日本フィル・第321回名曲コンサート

土曜日・日曜日と二日連続、サントリーホールでのオーケストラ・コンサートです。
来年のびわ湖ホールで上演される「トゥーランドット」、リューを歌うのは木下美穂子だというニュースに快哉を叫びつつ、びわ湖音楽監督・沼尻竜典の日本フィルでの仕事ぶりをお伝えしましょう。
ワーグナー/楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲
ショパン/ピアノ協奏曲第1番
     ~休憩~
ブラームス/交響曲第1番
 指揮/沼尻竜典
 独奏/辻井伸行
 コンサートマスター/木野雅之
去年の夏から飛び飛びに続けられてきた、沼尻/日本フィルのコンビによるブラームス・チクルスの最終章です。このチクルス、全交響曲の演奏会場が全て異なるという、異色のチクルスと言えるかも知れません。演奏順に列挙すれば、
第2/杉並公会堂
第4/東京オペラシティコンサートホール
第3/みなとみらいホール & 大宮ソニックシティ
第1/サントリーホール
という具合。
コアなクラシック・ファンからはあまり注目されていないようですが、40代の沼尻にとっては避けて通れないチャレンジ。私も陰ながら応援すべく、第1回以外は全て通ってきました。
どうも東京定期の「入り」が芳しくない日本フィル、この日はどうかと心配もありましたが、前売りを求める列が結構長く続いています。蓋を開けてみれば、ほぼ完売に近い入り。P席もほとんど埋まっていました。昨日の読響がいかにもコアな聴き手に満たされていたのに比べると、こちらは客層も若いし、クラシックの常連さんは少ないようですね。
満員の聴衆を集めて得意のブラームス、沼尻も燃えていました。冒頭のワーグナーから堂々とした構えのドイツ音楽を響かせます。
続くショパン。このピアニストは私が初めて聴く人。彼のピアノを聴きに来た人も多いのでしょう。ショパンが終わったら帰ってしまったファンもいたようです。
まだ二十歳ですが、ハンデキャップを背負った人で、ここ10年に亘ってテレビ朝日が取材を続けている由。
ピアニストとしての感想を正直に綴れば、辻井伸行は奔馬というか駿馬というか。真っ直ぐな坂道を只管に突き進むようなところがあります。ショパンでも、第1楽章のパッセージワークではどんどんテンポが上がってしまう。再現部、主題がオーケストラに帰ってくるところで、沼尻がテンポを元に引き戻すという、ややスリリングな展開も聴かれました。
ま、この辺にしておきましょう。
お目当ての第1交響曲。これは素晴らしい演奏でしたね。出だしもコントラバスから「ズズン」と入ってくるし、テンポも速目ながら走るようなこともない。日本フィルのドイツ物、とやかく言う人もいるようですが、Nや読のそれと比して決して遜色があるとは思えません。
むしろこのオケ独特の明るい響きが沼尻の瑞々しい感性に合致、ブラームスの青春を高らかに謳い上げることに成功していた、と言えるでしょう。
何より沼尻の「熱さ」がオーケストラ全体に行き渡り、第4楽章の高揚感は思わず手に汗を握るほどのスリル。管楽器も好調で、トロンボーンのコラールも、ホルンの雄叫びも、快演に華を添えました。
満場の大拍手に応えて、アンコールはハンガリー舞曲第1番。またか、という気もしないではないけれど、沼尻/日本フィルの定番アンコール。客席も更に沸いていました。
今シリーズ。第2は聴き損ないましたが、第4がベスト、差なく第1というのが私の感想。第3や第1の緩徐楽章に一層の渋味が加わってくるのは、まだ先のことでしょう。それを今の沼尻に求める必要もないと思います。
さて、
人気のピアニストが登場し、曲目は1番人気のブラームス。これなら客席も一杯になるし、指揮者もオーケストラも大いに燃えます。
しかしプログラムをチョッと捻ると、とたんに客足は遠のく。日本フィルに限らず、東京のオケの永遠の課題かも知れません。いや、東京だけでなく、世界的にクラシック音楽界が抱えている現状なのでしょう。
“今日のブラームス良かったね。ピアニストも感動的だったし。” という若い聴き手が、“他の曲も聴いてみたいね。” と、次回も足を運んでくれるかどうか。この日のコンサートは、そうなることを期待させるに充分な盛り上がりを作ってくれたと思いますが・・・。

 

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