仏ダービーはフランス勢が上位独占

パリの中心部がセーヌ川の洪水に怯えている中、パリの真北に位置するシャンティーはセーヌの流れからは遠く、無事に仏ダービーが行われました。但し馬場は soft と重く、重馬場が苦手の馬には手の施しようも無かったようですが・・・。

と言うことでこの日はG戦5鞍、全て本来シャンティーのダービー開催当日のカードで、例年と傾向は変わりません。ジョッケ=クラブ賞(仏ダービー) Prix du Jockey Club (GⅠ、3歳牡牝、2100メートル)、俗称フランス・ダービーは4番目のG戦として組まれていましたが、最初にこれをレポートしちゃいましょう。
既に枠順で紹介したように17頭が最終登録を済ませましたが、直前になってドイツから遠征してきたパルテニウス Parthenius が取り消し。理由が重馬場のためではなく、何と携帯してきたパスポートが別の馬だったという理由。別の馬を連れてきたというなら笑い話でしょうが、何とも???なアクシデント。結局、出走する許可は下りず取り消しと言う珍事がありました。

エプサム・ダービー同様どれが本命になるのか判らないような混戦でしたが、最終的には地元フランス馬、オカール賞(GⅡ)勝馬のメークタール Mekhtaal が9対2で1番人気に上がりました。英国のゴスデン/デットーリ・チームのファウンデーション Foundation は53対10の2番人気。
スタートダッシュを効かせたのはファーブル厩舎の8番人気(18対1)タリスマニック Talismanic でしたが、2ハロン進んだ地点で英ダンロップ厩舎の4番人気(71対10)ロビン・オブ・ナヴァン Robin of Navan が替っての逃げ。人気のメークタールは後方待機から末脚に賭けましたが、残り2ハロンで抜け出したのは中団で機を窺っていた9番人気(196対10)のアルマンザー Almanzor 、一気にセーフティー・リードを奪うと、後方2番手から追い込む3番人気(66対10)のザラク Zarak に1馬身半差を付ける完勝でした。
1馬身4分の3差で、これも後方から伸びた6番人気(10対1、追加登録料を支払っての参戦)ディクトン Dicton が3着に入り、スタートで飛び出したタリスマニックが4着、11番人気(25対1)の伏兵で大外枠のアピロバー Apilobar が5着。人気のメークタールは最後方から追い込むも8着、ファウンデーションは馬群の外を先行したものの末脚を失して16着最下位での入線でした。重馬場が堪えたのでしょう。6頭が挑んだ英愛勢では10着のブレイヴリー Bravery (オブライエン/ムーア)が最高で、後ろから数えて7頭の内6頭が英愛馬という完敗。地元フランス調教馬が上位を完全独占した仏ダービーでした。

単勝20倍で戴冠したアルマンザーは、本命馬と同じジャン=クロード・ルジェ師が管理しており、ルジェ師は2009年のル・アーヴル Le Havre に続き2度目の仏ダービー制覇。ルジェ厩舎はラ・クレソニエール La Cressonniere の仏1000ギニーに続き、今年のクラシックは2勝目となります。騎乗したジャン=ベルナール・アイケム騎手は若手ではなく、10年前にタイ・ブラック Tie Black で仏1000ギニーに勝って以来のクラシック優勝で、もちろん仏ダービーは初勝利でした。
アルマンザーはローカル・デビューからグラン・クリテリウム・ド・ボルドーを含めて3連勝、クリテリウム・インターナショナル(GⅠ)で初めて中央場所に出走して7着でシーズンを終了。今期はフォンテンブロー賞(GⅢ)3着から始動し、前走ギッシュ賞(GⅢ)でG戦初勝利を挙げていましたから、単勝20倍は人気の盲点だったかもしれません。
父はジャン=リュック・ラガルデール賞馬ウットン・バセット Wootton Bassett と比較的地味で、父にとっては初のGⅠ馬。しかし牝系は皮肉なことにアガ・カーンが育ててきた血統で、いずれ詳しく紹介しますが、5代母まで遡ればフランスのクラシック・ホースは5頭目、仏ダービーも2頭目と言う良血です。アガ・カーンと言えば2着に来たザラクは名牝ザルカヴァ Zarkava の仔、エプサム・ダービーを久し振りに制したアガ・カーンの血脈が再び脚光を浴びた英仏ダービーだったと言えそうです。

この勝利によって凱旋門賞候補に名前が登場したアルマンザー、現在のオッズは16対1です。

ここからは仏ダービーの前後に行われたG戦をレース順に取り上げます。
先ず、第2レースに組まれていたグロ=シェーヌ賞 Prix du Gros-Chene (GⅡ、3歳上、1000メートル)は8頭立て。5月16日にドーヴィルの良馬場で行われたサン=ジョルジュ賞(GⅢ)の再現の様なメンバーで、この時の1着から4着までが出走し、馬場状態から2着だったソン・セシオ Son Cesio が17対10の1番人気。
7番人気(22対1)のイフラネシア Iffranesia の逃げ。先行していた5番人気(66対10)のキャットコール Catcall が抜け出した所に、前半は最後方で待機していたソン・セシオが猛追し、短首差でキャットコールを捉えて優勝。2馬身差で同じく後方から追い込んだ2番人気(3対1)のフィンスバリー・スクエア Finsbury Square が3着でした。サン=ジョルジュ賞ではフィンスバリー・スクエアが勝ってソン・セシオは頭差2着でしたが、オッズの通り重馬場の適性が結果に表れた印象です。

アンリ=アレックス・パンタル厩舎、ヴィンセント・シェミノー騎乗のソン・セシオは、去年7月メゾン=ラフィットのリゾランジス賞(GⅢ)に続く二つ目の短距離G戦勝利。去年のアベイ・ド・ロンシャン賞は18頭立ての13着に終わりましたが、今年はもっと上位を目指したい5歳馬。同じシャンティーに移る今年はチャンスかもしれません。

続いては仏オークス、というより秋のヴェルメイユ賞を目指したい牝馬たちのためのロヨーモン賞 Prix de Royaumont (GⅢ、3歳牝、2400メートル)。6頭が出走し、前走シャンティーのリステッド戦に勝って来たザ・ジュリエット・ローズ The Juliet Rose が17対10の1番人気。
そのザ・ジュリエット・ローズが唯1頭馬場の中央を通って一人旅となり、他の5頭は内ラチ沿いに最低人気(15対1)のジョリファイ Jollify が引っ張るという珍しい展開。結局は本命ザ・ジュリエット・ローズがそのまま逃げ切り、インコースの馬群から抜け出した3番人気(16対5)のアル・ワスナ Al Wathna が1馬身半差で2着、首差で後方から追い込んだ2番人気(3対1)のアルマンド Armand が3着と言う人気通りの結果で収まりました。

勝ったザ・ジュリエット・ローズはニコラス・クレメント厩舎、ステファン・パスキエ騎乗で、2歳時にサン=クルーの1600メートル戦でデビュー勝ち。2歳はこの1戦のみで、今期はペネロープ賞(GⅢ)2着から始動し、上記の前走シャンティーのラ・セーヌ賞(リステッド)に勝って2勝目。これで4戦3勝2着1回とほぼパーフェクトな成績となりました。前走で2着に来たのが今回の2着アル・ワスナですから、内容的にも安定していると見て良さそうです。
実はザ・ジュリエット・ローズはエプサムのオークスにも登録があり、ブックメーカーも40対1のオッズを付けていた馬。父が長距離馬モンスン Monsun ということで、今年の秋から4歳にかけてが真の勝負シーズンになるでしょう。

そして仏ダービーの前に行われたのが、サンドリンガム賞 Prix de Sandringham (GⅡ、3歳牝、1600メートル)。クラシック世代の牝馬マイル戦ということで仏1000ギニーの再戦と言う位置付けですが、仏ギニー出走組から参戦してきたのは6着のサスパレラ Sasparella と、10着のエイム・トゥー・プリーズ Aim to Please の2頭だけ。これを加えた9頭が出走し、今期2連勝中の上がり馬ヴォルタ Volta が2対1で1番人気。
6番人気(15対1)のプレーリー・パール Prairie Pearle が逃げましたが、後方に待機した本命ヴォルタが末脚を爆発させ、先行から抜け出した4番人気(48対10)のビソッティッド Besotted に4馬身の大差を付ける圧勝で見事人気に応えました。頭差でやはり後方から伸びた最低人気(30対1)のエイム・トゥー・プリーズが3着に入って仏1000ギニー出走馬の意地を見せました。

フランシス=アンリ・ガファール厩舎、ピエール=シャルル・ブードー騎乗のヴォルタは、去年7月にドーヴィルでデビューして5着。次走コンピエーニュでは3着と順位を上げてシーズンを終え、今期はサン=クルーの1600メートル戦とシャンティーのリステッド戦(ヴォルテラ賞、1600メートル)に連勝し、3連勝でG戦初勝利。
この圧勝で陣営は仏オークス参戦も視野に入れた様子。追加登録料が必要になりますが、500メートル伸びる距離を克服できれば、クラシック制覇も夢ではありません。

最後に、仏ダービーの直後に行われたシャンティー大賞典 Grand Prix de Chantilly (GⅡ、4歳上、2400メートル)。8頭が出走し、目下2連勝中の奥手馬ワン・フット・イン・ヘヴン One Foot in Heaven が6対4の1番人気。
最低人気(29対1)のギニョール Guignol の逃げで始まりましたが、後方から一気の末脚で伸びたのが本命のワン・フット・イン・ヘヴン、3番手先行から抜けた2番人気(41対10)のガーリンガリ Garlingari に4分の3馬身差を付けて期待に応えました。短首差で3番人気(13対2)のハーレム Harlem が3着と全く人気通りでの決着。

アラン・ド・ロワイヤー=デュプレ厩舎、クリストフ・スミオン騎乗のワン・フット・イン・ヘヴンは、アガ・カーンとは無縁の4歳馬ですが、前走デドーヴィル賞(GⅢ)を勝った時(5月8日)にやや詳しく紹介しました。母がプライド Pride という良血で、3歳10月デビューという遅れてきたスターが漸く開花したという存在。
脇街道とでも呼べるような路線から凱旋門賞を目指すと思われます。未だ使い込まれていない馬の急成長、トップクラスの馬たちには怖い存在になりそうな雰囲気がある、と見ました。

 

以上、仏ダービー以外は全て1番人気が勝利するという、極めて順当なシャンティー競馬場の重馬場でした。

 

 

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