2016ニューマーケット9月開催3日目
昨日最終日を迎えたニューマーケット競馬場のケンブリッジシャー開催、馬場は更に乾いて good to firm 、所によって firm という高速馬場で締め括られました。風が強かったので馬場の乾燥に作用したようです。
最終日のG戦3鞍は何れも2歳戦、特に最後のGⅠ戦2鞍は短距離で行われるため、一層スピード競走の様相を呈していたと思われます。
先ずはGⅡのマイル戦、ロイヤル・ロッジ・ステークス Royal Lodge S (GⅡ、2歳牡せん、1マイル)。このあと行われるレースは6ハロンなので、来年のクラシックに繋がるという意味では寧ろこちらが注目。2010年には名馬フランケル Frankel が勝っていますし、シャーリー・ハイツ Shirley Heights を初めとして後のダービー馬を何頭も輩出しているGⅡ戦です。
8頭が出走し、これが未だ3戦目ながら前走ヨークのアコーム・ステークス(GⅢ)で頭差2着惜敗のベスト・オブ・デイズ Best Of Days が6対5の1番人気。レース振りも血統も距離が伸びて良いタイプでしょう。死角があるとすれば高速馬場。
2番人気(4対1)の上がり馬モンタテール Montataire が逃げ、これを5番人気(12対1)のアルカーダ Arcada と7番人気(16対1)のシー・フォックス Sea Fox が追う展開。この直後に付けたベスト・オブ・デイズが残り1ハロンで前を纏めて捉えると、後方から追い込む最低人気(25対1)の伏兵ザ・アンヴィル The Anvil を首差抑えて人気に応えました。4分の3馬身差の3着はアルカディアとシー・フォックスが同着。
これがG戦初勝利となったベスト・オブ・デイズは、サンダウンのデビュー戦に勝った直後にゴドルフィンが購入し、ブルーの勝負服では2戦目。ヒューゴー・パーマー師が管理し、ジェームス・ドイルが騎乗していました。ドイル騎手はムチの過剰使用により2日間(10月9日と10日)騎乗帝のオマケ付き。
もちろん来年のクラシックを狙える器で、2000ギニーには25対1(レース前と変わらず)、ダービーにも33対1のオッズが出されました。父は愛チャンピオンのアザムール Azamour 、母の父が英愛ダービー2冠のハイ・シャパラル High Chaparral ですから、パーマー師は来年のダービーをこの馬で夢見ることになると告白しています。
続いて2歳牝馬のGⅠ戦、チーヴリー・パーク・ステークス Cheveley Park S (GⅠ、2歳牝、6ハロン)。出走馬が6頭と少なかったのは、アメリカの快速馬レディー・オーレリア Lady Aurelia が立ちはだかっていたから。ロイヤル・アスコットのクィーン・メアリー・ステークス(GⅡ)でファンの度肝を抜き、前走ドーヴィルのモルニー賞でGⅠを奪取した超スピード馬の独壇場と見做されていました。もちろん距離が5ハロンであれば断然ですが、不安があるとすれば伸びた1ハロンの距離でしょうか。
誰もが予想した通りスタートからハナを切ったレディー・オーレリア、中間地点では後続を4馬身引き離していました。しかしこの日は向かい風が強かったこともあり、デットーリが考えていた以上に燃料が切れるのが早かったようです。2番手を追走していた3番人気(11対2)のロリー・ポリー Roly Poly と、直後に付けた5番人気(25対1)のブレイヴ・アンナ Brave Anna が同時にスパートし、一杯になった大本命をしり目に激しい叩き合い。最後は後ろから迫った分有利のブレイヴ・アンナが、ロリー・ポリーを短頭差抑えて優勝。レディー・オーレリアは2馬身差の3着に沈み、初黒星となりました。
1・2着は共にエイダン・オブライエン厩舎で、勝馬にはシーミー・へファーナン、2着馬にはライアン・ムーアが騎乗していました。へファーナン騎手はムチの過剰使用で4日間の騎乗停止。オブライエン師は意外にも、チーヴリー・パーク初制覇。同日に行われるミドル・パークはこれまで4勝していますが、師が制していないGⅠ戦があったことにも驚きです。それだけクラシックには余り繋がらないレースだということでもありましょうか。
ブレイヴ・アンナは3走前にロイヤル・アスコットでアルバニー・ステークス(GⅢ)を制しましたが、その後デビュタント・ステークス(GⅡ)とモイグレア・スタッド・ステークス(GⅠ)で共に6着と敗れ、評価を落としていた馬。一つ上の姉ヒット・イット・ア・ボム Hit It a Bomb もオブライエン師が管理し、去年のBCジュヴェナイル・ターフを制しています。確かに両馬の父ウォー・フロント War Front はダンジグ Danzig 系のスプリンター/マイラーですが、1マイルを克服できないタイプと断ずるのは早計のように思います。オブライエン師の判断や如何に。
一方敗れたレディー・オーレリア、敗因は風、掛かり気味だったことといくつか挙げられましょうが、負けは負け。来年のコモンウェルス・カップで再びロイヤル・アスコットを目指すと明言しています。
9月開催の最後はミドル・パーク・ステークス Middle Park S (GⅠ、2歳牡、6ハロン)。牝馬以上の混戦で10頭立て。前走ジムクラック・ステークス(GⅡ)を制したゴドルフィンのブルー・ポイント Blue Point が11対10の1番人気。このレースで決着が付いたと見られる参戦馬も多く、ここは前走の結果を信頼しての本命です。
逃げたのは、そのジムクラックでは3着と完敗していた8番人気(25対1)のザ・ラスト・ライオン The Last Lion 。ブルー・ポイントは2番手に付け、何時でも抜け出せる体制で勝負所を迎えます。しかし高速馬場故か、逃げ馬との差は中々縮まらず、結局ザ・ラスト・ライオンが本命馬に4分の3馬身差を保ったまま逃げ切ってしまいました。競馬はやってみなければ判りません。スロー・スタートから中団を進んだ2番人気(6対1)のメーマス Mehmas が2馬身4分の1差で3着。
ミック・シャノン厩舎、ヴェテランのジョー・ファニング騎乗のザ・ラスト・ライオンは、これが実に10戦目と言う経験豊かな馬で、平場が開幕した初日の不良馬場でデビュー勝ちして以来、シーズンを通して走ってきました。ジムクラックで3着したあともサイレニア・ステークス(GⅢ)に勝ち、前走フライング・チルダース・ステークス(GⅡ)でも2着していました。騎乗したファニングは、この日が46歳の誕生日。これまで能力のある馬に騎乗していても、GⅠ戦では他のジョッキーに乗り替わられることが多かった(英語では Jock off と表現します)方で、これが実にGⅠ戦は初制覇となりました。それでも腐らずに己の仕事に徹してきたジェントルマンでもあります。
この馬も将来はスプリンターとも考えられますが、母の姉タラスコン Tarascon は愛1000ギニーに勝っており、単純な短距離馬と決めつけるのは早過ぎるのじゃないでしょうか。尤も父は豪州のスプリンター、ショワジール Choisir 。父と母、どちらの血がより濃く出るかにもよるでしょう。ショワジールの代表産駒にはシューメーカー・マイル(芝GⅠ)を2連覇したオビアスリー Obviously 、QEⅡとロッキンジでマイルG12勝のオリンピック・グローリー Olympic Glory が出ていることも忘れてはなりません。
またこのレースで3着に終わったメーマスは、オーナーのアル・シャカブが引退を発表。故障したわけではありませんが、ヨーロッパでは2歳戦のみで早々と種牡馬になってしまう馬が時折出現します。
メーマスはチェスターとニューバリーでデビューから2連勝し、その後ジュライ・ステークス(GⅡ)とリッチモンド・ステークス(GⅡ)に連勝。前走カラーのナショナル・ステークス(GⅠ)は2着し、通算で7戦4勝2着3回と、日本流に言えば全て馬券に絡んだパーフェクトな成績。種牡馬としての価値は今が一番と判断しての決断でしょう。
2020年のオリンピック・イヤーには早くも初産駒がターフに登場することになりますから、メーマス産駒の活躍にも期待しましょう。
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