2016クラシック馬のプロフィール(4)
直ぐに続けて仏2000ギニー馬の血統プロフィールに行きましょう。仏2000ギニーを圧勝したザ・グルカ The Gurkha です。馬名は恐らく、ネパールを本拠とする勇猛なグルカ族に由来するものでしょう。それを連想するような勇猛果敢なレース振りが目立ちました。
ザ・グルカは父ガリレオ Galileo 、母チンツ Chintz 、母の父デインヒル・ダンサー Danehill Dancer という血統。因みに母の名も「インドさらさ」を意味し、インド繋がりの馬名が知識欲を誘いますネ。
牝系に入る前に先ず触れなければならないのが、父ガリレオのこと。プロフィール(2)のマインディング Minding で、冒頭にガリレオがヨーロッパ3国のクラシックで唯一勝っていないのが仏2000ギニー、残る数でパーフェクト達成の可能性は大きいと書きましたが、その舌の根も乾かぬうちにザ・グルカの仏2000ギニー戴冠。書いている私も仰天のクラシック完全制覇とは相成りました。
これでガリレオ産駒が英仏愛の五代クラシック(古馬に開放された愛仏レジャーを含めて)を全て制覇し、ガリレオは何と15冠種牡馬と言う偉業を達成したことになります。時代は既にガリレオの仔世代に入りつつありますが、未だ暫くこのサイアー・ラインのクラシック優位が続くものと思われます。
ということで母チンツ(2006年 鹿毛)。前回紹介した仏1000ギニー馬ラ・クレソニエール La Cressonniere (馬名はクレソン畑の意味)の父・母とチンツは皆2006年生まれの同期生というのが面白い所でしょう。
チンツはクールモアがオーナーでしたが、調教したのはエイダン・オブライエンではなく、デヴィッド・ウォッチマン。アイルランドでクールモアの馬を管理する第2ヴァイオリン的な役割を持つ厩舎です。
2歳時にレパーズタウンの7ハロン戦でデビューして新馬勝ち。続くカラーのリステッド戦(6ハロン)とシルヴァー・フラッシュ・ステークス(GⅢ、7ハロン)は共に2着でしたが、4戦目でパーク・ステークス(GⅢ、7ハロン)に勝ってシーズンを終えます。
3歳シーズンはレパーズタウンの1000ギニー・トライアル(GⅢ)9着から始動し、愛1000ギニーはアゲイン Again の5着。アスコットのコロネーション・ステークス挑戦もブービーの9着に終わり、そのあともカラーのインターナショナル(GⅢ)6着、ダンス・デザイン・ステークス(GⅢ)4着、同じくカラーのソロナウェイ・ステークス(GⅢ)7着と奮わず、ナース競馬場のリステッド戦(1マイル)でも18頭立ての9着に終わってこのシーズンを未勝利で終え、繁殖に上がりました。通算成績は11戦2勝2着2回。いわゆる連対したのは2歳戦のみです。
その繁殖成績は以下。
2011年 イリノイ Illinois 鹿毛 牡 父ガリレオ クールモア所有、エイダン・オブライエン師が管理し、1戦1勝。勝鞍は、ティッペラリー競馬場の4頭立ての7.5ハロン戦で、ヘファーナン騎乗。惜しくも2歳現役中に死亡。
2012年 クィーン・ネファーティティ Queen Nefertiti 鹿毛 牝 父ガリレオ クールモアでウォッチマン厩舎。2015年終了時で6戦1勝。勝鞍は2歳時レパーズタウンの7ハロン戦でデビュー勝ちのみ。英1000ギニーに挑戦して13頭立ての8着。ブラウンスタウン・ステークス(GⅢ)3着、メルド・ステークス(GⅢ)5着。
2013年 ザ・グルカ
この後の記録は未調査ですが、初産駒から全てガリレオと配合されてきました。
2代母ゴールド・ドジャー Gold Dodger (1994年 黒鹿毛 父スルー・オゴールド Slew o’Gold)はフランスの名門、ウェルザイマー家の牝系を代表する1頭で、現役時代は6戦2勝。3歳時にドーヴィルの2000メートルで新馬勝ちし、4歳初戦でもロンシャンで2000メートルのリステッド戦(ペピニエール賞)に勝つなど長距離タイプの馬でした。2000までの距離には出走経験も無いほど。
その繁殖成績も一覧表にしてしまうと、
2000年 アル・シャクール Al Shakoor 牝 父バラセア Barathea 未出走。繁殖。
2001年 アートフル Artful 鹿毛 牝 父グリーン・デザート Green Desert フランスで7戦1勝。6ハロン戦勝馬の母
2002年 フリース Fleece 鹿毛 牝 父デイラミ Daylami 英仏で4戦未勝利。繁殖。
2005年 フルエラ Fruela 牡 父ファスリエフ Fasliev フランスとスペインで6戦2勝。詳細不詳。
2006年 チンツ
2009年 バスター・ブラウン Buster Brown 栗毛 牡 父シングスピール Singspiel 25戦2勝、現役? 勝鞍はニューキャッスルで10ハロンのハンデ戦と、ウルヴァーハンプトンで9.5ハロンのハンデ戦。
以上で特に取り上げる様な活躍馬は出ていません。
3代母はブルックリンズ・ダンス Brooklyn’s Dance (1988年 鹿毛 父シャーリー・ハイツ Shirley Heights)。やはりウェルザイマー家の牝系で、クリティック・ヘッド=マーレク女史が調教し、8戦3勝2着1回。2歳時にサン=クルーで新馬戦と条件戦に2連勝、3歳初戦のクレオパトラ賞(GⅢ、当時はエヴリー競馬場の2100メートル)に勝ってクラシックに乗りましたが、無敗で臨んだ仏オークスは3頭並んだ1番人気に支持されながらも13頭立ての9着に敗退。
続くロンシャンのマユレ賞(GⅡ、2400メートル)が6着、10月ロンシャンのロワイヤリュー賞(GⅡ、2500メートル)では2着しましたが、サン=クルーのフロール賞(GⅢ)とフィーユ・ド・レール賞(GⅢ)は何れも着外で現役を終えました。レースホース誌では2500メートルのスタミナがあり、重得意と記録されています。
母となったブルックリンズ・ダンスは、その産駒12頭が勝馬となる活躍。その半分に当たる6頭はG戦またはリステッド戦に勝つ優れた産駒たちでした。2番仔でザ・グルカの2代母ゴールド・ドジャー以外の何頭かを紹介すると、
1995年生まれのブルックリンズ・ゴールド Brooklyn’s Gold (せん 父シーキング・ザ・ゴールド Seeking The Gold)はリステッド戦のシュレーヌ賞(2100メートル)勝馬、2001年生まれのプロスペクト・パーク Prospect Park (牡馬 父サドラーズ・ウェルズ Sadler’s Wells)がリス賞(GⅢ)とクープ・ド・メゾン=ラフィット賞(GⅢ)に勝ち、仏ダービーで2着。2004年のネヴァー・グリーン Never Green (牝馬 父ホーリング Halling)もリステッド戦のオクシタニー賞の勝馬で、2005年のプロスペクト・ウェルズ Prospect Wells (牡馬 父サドラーズ・ウェルズ)もグレフュール賞(GⅡ)に勝ってパリ大賞典で2着しています。
そして何と言っても忘れてはならないのが母の最期の産駒、母が20歳の2008年に生まれたソレミア Solemia (牝馬 父ポリグロート Poliglote)で、2012年の凱旋門賞で日本の期待を背負ったオルフェーヴルが先頭に立ち、ゴール目前に迫った所に外から一気に末脚を爆発させ、日本の悲願を打ち砕いたのが、憎っくき(笑)この馬でした。
この凱旋門賞の週末、2歳の最強牝馬決定戦となるマルセル・ブーサック賞を制したのも同じウェルザイマー家の勝負服を着たシラソル Silasol で、彼女の2代母はブルックリンズ・ダンスの娘ブルックリンズ・ストーム Brooklyn’s Storm (1996年生まれ、父ストーム・キャット Storm Cat)でもありました。
華麗なるウェルザイマー・ファミリーの牝系は、4代母ヴァレー・ダンサンテ Valee Dansante (1981年 鹿毛 父リファード Lyphard)から2007年のダービー馬オーソライズド Authorized を出し、5代母グリーン・ヴァレー Green Valley (1967年 黒鹿毛 父ヴァル・ド・ロワール Val de Loir)まで遡れば2010年の2000ギニー馬マクフィ Makfi も登場します。
この先はマクフィのプロフィールを紹介した2010クラシック馬のプロフィール(1)をご覧ください。
2010年の記事で紹介できなかったGⅠ馬を補足すると、ヴァレー・ダンサンテの娘クエスト・オブ・ファイア Quest of Fire の孫キルジャノ Quiljano がミラノ大賞典を2連覇したこと、
同じくヴァレー・ダンサンテの娘クリサンテ Krissante がジャン=リュック・ラガルデール賞を制したオカヴァンゴ Okawango を出したこと、
を付け加えておきましょう。
この牝系、日本とは今までのところ余り縁がありませんが、ヴァレー・ダンサンテの娘ダイヤモンドバレーが日本に輸入され、きんもくせい特別(福島1700メートル)、五稜郭特別(函館2000メートル)、巴賞(函館1800メートル)と特別競走を3勝し、東スポ杯3歳ステークス2着、函館記念3着、朝日チャレンジカップでも3着したヒマラヤンブルーを産んでいることも紹介しておきましょう。
ファミリー・ナンバーは16-c。1856年生まれのリトル・アグネス Little Agnes を基礎とする牝系です。
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