大阪シンフォニカー・第129回定期演奏会
11月7日の金曜日、ひっそりと大阪シンフォニカー交響楽団の定期演奏会を聴いてきました。当日は帰れないので1泊。グズグズして今帰り着いたところ。
大阪シンフォニカー交響楽団・第129回定期演奏会 ザ・シンフォニーホール
メンデルスゾーン/序曲「静かな海と楽しい航海」作品27
メンデルスゾーン/ヴァイオリン、ピアノと弦楽のための協奏曲二短調
~休憩~
メンデルスゾーン/交響曲第1番ハ短調作品11
指揮/広上淳一
ヴァイオリン/米元響子
ピアノ/河村尚子
コンサートマスター/森下幸路
このオーケストラは今年の3月、すみだトリフォニーホールで聴きました。地方都市オーケストラ・フェスティヴァルの一環。
今年の4月、新しい音楽監督・児玉宏が就任してからは初めてですし、本拠地の大阪で体験するのも初。そもそもザ・シンフォニーホールに足を踏み入れたのも初めてですから、何かと比較する術はありません。
感じたことを思いつくままに。
まず、このホールは素晴らしいアクースティックに恵まれていると感じました。東京のサントリーホールほど馬鹿デカイ入れ物ではなく、舞台と客席が近いためでしょう、アットホームな雰囲気に満ちています。
舞台が比較的低いのも音響的に有利です。尤も、今回私が座った席が1階F列22番。サントリーなら舞台に近過ぎて見上げるような場所ですが、ここでは目線が丁度指揮者の背中に当たり、まるで最良の位置にセットされた高級オーディオ装置を楽しむような感覚でした。
曲目がオール・メンデルスゾーンということで編成はやや小振りなのですが、そのダイナミックスに不満は全く感じません。
いや、それどころか、適度なパースペクティヴを伴って直接的に迫ってくる2管編成の迫力にタジタジとなるほど。
ここはいい!
メンデルスゾーンは1809年生まれですから、来年が生誕200年に当たります。いろいろなオケで記念コンサートが計画されていますが、大阪シンフォニカーのは一歩先んじた企画。フライングでもあります。
広上が取り上げた3曲は、滅多に演奏されない作品ばかり。私も序曲と交響曲はCDでしか聴いたことはなく、協奏曲に至っては今回初めて接する作品です。
そういう意味でも貴重な機会でしたが、ただ貴重と言うに止まらず、素晴らしい音楽体験であったことを報告しておきたいと思います。
最初の序曲からして広上の棒は絶好調。静かな海の滑り出しから手応え充分な響きを引き出します。
滑らかに航海は進み、躍動する第2テーマ。ティンパニの連打から3本のトランペットが奏する輝かしいファンファーレと、序曲は華やかなコンサートの開始を告げるのでした。
続く協奏曲。メンデルスゾーン14歳の時の作品ですが、中々聴き応えのある協奏曲です。
良く歌い、かつ芳醇な河村のピアノと、瑞々しい音色の米元のヴァイオリンが、いかにも若きメンデルスゾーンに相応しく初々しい合奏を繰り広げていきます。
これを支える広上のダイナミックで陰影に富んだ弦合奏だけのバック。
メンデルスゾーンが先人たちの音楽に多くを学んだことは、15歳になったばかりのメンデルスゾーンが書き上げた第1交響曲に明瞭に聴き取れます。
第1楽章は明らかにモーツァルトのト短調交響曲の影響が感じられますし、ベートーヴェンもチョロチョロと顔を出します。
第2楽章の第1主題は、モーツァルトの「魔笛」。パミーナとパパゲーノの二重奏を思い出して思わずニッコリ。
第3楽章メヌエット。そのトリオはほとんどシューベルトのロザムンデの世界ですし、トリオがティンパニの合図でメヌエットに回帰する場面は、明らかにベートーヴェン第5の第3~第4楽章間のブリッジを連想させます。
第4楽章の第1主題はウェーバー風のテーマで開始されますし、第2主題の弦によるピチカートはロッシーニが手本でしょうね。
展開部を開始するフーガ風の動きは、大バッハを勉強した証拠。
それでも全体を通して響いてくるのは、紛れもないメンデルスゾーンの音楽。
広上淳一は、この知られざる名曲を実にダイナミックに、大きなスケール感を伴って描き切りました。オーケストラは、どのパートも斬れば鮮血が迸るような充実した響きで応えます。
メンデルスゾーンの1番って、こんな素晴らしい作品だったんだ。これまでDG盤のCDで聴いてきたつまらない音楽は何だったのか。
広上淳一は桁違いのマエストロ。やっぱり結論はこうなりましたな。
大阪シンフォニカーについて。
東京のオーケストラはコンサート開始時間になると楽員が一斉に舞台に登場しますが、ここはメンバーが三々五々舞台に上がって夫々が譜面をさらい、開始時間になってチューニングを始めるスタイル。
このオケ、今期からコンサートマスターが3人体制になったのですが、今日のコンマスは首席コンマスの森下氏。もう一人のコンサートマスターである林七奈さんがフォアシュピーラーを務めていました。
以上、真に充実したメンデルスゾーン・プログラムを堪能できて大満足。
コンサートマスターの森下幸路リサイタルが1月31日に東京文化会館であるってちらし見ましたよ!