。再び競馬場に姿を現したのは5月も後半、愛1000ギニーがその舞台で、オッズは11対1。5頭出しオブライエン軍団の中では最も人気がありましたが、結果は頭・首・短頭・頭差の5着と厩舎の中では最先着。彼女を選んだムルタの目は確かでした。
この年のオブライエン厩舎は様々な原因が重なって春先の成績が芳しくなく、ロイヤル・アスコット開催がスタートするまでに同厩舎が勝ったGⅠ戦は僅か一鞍だけという大不振に陥っていました。アスコットも最初の3日間は勝鞍ゼロが続きましたが、ムードを一変させたのがリリー・ラングトリー。4日目のGⅠ戦コロネーション・ステークスを快勝し、これに勢い付いたオブライエン厩舎はこの日4勝。翌日もGⅠを制してこの年のロイヤル・アスコットのリーディング・トレーナーを獲得してしまいます。
リリー・ラングトリーはこのあとフォルマス・ステークス(GⅠ)で5着と期待を裏切りますが、9月のマトロン・ステークス(GⅠ)でGⅠ戦2勝目。オペラ賞遠征も計画されましたが、結局はこれを最後に引退します。通算成績は11戦5勝2着2回3着1回。

繁殖に上がったリリー・ラングトリー、その初産駒は2012年生まれのキスド・バイ・エンジェルズ Kisse by Angels (鹿毛 牝馬 父ガリレオ)と言い4戦1勝、去年のレパーズタウン・1000ギニー・トライアル・ステークス(GⅢ、1マイル)の勝馬です。デビュー戦2着からいきなりGⅢに勝ったのは母親そっくりでしたが、そのあと愛1000ギニーは17着ブービー、愛オークスも9着最下位で終え、どうやらそのまま繁殖に上がったようです。
そして2年目が今年の1000ギニー馬マインディング、これに続く3番仔もガリレオの牝馬で、ハウ How と命名されたのだそうです。もちろん全てオブライエン厩舎に所属。

母のプロフィールに大分時間を費やしましたが、2代母ホイティー・トイティー Hoity Toity (2000年 鹿毛 父ダルシャーン Darshaan)に行きましょう。ミル・リーフ Mill Reef 系の名種牡馬ダルシャーン最後の世代の1頭ですが未出走、その繁殖成績を纏めると、
2005年 ソング・オブ・フリーダム Song of Freedom 鹿毛 せん 父モンジュー Montjeu 未出走
2006年 レディー・ホークフィールド Lady Hawkfield 黒鹿毛 牝 父ホーク・キング Hawk King 1戦未勝利。母としてサンダウン・クラシック・トライアル(GⅢ、10ハロン)勝馬マスター・アプレンティス Master Apprentice を出す
2007年 リリー・ラングトリー
2009年 ラ・バラッカ La Baracca 鹿毛 牝 父ハリケーン・ラン Hurricane Run 未出走
2010年 カウント・オブ・リモネード Count of Limonade 鹿毛 牡 父デューク・オブ・マーマレイド Duke of Marmalade 7ハロンと8ハロンで12戦4勝。アングルジー・ステークス(GⅢ)、ガリニュール・ステークス(GⅢ)に勝ち、オーストラリアで種牡馬
2011年 ホーティリー Haughtily 鹿毛 牝 父インヴィンシブル・スピリット Invincible Spirit 未出走
2012年 パトロナイジング Patronizing 黒鹿毛 牝 父ガリレオ 未出走? 登録なし
2013年 ダニロヴナ Danolovna 黒鹿毛 牝 父ダンジリ Dansili 現時点で1戦1勝。勝鞍はリングフィールドの1マイル戦

未出走馬の多い兄弟姉妹ですが、パターン・レース勝馬も何頭か出ています。

3代母はハイワーヤティ Hiwaayati (1989年 黒鹿毛 父シャディード Shadeed)。彼女もまた未出走馬ですが、半兄にモーリス・ド・ギースト賞(現GⅠ、当時はGⅡ、1300メートル)に勝ったリード・オン・タイム Lead On Time (父ヌレエフ Nureyev)と、ダイヤモンド・ジュビリー(GⅠ、当時はコーク・アンド・オルリー・ステークスGⅢ、6ハロン)に勝って愛2000ギニー2着のグレート・コモーション Great Commotion (父ヌレエフ)がおり、スピードを伝える牝系と言えそうです。
4代母のアラセア Alathea (1975年 黒鹿毛 父ローレンザッキオ Lorenzaccio)は競走馬としては目だった存在ではありませんでしたが、兄弟にシャンペン・ステークス(GⅡ、7ハロン)に勝ったアール・ビー・チェスヌ R. B. Chesne がおり、5代母ヴィーヴ・ラ・レーヌ Vive la Reine (1969年 鹿毛 父ヴィエナ Vienna)の優れた血を受け継いでいます。

ヴィーヴ・ラ・レーヌは1勝馬ですが、全兄に凱旋門賞を制したヴェイグリー・ノーブル Vaguely Noble がいます。2頭の母ノーブル・ラッシー Noble Lassie (1956年 鹿毛 父ネアルコ Nearco)はランカシャー・オークスの勝馬で、20世紀を代表する英国の大生産者でオーナーだったライオネル・ホリデイ少佐が生産。
ホリデイ少佐はヴェイグリー・ノーブルが生まれた年に亡くなったため、当時のルールに則って子息のブルック・ホリデイ氏の勝負服で走りました。2歳時に現在のレーシング・ポスト・トロフィー(当時はオブザーヴァー・ゴールド・カップ)に優勝したものの、ホリデイ氏の解散セールとしてその秋に競りに出され、クラシック・レースの登録が無かったにも拘わらず(この頃は追加登録の制度は無かった)当時の最高価格でアメリカの石油王ネルソン・バンカー・ハント氏が購入、ハント氏の勝負服で凱旋門賞に勝った経緯がありました。
凱旋門賞では英ダービー馬サー・アイヴァー Sir Ivor を全く問題にせず、もしこの馬に登録があればクラシック・レースの一つや二つは制覇していただろう、というのが後世の評価でもあります。

ところで、ホリデイ少佐は馬名に父馬の頭文字を付けるのを慣例にしており、ヴェイグリー・ノーブルとヴィーヴ・ラ・レーヌ兄妹も父ヴィエナの頭文字である「V」から始まる馬名になっているのですね。折角ですから余り知られていないエピソードも紹介しておきました。

更にノーブル・ラッシーの娘リーガル・レディー Regal Lady (ホリデイ没後の産駒ですが、伝統に沿って父レルコ Relco の頭文字が付いています)からは、夫々3・4代を経てレーシング・ポスト・トロフィーのカサメント Casamento 、サセックスとクィーン・アンの二つのマイルGⅠ戦を制したトルネード Tornado も出ました。
以上見てきたようにスタミナ系からスタートし、近年ではスプリンター/マイラーにGⅠ級の馬を出している牝系。長距離種牡馬ガリレオを配合することによって産まれたマインディングがオークス制覇する可能性も、決して低くは無いと思われます。

ファミリー・ナンバーは1-d 。1768年生まれのプロミス Promise を基礎とする牝系です。

 

 

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