大阪シンフォニカー・東京公演

23日に開幕した今年の地方都市オーケストラ・フェスティヴァル2008、昨日は二日目で、大阪シンフォニカー交響楽団の演奏会を聴いてきました。以下のもの。
大阪シンフォニカー交響楽団・演奏会
 エルガー/ヴァイオリン協奏曲
      ~休憩~
 ブラームス/交響曲第2番
  指揮/大山平一郎
  ヴァイオリン/竹澤恭子
  コンサートマスター/森下幸路
地方都市フェストは今年11回目を迎えます。すみだトリフォニーホールが、日本で初めてオーケストラが「住む」ホールとして誕生し、企画された催しです。
様々なオーケストラが特定の期間に集中して演奏会を開く企画、他にもあります。東京なら都民芸術フェスティヴァル、アジアのオーケストラが集う企画、東京国際フォーラムのお祭り等々。川崎でも夏のフェストが4年目に入るはず。
その中で地方都市フェストは、何と言っても演奏曲目が注目、と私には思えます。都民芸術フェスティヴァルは主旨が違うんでしょうが、私には何とも魅力が感じられず、ほとんど行ったこともありませんし、今後も行かないでしょう。それでも毎回満席だそうですから、複雑な気持ちですね。
さて大阪シンフォニカー、素晴らしいプログラムですよね。竹澤のエルガーが聴ける。これが一推しの聴きどころでしょう。このロ短調作品(♯二つの調)に並べられるのが、ブラームスの第2。これも♯二つでしょ。大山マエストロのセンスが光ります。うん、これは聴くべし。
昨夜は桜が満開。夕方から降り出した雨を避けるようにホールに駆け込むと、会場前で10人ほどがチラシを配っています。演奏会の案内ではない様子。
ふと見ると、某東京在住オケの某金管奏者も混じっています。顔と名前が一致する方なので、“今日はどうしたんですか?” と思わず声を掛けてしまいました。渡されたチラシには、「経営者はもっと誠実に真摯に楽団員の、そして楽団のことを考えてください」と大書されています。
読んでみると、楽団員の労働条件や特定楽員への待遇に関して争議になっている由。私も初めて知った内容ですが、大阪シンフォニカーも前途多難ということ。ここでは詳しく触れません。
残念ながら客足は重いですね。私は最も安い席、3階の真ん中で聴いたのですが、埋まっているのは中央辺りだけ。見下ろせば1階も同様。左右のブロックはほとんどが空席でした。都民芸術フェストの賑わいとは別世界。東京のクラシック・ファンはこんなものなのか。
しかし音楽は素晴らしいものでした。竹澤のエルガーは、1710年のストラディヴァリウス「カンポセリーチェ Camposelice」を駆使し、極めて繊細なテクニックで聴衆を魅了します。
聴きどころの第3楽章、カデンツァ・アカンパニャートでは思わず身を乗り出して聴き惚れてしまいました。
このカデンツァを伴奏するデイヴィジの弦、エルガーが創始というピチカート・トレモロでは、表のメンバーがアルコ、裏がピチカートという分奏でした。
エルガー、華やかな中に忍び込む哀愁。このヴァイオリン協奏曲はあまり演奏されませんが、私の愛聴曲の一つであることは間違いありません。
ところで聴衆が集中している中央付近。私の前に座ったのは背の高い男性。しかも演奏中に双眼鏡を取り出してステージを眺め回すのです。
「身を乗り出した」のも実はこれが原因の一つ。ステージがほとんど見えません。そこで今回だけは特別、休憩時に少し下、中央よりやや左の周りに誰も座っていない辺りに移動しました。
後半のブラームス、何度も聴いている作品ですが、実に中味の濃い、充実した演奏です。大山マエストロの誠実な指揮、第1楽章提示部を丁寧に繰り返し、特別な仕掛けなど一切せず、真にブラームスを聴いた、という心地良い満足感を味わいました。
アンコールがまた憎い。エルガーの弦楽セレナードから第2楽章・ラルゲット。これはヴァイオリン協奏曲と共通の動機も出てきますし、第1・第2ヴァイオリンの対話が素敵な曲。コンサートの締め括りに相応しい選曲でした。それだけではない・・・。
このオーケストラ、最初の曲ではやや金管がうるさく感じられました。席の所為もあるのでしょうが、弦の少なさも一因かと。ブラームスでは14型でしたが、第2ヴァイオリンの多くはエキストラなんですね。大阪シンフォニカー交響楽団、正規の楽団員数は48名の由。
団員と楽器の制約、エルガーではアド・リブ(使っても使わなくても良い)指定のうち、コントラファゴットは使用せず、チューバは使用という編成でした。もちろんチューバはブラームスでも登場するからに他なりますまい。
尚、ブラームスのホルン、通常の4本にアシスタントが1本付いていました。このうち二人はエキストラだそうです。首席の細田昌宏氏、難所を見事に乗り切って、少ないながらも熱心な聴衆から喝采を浴びていました。
やや硬めに感じられたシンフォニカーの音色、ブラームスでは席を移動したこともあるでしょう、エルガーで慣れたこともあるでしょう、オケのバランスは気になりませんでしたし、じっくりと演奏に集中できました。
マエストロ大山、ミュージックアドバイザー兼首席指揮者としての任務は今月が最後。4月からは音楽監督・首席指揮者に児玉宏氏が就任します。
この新コンビ、既に来年のフェスティヴァル出演も決まっています。プログラムはメインにアッテルべりの第6交響曲(日本初演)を据え、先日素晴らしいマルシャリンを歌った佐々木典子によるシュトラウスの4つの最後の歌。そして冒頭は何とエルガーの弦楽セレナードなんです。
つまり、昨夜のアンコール曲が来年の幕開け。いかにもシンフォニカーは苦難の道を歩み続けるぞ、というメッセージであるかのように感じられました。
更に同オケ、正指揮者・寺岡清高の活動にも目が離せません。今期のプログラムには「ベートーヴェンと世紀末ウィーンの知られざる交響曲」というコンサートが2回含まれています。
5月に第2とハンス・ロットの交響曲、来年2月は第4とロベルト・フックスの第3。
更に次期シーズンでは、第6とツェムリンスキーの第2(日本初演)。第8とフランツ・シュミットの第4という組み合わせも。
この日のプログラム(渡辺和氏)によれば、シンフォニカーは日本のオーケストラにおけるインターネット情報伝達のパイオニア。なるほどこれほど盛りだくさんで、自社の問題点も曝け出してしまうサイト。一度は見るべしであり、大阪シンフォニカー、畏るべし。なのです。

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