日本フィル・第276回横浜定期演奏会

昨日はチョイ寒の横浜、みなとみらいホールで日フィルの横浜定期を聴いてきました。チョイ寒どころかアフター・コンサートを楽しんだ頃には「お~寒」、今年は季節の進みが遅いので、例年の「寒の戻り」という感覚です。
今回は広上淳一のフレンチ・セレクション、ドイツの野暮ったい音楽を聴き続けてきた耳には真に新鮮に響きます。プログラムは、

ドリーブ/バレエ音楽「コッペリア」~プレリュードとマズルカ
ビゼー/歌劇「カルメン」セレクション
     ~休憩~
イベール/交響的絵画「寄港地」
ラヴェル/亡き王女のためのパヴァーヌ
ベルリオーズ/序曲「ローマの謝肉祭」
 指揮/広上淳一
 メゾソプラノ/富岡明子
 ゲスト・コンサートマスター/物集女純子
 ソロ・チェロ/菊地知也

先ず選曲が見事。「フレンチ」と言っても異国の味付けが効いており、スペイン風、イタリア風、イベールに至っては北アフリカのチュニジアにまで旅します。このプログラムにブラヴォ~でしょ。
また演奏が実に良い、安心して身を任せていられるし、ワクワク感、ドキドキ感も楽しめる内容。理屈は要らず、素直に楽しみました。

冒頭のドリーブは、最近では滅多に聴けなくなってしまった佳曲。オールド・ファンの私は、子供の頃にモントゥーが指揮したドーナツ盤・家庭名曲集のアルバムで盤面が擦り切れるほど聴いたものです。
今回はバレエ全曲の中でも冒頭に演奏されるプレリュードからマズルカまで。頭のホルン四重奏はウェーバー(魔弾の射手)やワーグナー(ジークフリートのラインへの旅)を連想させるほど雰囲気豊かなもの。フランスにだってこんな素敵なハーモニーがあるのだぞッ、と言わんばかり。
有名なワルツは取り上げられませんでしたが、何時かは広上セレクション版による「コッペリア」を聴いてみたいですね。出来ればバレー付きで。

次は天下の名曲カルメン。カルメンを歌うのは、広上マエストロ一押しのメゾ、富岡明子です。去年まではコンクールに出ていた新人ですが、既にキャリアは堂々たるもの。私も広上指揮の東フィルでバーンスタイン(エレミア交響曲)に接し、その深い張りのある低音に舌を巻いたものです。日本人にもこんなメゾがいるのか・・・、と。
今回は広上セレクションで、カルメンの歌を中心にしたもの。曲順は①第1幕への前奏曲(後半も演奏) ②ハバネラ ③“切られようと焼かれようと” ④セギディーリア ⑤アルカラノ竜騎兵 ⑥第3幕への前奏曲 ⑦カルタの歌 ⑧アラゴネーズ ⑨ジプシーの歌 と結構盛り沢山。特に⑦は珍しい選曲じゃないでしょうか。

富岡が公開の場でカルメンを歌うのは初めてだそうで、年齢的な若さもあってミカエラ風のカルメンという印象。未だ20代ですから、妖艶な魅力を求めるのは酷というものでしょう。それでもドスの効いた低音は将来のカルメン像を期待させます。
これをスタートに同役をマスターし、5年後・10年後に彼女のカルメンを舞台で見たいと思いましたね。相手になるホセやエスカミーリョが出現するかしら。
広上/日フィルの伴奏も緻密且つ蠱惑に満ちたもの、やはり広上には本格的な舞台上演を振ってもらいたいと切望します。

イベールは今年が没後50年。日本とも縁が深い作曲家ですから、もっと様々な作品が紹介されても罰は当たらないでしょう。フルートやオーボエの美しい音色に時間を忘れます。

ラヴェルはテンポが素敵。聞けば丸山首席のテンポだそうな。

最後はかつて広上が得意としていたベルリオーズ。もちろん今でも素晴らしい演奏ですが、以前に比べれば全体にゆとりと大人の落ち着きが強く感じられました。見事なイングリッシュ・ホルンのソロ。
もう少し聴きたい、と思うところでプログラムが終了するのも心憎い配慮。また聴きたいという食欲を引き出しますからね。

横浜はアンコールが恒例、“フレンチ・プロですから、モーツァルトを” というマエストロの一言はどういう意味なんでしょう。一部の客席には“もざもざッ、と演奏します”と聞こえたそうな。
滅多に耳にしないモーツァルト作品で、歌劇「イドメネオ」に附せられたバレエ音楽からガヴォット。

後で確認したところによると、昔ヤマカズ(山田和男氏)さんが得意にしていたアンコール・ピースだそうで、ヤマカズさんは昨夜のようにキチンと演奏するのではなく、指揮台に上がる前からオケに指示を出し、最初の音など引き摺り気味に始めたのだとか。
マエストロにしてもオケにしてもアンコールの選択は中々に頭を悩ませるもの。以前からヤマカズさんの得意ピースをやってみたい、というのは広上もオケも考えていた由。それが昨夜実現したというワケ。
アンコール一つにしてもオケには文化や伝統が隠されているもの、こうした「技」を後世に伝えていくのもオーケストラの使命であり、指揮者の拘りでもあるのですね。

結論。定期演奏会はどうしても大きな作品の演奏に偏りがちですが、何回かに一度は隠れた、あるいは忘れられつつある名曲に光を当てて欲しい。大曲ではなく、かと言って小曲でもない。そんな音楽が未だ未だたくさん出番を待っているのですゾ。

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1件の返信

  1. まとめteみた.【日本フィル・第276回横浜定期演奏会】

    昨日はチョイ寒の横浜、みなとみらいホールで日フィルの横浜定期を聴いてきました。チョイ寒どころかアフター・コンサートを楽しんだ頃には「お〜寒」、今年は季節の進みが遅いので…

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