2016クラシック馬のプロフィール(8)

昨日に続いてダービー馬の血統プロフィールです。こちらはフランス・ダービーを制したアルマンザー Almanzor
アルマンザーは父ウットン・バセット Wootton Bassett 、母ダルコヴァ Darkova 、母の父マリアス・モン Maria’s Mon という血統。

先ず父ウットン・バセットですが、余り馴染の無い種牡馬だと思われます。それも其の筈で、アルマンザーは同馬の初年度産駒。ウットン・バセット産駒でヨーロッパのG戦に勝ったのは、現在の所アルマンザーが唯一で、もちろん父にとって最初のGⅠ馬、最初のクラシック馬でもあります。
2010年、2歳時に5戦全勝でフランスのGⅠ戦、ジャン=リュック・ラガルデール賞に優勝したものの、3歳時は仏2000ギニーで5着。その後もGⅠ戦のみ出走し、このシーズンは4戦未勝利で現役を終えました。2012年からノルマンディーのエトレアム・スタッドで供用中。

ウットン・バセットはミスター・プロスペクター Mr. Prospector 系の種牡馬で、父のイフラージ Iffraaj もスプリンター。更にはウットン・バセットもまた、イフラージの初年度産駒で、極めて回転の速いサイヤー・ラインとなっています。
短距離系と言うことに付いて付け加えれば、アルマンザーの母の父マリアズ・モンも2歳時にシャンペン・ステークス、フューチュリティー・ステークスなどのGⅠに勝ち、2歳チャンピオンに選出された馬。クラシック路線には乗れませんでしたが、牝系にはそれなりのスタミナも流れていました。
短距離系父×短距離系母父が仏ダービーに勝ったのですから驚き、と言えば驚きですが、これから紹介する牝系の系譜を見て行けば、ダービーに勝つスタミナ(と言っても仏ダービーは2100メートルですが)に納得が行くことと思います。

さて母ダルコヴァ(2008年 栗毛)ですが、この馬は未出走。しかもアルマンザーはその初産駒ということで、母の成績だけからはプロフィールを掴むことは難しいようです。
しかし注目したいのは、ダルコヴァの生産者。その生産者こそ、昨日紹介した英ダービー馬ハーザンド Harzand のオーナー/ブリーダーであるアガ・カーン4世の娘、ザーラ・アガ・カーン王女なのですね。

昨日はアガ・カーン3世、プリンス・アリ・カーン、アガ・カーン4世まで紹介しましたが、ザーラ・アガ・カーンは同家の競馬の伝統を受け継ぐ4代目。もちろんザーラもオーナー/ブリーダーですが、父の200頭以上に対し、彼女が所有している繁殖牝馬はほんの僅か。現在の正確な頭数は調べていませんが、2008年の時点ではたった3頭でした。
それでも既にヴェルメイユ賞を制したマンデシャ Mandesha 、仏1000ギニーに勝ったダージナ Darjina のオーナーとなり、確立と言う点でだけ見れば、父を上回っているかも知れません。そのザーラが生産したのが、アルマンザーの母ダルコヴァということになります。

2代母はダルカラ Darkara (2001年 鹿毛 父ホーリング Halling)。アガ・カーン4世が生産し、ザーラ王女が所有した馬で、調教師はアガ・カーンのフランスでの所有馬を預かるアラン・ド・ロワイヤー=デュプレ師。3歳から4歳までの2シーズン、2000メートルから3100メートルまでの距離に11戦4勝したステイヤーでした。初勝利は3歳の8月、ドーヴィルの3000メートル不良馬場で、シャンティーのリステッド戦(トゥーレル賞、2400メートル)まで3連勝。
4歳時にはシャンティーで2000メートルの一般戦に勝っただけでしたが、10月のフロール賞(GⅢ、2100メートル)が唯一のG戦出走で、13頭立ての12着でした。この後マルセイユ大賞典(リステッド戦)の9着を最後に繁殖に上がり、その成績は以下の通り。

2007年 ダルミアナ 栗毛 牝 父レモン・ドロップ・キッド Lemon Drop Kid 未出走?
2008年 ダルコヴァ
2009年 ダルヴァザ Darvaza 黒鹿毛 牝 父スマート・ストライク Smart Strike 1戦未勝利。3歳の7月シャンティーでデビューし、6位入線も進路妨害で4着に繰上り。この時に騎乗していたのはクリストフ・ルメール。
2010年 ダルカジニア Darkazinia 鹿毛 牝 父アーチ Arch 未出走。
2011年 ダルディザ Dardiza 鹿毛 牝 父ストリート・クライ Street Cry デュプレ厩舎で10戦未勝利。
2012年 ダルネラ Darnella 鹿毛 牝 父マンデュロ Manduro 現時点で未出走。

特に走った馬はいませんが、アガ・カーンの方針で毎年異なる種牡馬、多くはアガ・カーン所有の種牡馬以外に種付けしていることが判ります。自家生産馬に拘って血が濃くなることを避ける目的でしょう。繁殖牝馬についても定期的に間引く、というか売却して血統が偏ることを回避しているのですね。

3代母ダラルバイダ Daralbayda (1993年 鹿毛 父ドユーン Doyoun)もアガ・カーン所有のフランス調教馬で、4戦1勝のミドル・ディスタンス・ホース。3歳の7月にエヴリ競馬場でミネルヴァ賞(GⅢ、2400メートル)に出走し、3着に入っています。
ダラルバイダの1999年生まれの娘ダリンスカ Darinska (鹿毛 父ジルザル Zilzal)もミドル・ディスタンスを中心に走った中長距離馬で、生産者はザーラ王女、オーナーがアガ・カーンでデュプレ厩舎。デビュー戦がサン=クルーの2400メートル戦での優勝というステイヤーで、ロヨーモン賞(GⅢ、2400メートル)は3着でした。
その娘が上記仏1000ギニーを制したダージナ Darjina で、ザーラ王女がオーナー/ブリーダーで、もちろんアラン・ド・ロワイヤー=デュプレ厩舎。クラシックの他にアスタルテ賞、ムーラン・ド・ロンシャン賞とマイルのGⅠ戦に連勝し、クラシック・トライアルのグロット賞(GⅢ)にも優勝。1マイルを超える距離では、先日エイシンヒカリが勝ったイスパハン賞(GⅠ)でも2着に入りました。

4代母は、娘が3着だったミネルヴァ賞に勝ったダラリンシャ Daralinsha (1984年 鹿毛 父アンペリー Empery)。もちろんアガ・カーン4世の生産馬で、7戦5勝。ミネルヴァ賞の他には1700メートルから2400メートルまでのリステッド戦に3勝し、ロワイヤリュー賞(GⅢ、2500メートル)でも2着しています。
ダラリンシャの産駒たちもほとんどが2000メートルから2400メートルを中心に活躍していますが、ペネロープ賞(GⅢ、2100メートル)で3着、サンタラリ賞(GⅠ、2000メートル)でも4着したダラシャンデー Darashandeh が、2006年の仏ダービーを制したダルシ Darsi の母。アルマンザーは、5代母から広がるファミリーでは2頭目の仏ダービー馬なのです。

更に上の5代母ダラジーナ Darazina (1979年 鹿毛 父ラバス Labus)まで遡ると、20世紀前半のフランス競馬界を牛耳っていた感のあるマルセル・ブーサックの牝系に至ります。つまり前回も少し触れたように、ブーサック氏の死去に伴うディスパーサル・セールで重要な牝馬を大部分購入したのが、現アガ・カーン4世だったという歴史に繋がります。
ダラジーナは1勝馬でしたが、ロヨーモン賞2着、ミネルヴァ賞3着の娘ダラタ Darata からは仏オークス、ヴェルメイユ賞のダルヤバ Daryaba が出、その孫がガネー賞に勝ったダリーヤン Dariyan 。
また未出走の娘ダラバカ Darabaka からもドンカスター・カップ(GⅡ、2マイル2ハロン)に勝った長距離馬ファー・クライ Far Cry 、ハリウッドでトゥワイライト・ダービー(GⅡ、9ハロン)やハリウッド・ターフ・カップ(GⅡ、12ハロン)に勝ったグランダー Grandeur などが出ており、長距離牝系としての伝統を守ってきました。

最後に蛇足を一つ。2回に亘ってアガ・カーン・ファミリーを取り上げましたが、アガ・カーン家は階級社会のヨーロッパでもエリート中のエリート。
私も40年前に凱旋門賞観戦に出掛けたことがありましたが、その前日にロンシャン競馬場近くのポーラ・ド・パガテルという施設で「凱旋門賞セール」というサラブレッドの競りがありました。
興味本位で覗いたのでしたが、会場は如何にも“えりーとぉ~”という顔ぶれで一杯。あるカップルから何か話しかけられたのですが、余りの雰囲気に固まってしまった記憶しか残っていません。その中にはアガ・カーンの関係者がいたのかも。

自動車事故で早逝したアリ・カーンの奥方は女優のリタ・ヘイワースでしたし、ザーラ王女の結婚式に招待されたのもスペイン国王夫妻、ヨルダンの皇太子などなど超エリートばかりだったとか。↓

http://www.vogue.co.uk/spy/celebrity-photos/2011/04/11/royal-weddings-in-history/gallery/555895

エリートたちが集うロイヤル・アスコットだけは近付きたくないと、その時はそう思いましたネ。

アルマンザーのファミリー・ナンバーは1-e。1788年生まれのプルネラ Prunella を基礎とする牝系です。

 

 

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