次期・NYフィル音楽監督のエロイカ

放送音楽

金曜日にBS2で放送されたN響12月定期をやっと聴き終えました。指揮は来期からニューヨーク・フィルの音楽監督に就任するアラン・ギルバート。曲目はメシアンの「ほほえみ」、ベルクのヴァイオリン協奏曲、ソロはフランク・ペーター・ツィンマーマン。最後がベートーヴェンのエロイカ。NHKホールでのコンサートです。

ギルバートは何度もN響に登場しています。最初見たときは、いやに顔が大きく、まるで指揮者らしくないなぁ(失礼)、と思って見ていましたが、さすがに「らしく」なってきましたね。

配置を見ると、典型的な対抗配置。恐らくベートーヴェン用でしょうが、メシアンやベルクまでこの配置にする必要があったんでしょうか? そもそもギルバートって配置に拘るタイプでしたかね?

最初のメシアンはよく知りません。スコアも持ってませんし、CDでも聴いたことなし。ですから何とも言えませんが、いかにもメシアン臭のする音楽。5分程度の短いものですから、メシアンとしては名刺代わりに書いた1曲のような気がします。演奏は去年の12月でしたが、今年のメシアン生誕100年向け放送でしょうね。

N響の特徴として、プログラムの最初や前半はどうもエンジンが暖まらず、アインザッツ、特に木管のそれがピタリと合いません。これもその典型。ナマで聴けばそれほど気にならないのかもしれませんが、録音され放送に乗ると、どうにも居心地が悪いのです。
パート毎に集まってリハーサルを重ねる、などということはしないのでしょうかね。どうも一発勝負に頼り過ぎる感じ。最初の一発だけでもピタリと合わせて欲しいのですが・・・。

ベルクはなかなか良かったですね。ツィンマーマンも現代物を得意にしていて、いろいろ新しい作品を紹介してくれます。
ただ、最後の拍手がいけません。このレクイエムともいえる協奏曲で、あんなフライングはないでしょう。この暴漢氏、一旦拍手を始めたものの誰も続けないので消えそうになってました。叩いた本人は、「ここが終わり」ということを知っていることを誇りたいのでしょうが、そんなこと、チットも偉くないです。特に放送がある日のコンサートでは止めて欲しいですね。

それにもめげず、ツィンマーマンのアンコールは、バッハの無伴奏ソナタ第2番から、第3楽章アンダンテ。

メインのベートーヴェン、第3交響曲「エロイカ」。これは素晴らしい演奏でした。オケの配置から予想したとおり、モダン・スリムなベートーヴェンで、普通に16型でありながら、キリリと引き締まったベートーヴェンを聴かせてくれました。もちろん第1楽章の繰り返しも実行します。
N響も気合が入った好演、ギルバートとの信頼関係も充分なようです。

面白いことに気が付きました。
ギルバートはスコアに手を加えるようなことはせず、f と ff 、sf などをキチンと区別して「楽譜に忠実」な姿勢を貫くのですが、第2楽章のホルン(指定通り3本で演奏)、展開部に入って間もなくの所が大写しになりました。

具体的に言うと第135小節からの4小節、ホルンが“ドーレミ・ファーーミ・レーミファ・ソーーファ・”と高らかにメロディーを吹き上げる所があります。ここ、3人のホルンが斉奏する様が映し出されましたが、楽譜を改めて見ると、これは3番ホルンだけで、1番2番はお休みになっているのですね。
つまり、1番と2番を重ねてホルンを強調している、ということ。これ、今まで気が付きませんでした。この改竄は日常茶飯事に行われているような気がしますが、これに触れた文章をこれまで見たことありません。今後、注意して観察することにしましょう。

もう一つホルンのこと。同じ第2楽章の最後の方、コーダの手前。第207小節に書かれている第3ホルンの八分音符。これをギルバートはハッキリ指示を出して強調していました。
実はこの措置、スクロヴァチェフスキが読響で思い切り吹かせてました。私は椅子から飛び上がらんばかりに驚いたんですが、なるほどベートーヴェンは音符を書き付けているのですから、ハッキリ聴こえるべきですよね。ただ、譜面には強調するような指示はない。

ギルバート、スクロヴァチェフスキほどではないにせよ、ここを強調したのが印象に残りました。

ということで、ベートーヴェンのエロイカのように繰り返し聴いている作品でも、まだまだ新しい発見があるもの。なかなか収穫の大きな演奏でした。

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