読売日響・第99回芸劇マチネー

何という名曲。ここには神が棲んでいるとしか言いようのない美しさ。

読売日響・第99回東京芸術劇場マチネーシリーズ
スクロヴァチェフスキ/コンチェルト・ニコロ(左手のためのピアノ協奏曲)
~休憩~
ブルックナー/交響曲第2番
指揮/スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ
ピアノ/ゲイリー・グラフマン
コンサートマスター/藤原浜雄
フォアシュピーラー/鈴木理恵子

読響の新シーズンが始まりました。4月は常任指揮者・スクロヴァチェフスキの登場で3種類のプログラムが演奏されます。その第一弾、芸劇マチネー。
土曜日のマチネーということもあり、やや短めのコンサートでしょうか。前半はスクロヴァチェフスキ自身の作品、左手のためのピアノ協奏曲です。もちろん初めて聴くもの。
タイトルの「ニコロ」とはニコロ・パガニーニのことで、有名なカプリッチョの24番を主題とする4楽章作品です。4楽章といっても全体は切れ目なく演奏され、全体は27分とプログラムに書かれていました。

ピアノはゲイリー・グラフマン。懐かしい名前です。ミュンシュ/ボストンと共演したブラームス(第1番)なんか持ってますから、時代を間違えたんじゃないか。
プロフィールによると、グラフマンは1928年のニューヨーク生まれ。今年80歳ですわ。バリバリの現役のとき、51歳で右手薬指を捻挫、ピアニストとしては第一線から引かざるを得なかったそうです。その後教職に就き、ランランなどを育てました。
更に演奏家としても第3の人生を切り拓き、左手のピアニストとして現役とのこと。従ってスクロヴァチェフスキの左手協奏曲は、ラヴェルなどとは違ってグラフマンのために書かれた作品。今回の演奏は、作曲者とピアニストとのコラボレーションでもあります。

グラフマン、実は初めて見ました。楽譜をピアノの前に置いて演奏、右手で楽譜をめくります。スクロヴァ翁も指揮台にスコアを置いての指揮。
80歳のピアノ、流石にバリバリと言うわけには行きませんが、指揮するのは更に5歳も年上。二人合わせて165歳が創り出す世界は、決して老人たちの手遊びではありません。
冒頭にフルートが、続いてオーボエが出すテーマは、例のパガニーニ主題の回転型でしょう。やがて耳に馴染んでいる主題がハッキリと姿を現わします。
第1楽章<ゆっくりともの憂げに>、第2楽章<ゆるやかで即興風に>、第3楽章<急速で暗く>、第4楽章 <中庸の速度で> 。第2楽章と第3楽章にカデンツァがありますが、いわゆるカデンツァ・アカンパニャート。様々な楽器も加わるカデンツァです。
終わり方がチョッと変わっていて、“エ、これで終わり?”、という感じ。
老巨匠二人の握手。頻りにマエストロがグラフマンをたてますが、グラフマンも目の前の楽譜を掲げて、“こりゃ、あんたの作品じゃろが” という風情。

しかし今日の聴きものは何と言ってもブルックナーでしょう。第2交響曲、あまり取り上げられませんが、私はレコードや楽譜で齧っていてとても好きな曲です。多少は知っていたような気でいましたが、とんでもないこと。
今回ナマで聴いてみて、改めて凄い作品だということに衝撃を覚えました。
第1楽章の後半、これまで聴こえなかったような素晴らしいフレーズが次々に沸き起こってきます。スクロヴァチェフスキが左手をヴィオラに翳すと、初めて聴くような対旋律が・・・。続いて第2ヴァイオリンがこれを引き継ぐ。なんとも見事な内声部。
スクロヴァチェフスキは、目立たないパートを意味なく浮かび上がらせているのではありません。例えば樹に光が当たれば翳が出来ます。マエストロは樹も翳も、同時に聴く人の目の前に提示してみせる。そのことから生まれる立体感。
第2楽章の素晴らしさを何に喩えるべきか、これはもう言葉を失ってしまいました。それこそ、神が棲んでいるとしか言い様のない美しさ。
最後のフレーズは、ハース版の指示通りホルンの深々としたソロ。終わって欲しくない、という気持ちを裏切るよう。暮れなずむ春の空の如し。
ブルックナーの第2交響曲。私がこれまで聴いてきたのはなんだったのか。初めてこの曲の真価を聴いた、という感動。スクロヴァチェフスキ、こういう人をマエストロと呼ぶのでしょう。

ブルックナーといえばイン・テンポで金管を咆哮させるだけの演奏が多い中で、スクロヴァチェフスキは音楽が求めるままにテンポを緩めたり、激しくクライマックスに向けてオーケストラをドライブする。つまり、音楽が活きている。これこそブルックナーでしょ。
この日スクロヴァチェフスキが仕掛けたマジックは、弦楽器を14型で演奏したことでしょうか。コントラバスが3プルトだけ。
このことから生まれる透明感、第2楽章の弦楽合奏に特別な美しさを齎していたように聴きました。

版に関しては録音と同じでしょう。主にハース版を主体にし、第2楽章はノヴァーク版が主体。版がどうこう言うより、完璧にスクロヴァチェフスキの譜読みが透徹した名演。
スクロヴァチェフスキの指揮で第2交響曲を聴ける機会、あと1回だけ残っています。明日のみなとみらいホール。

 

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