読売日響・第512回定期演奏会
2月の読響は、フィンランドの名指揮者オスモ・ヴァンスカの担当です。全部で3種類のプログラムを振りますが、その全てにカレヴィ・アホの作品が取り上げられるのが注目される所でしょう。
私がヴァンスカ/読響に接した最初はシベリウス・プログラム(交響曲4番と5番にフィンランディア)だったと記憶しますが、それ以来出来るだけ聴き続けてきた指揮者です。ニールセンとベートーヴェンの交響曲は全て聴きましたし、最近では来日の度に紹介しているアホ作品もいくつか体験しました。
特にフルート協奏曲や第7交響曲については恥ずかしながら「聴き所」などを書き散らかした懐かしい存在でもあります。
しかし時間が経ち、今回ヴァンスカを聴けるのは以下の定期1回だけ。以前なら事前に調べたであろうアホ作品についても何の予備知識もないままに当日を迎えてしまいました。
読響定期としては名曲路線と言われても仕方が無いようなプログラムは以下のもの。
アホ/ミネア(日本初演)
R.シュトラウス/歌劇「ばらの騎士」組曲
~休憩~
ブラームス/交響曲第1番
指揮/オスモ・ヴァンスカ
コンサートマスター/デヴィッド・ノーラン
フォアシュピーラー/鈴木理恵子
ヴァンスカの素晴らしさについてはこれまで何度も書いてきましたから、繰り返すこともないでしょう。彼のシュトラウスとブラームスは初体験でしたが、如何にもヴァンスカらしさが良く出た演奏だと思いました。
圧倒的に優れていたのはブラームス。何処がどう、と言うような分析をする必要が無いほど、私にとっては理想的なブラームス演奏と聴きました。何より指揮者の恣意的な解釈が一切無く、その演奏からヴァンスカの姿は消え、ブラームスその人の音楽だけが鳴り響いてくるのでした。
かつての巨匠たちによる名人芸で育った世代には、やや物足りなく感じられたかもしれません。特にドイツ系の演奏が好きな人には、場所によってテンポが速過ぎると思われたでしょう。しかしヴァンスカのテンポこそ、ブラームス本来の自然な流れを大切にした「伝統的」なアプローチだと私は考えます。
第1楽章のコーダ、第4楽章の序奏部、同じ第4楽章の練習記号MからNにかけてのクライマックス辺りがその典型。ヴァンスカのオリジナルに拘る姿勢は徹底していて、名人が手を加えた加筆は全て排除され、第1楽章提示部の反復も指示通りに実行されていました。
敢えて言えば、ヴァンスカの真面目さが正にブラームスの音楽が持つ特質と完全に合致していることが、当夜の演奏の存在感を決定的にしていたと思います。
これに比べると、前半に演奏されたリヒャルト・シュトラウスには若干のミスマッチが感じられました。演奏そのものの見事さは決してブラームスに劣るものではありませんが、何処かシュトラウスらしくない違和感も感じてしまうのです。
無理に言えば、洒落っ気とか微笑みが不足している。ヴァンスカの演奏では「ばらの騎士」という歌劇を連想させるよりも、シンフォニックな構築物に接するような印象を持ってしまいます。もちろんそれで一向に構わないのですがね・・・。
冒頭の「ミネア」、もちろん私は初体験です。今回ヴァンスカはアホのクラリネット協奏曲とチューバ協奏曲も取り上げ、3作品全てが日本初演という快挙でした(チューバ協奏曲はこのあと、25日ですが)。
前回(第7交響曲)のときはサントリーホールで作曲者自身とすれ違ってドキッとしましたが、今回はアホの来日はなかったようです。その代り、プログラム誌には彼自身の「カレヴィ・アホ 自作を語る」という一文が掲載されていて、アホ自らが曲目解説の筆を揮っています。彼のファンにとっては永久保存版になるでしょう。
コンサートに出かける前、私は漠然と「ミネア」とはヴァンスカの本拠地「ミネアポリス」のことかと思っていましたが、特にタイトルについての説明は見当たりませんでした。
いずれにしても作品はミネソタ管のために書かれたもので、2008年の作曲、初演は2009年11月にミネアポリスで行われています。
全体は通して演奏される18分ほどのもの。西洋以外の音階と調性音楽との融合を目指したもので、アフリカ、アラビア、インドのリズムに加え、冒頭には日本的な要素も盛り込まれている由。
音楽は次第に速度を増していく構成で書かれ、トランクィッロ→アレグロ→フリオーソ→プレストの順にアッチェレランドして行きます。打楽器が大活躍で、アラビアの「ダラブッカ」という太鼓が新鮮に響きました。
恐らく多くの人が気付かれたと思いますが、最後のプレストの速いパッセージはストラヴィンスキー「春の祭典」の第1部の最後に登場する「大地の踊り」を連想させるもの。
またヴァンスカの指揮振りから判断するに、この曲のリズムは真に複雑で、定型的な2・3拍子の連続などは出てこない様子。複雑な拍子構造で、演奏する方は大変な苦労を強いられるのではないでしょうか。演奏している個所はまだしも、休止符でリズムを数えるのは至難の業かと思慮しました。
余計なことかも知れませんが、アホの出版社フェンニカ・ゲールマンスのホームページで検索すると、「ミネア」には Concertante Music for Orchestra というサブ・タイトルが付いているようです。正に管弦楽のための協奏曲で、第一級の実力オケでなければ演奏不能の代物か。
またプログラムにも楽器編成が掲載されていましたが、出版社のアナウンスにはもっと細かい指示があります。折角調べたので、転記しておきましょう。
フルート4(1番奏者ピッコロ持替)、オーボエ4(4番奏者イングリッシュ・ホルン持替)、クラリネット4(4番奏者バス・クラリネット持替)、ファゴット4(4番奏者コントラ・ファゴット持替)、ホルン6、トランペット4、トロンボーン3、チューバ、打楽器4人、ハープ、ピアノ(チェレスタも担当)、弦5部(16-14-12-10-8)。
打楽器は、1番奏者/ティンパニ(少なくとも5台)、Piatti sospesi 2、Piatti per timpano
2番奏者/Piatto sospeso(grande)、Cantene、Campi tubolani、Tom-toms 4
3番奏者/Vibraphone、Tam-tam(grande)、Bongos 2、Darabucka
4番奏者/Glockenspiel、Gran cassa、Congas 2、Cassa rullante
ということで、シンバルだけでも何種類も使われていたことが判ります。
なお、今回の弦楽には対抗配置が採られ、前半の金管群は、中央の打楽器群を挟むようにホルンが左手、トランペットとトロンボーンは右手に分かれて位置していました。テレビカメラが何台も収録に入っていましたから、この様子はいずれオン・エアされるでしょう。
また恒例のヒステリックなブラボー隊はお休みだったようで、客席のマナーも私には好ましいものでした。こうでなくちゃ、ネ。
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