オブライエンだ、ムーアだ、ガリレオだ!!!

昨日の続きで、今日は10月2日に行われた競馬レポートを2本書きます。最初はフランス編で、シャンティー競馬場で行われた凱旋門賞フェスティヴァル当日のGⅠ6鞍。去年まではカドラン賞も組まれていましたが、昨日書いたように、この長距離戦は土曜日に回りました。
凱旋門賞については様々なところで書き尽くされていますから、ここはレース順に、特に余り日本では報道されていないレースを中心に見ていきましょう。日曜日はGⅠ6レースの他にアラブ種のレースが一鞍あって、かつては日本でも盛んに行われていたアラブの競馬を見るのも一興でしょう。もちろんここでは触れません。

この日の馬場はズバリ、good で、事前に予測されていたより良い馬場で行われました。第1レースのマルセル・ブーサック賞 Prix Marcel Boussac (GⅠ、2歳牝、1600メートル)は11頭立て。無敗馬が4頭出てきましたが、前走オマール賞(GⅢ)を含めて3戦無敗のトゥーリフォー Toulifaut が5対2の1番人気。結局今年の凱旋門賞に縁が無かったジャン=クロード・ルジェ師はここに期待を掛けます。
英国からジョン・ゴスデン師が送り込んだ2番人気(31対10)のダブヤー Dabyah (デットーリ騎乗)が逃げ、トゥーリフォーは掛かり気味に中団に待機。しかし本命馬は前が開かず行き場を探しているうちに失速、そのまま8着に敗退してしまいます。替わって抜けたのは、3ハロン地点で前に並び掛けた6番人気(98対10)のウヘイダ Wuheida 。3番手から伸びる3番人気(42対10)のプロミス・トゥー・ビー・トゥルー Promise To Be True (オブライエン/ムーア)を4分の3馬身退けて、この日最初の番狂わせを演じました。粘ったダブヤーが短首差で3着。

勝ったウヘイダ、何と発音するのか又しても読み難い馬名ですが、ゴドルフィン馬でニューマーケットで7ハロンの新馬戦を1番人気で勝ったばかり。新馬からいきなりのGⅠ馬というエリートコースに乗りました。
管理するのは英国のチャーリー・アップルビーで、ウイリアム・ビュイック騎乗。アップルビー師にとっては、これがエクリプス賞のホークビル Hawkbill に次ぐ今期二つ目のGⅠ勝利です。師によればウヘイダは明らかにオークス・タイプで、12対1のオッズが出されました。もちろん1000ギニーにも登録があり、こちらのオッズは8対1となっています。

次いでは2歳牡馬によるジャン=リュック・ラガルデール賞 Prix Jean-Luc Lagardere (GⅠ、2歳牡牝、1600メートル)。去年から距離が1ハロン伸びたので、以前レース名グラン・クリテリウムを用いた方が通りが良いかもしれません。こちらは7頭が出走。ここ10年で7勝していることもあり、エイダン・オブライエン厩舎が主戦ライアン・ムーアで臨むホワイトクリフスオブドーヴァー Whitecliffsofdover が8対5の1番人気。但し1勝馬で、前走トトソルズ・ステークス(GⅢ)では2着に敗れています。
3番人気(3対1)のナショナル・ディフェンス National Defense がスタートから飛び出し、2番手を追走する本命馬を尻目に堂々の逃げ切り勝ち。ゆったりしたスタートから3番手を進んだ5番人気(9対1)のサルーエン Salouen が追い上げて2番手に上がりましたが、勝馬からは4馬身半差離されていました。ホワイトクリフスオブドーヴァーは最後で短首差交わされ3着と、ここも本命馬は勝てませんでした。

ピエール=シャルル・ブードー騎乗で逃げ切ったナショナル・ディフェンスは、8月23日にドーヴィルの1600メートルで新馬勝ち。続くシェーヌ賞(GⅢ)ではアキヒロ Akihiro の3着に敗れましたが、今回は新馬戦に勝った時のような積極策でG戦初勝利です。
管理するクリティック・ヘッド=マーレク女史と言えばトレーヴ Treve で有名ですが、凱旋門賞2勝の同馬が引退した後は馬に恵まれず、今年初めにはトレーヴのオーナーだったアル・シャカブ・レーシングからも契約が切られ、散々なシーズンを余儀なくされてきました。何とナショナル・ディフェンスは今年女史が勝った馬2頭の内の1頭で、現時点でクリティックの勝鞍はたった3勝という悲惨なシーズン。ナショナル・ディフェンスの快走で運命を変えたいところでしょう。

そして第3レースがオペラ賞 Prix de l’Opera (GⅠ、3歳上牝、2000メートル)。ここも7頭と出走馬は少なく、ここ8年で3歳馬が7勝していることもあり、無敗の3歳馬ソ・ミ・ダー So Mi Dar が7対10の断然1番人気。ミュジドラ・ステークス(GⅢ)に勝った時点でオークスの本命に上がったほどの馬ですが、故障でオークスを回避。9月にヤーマス競馬場のリステッド戦に勝って復帰し、直前まで凱旋門賞にも登録していました。英ゴスデン厩舎、デットーリ騎乗で無敗のままのGⅠ制覇に期待が掛かります。
ジャン=クロード・ルジェ厩舎の2番人気(41対10)ジェマイイェル Jemayel が逃げましたが、3ハロン地点まで。2番手に付けていた4番人気(6対1)で久し振りのプレイスコック Pleascach がここで先頭に立ち、更に3番人気(48対10)のスピーディー・ボーディング Speedy Boarding も加わって熾烈なゴール前。写真判定の結果、外から追い込んだスピーディー・ボーディングがプレイスコックを短頭差交わして優勝。4歳馬のワン・ツー・フィニッシュとなりました。人気のソ・ミ・ダーは先行していましたが前が開かず、外に出してから追い込んだものの前2頭には半馬身及ばず3着。敗れたとは言え内容は悪くなく、更に伸び代が期待できそう。母ダー・レ・ミ Dar Re Mi と同じくロイド・ウェッバー卿の持ち馬で、来年は凱旋門賞を狙うかも。
また2着のプレイスコックは去年の愛1000ギニーとヨークシャー・オークスを制した馬で、去年の愛チャンピオン・ステークスでダービー/凱旋門賞馬ゴールデン・ホーン Golden Horn の4着以来1年1か月振りの実戦。ジム・ボルジャー師が敢えて遠征してきただけのことはありますが、師は勝つ積りでの参戦でした。

勝ったスピーディー・ボーディングは英国ジェームス・ファンショー厩舎、フレデリック・ティリッキ騎乗。前走ドーヴィルのジャン・ロマネ賞に続くGⅠ戦2連勝となりました。2週後のチャンピオン・フィリーズ・アンド・メアーズ(GⅠ)に10対1のオッズが出されましたが、レース間隔が詰まっていることもあり、オーナー・サイドはこれを最後に繁殖牝馬として引退させたい意向のようです。

そして愈々凱旋門賞 Prix de l’Arc de Triomphe (GⅠ、3歳上牡牝、2400メートル)。枠順も紹介しましたし、日本でも多数報道があったように16頭立て。最終的にはGⅠ4勝を含めて6連勝中の英国馬ポストポーンド Postponed が2対1の1番人気となり、フランスでのトライアルをクリアーした日本ダービー馬マカヒキが39対10の2番人気。以下、英愛ダービー馬ハーザンド Harzand が13対2の3番人気、去年の凱旋門賞3着馬ニュー・ベイ New Bay が9対1の4番人気と続いていました。
ハーザンドのペースメーカーでもある13番人気(68対1)のヴェデヴァニ Vedevani が逃げ、大外16番枠から出た7番人気(14対1)のオーダー・オブ・セント・ジョージ Order Of St George がポツンと馬場の外を通って一人旅という珍しい光景。それも3ハロンまでで、ヴェデヴァニの逃げをオーダー・オブ・セント・ジョージが2番手で追走し、ポストポーンドは早めの好位置。例年の凱旋門賞より速いペースで進んだことは間違いないようです。

このハイペースを中団の内に控え、機を窺っていたのが5番人気(96対10)の ファウンド Found 。直線に向かうコーナーを過ぎると、ポストポーンドとオーダー・オブ・セント・ジョージとの僅かな間隙を衝いて一気に抜け出すと早や先頭。同じく先行から追い始めた9番人気(24対1)のハイランド・リール Highland Reel に決定的な1馬身4分の3差を付ける快勝。1馬身半差でオーダー・オブ・セント・ジョージが3着に粘り、以下4分の3馬身差で12番人気(66対1)のシルジャンズ・サガ Siljan’s Saga 4着、2馬身半差でポストポーンドは5着に終わりました。
2番人気のマカヒキは終始中団の外を回され、最後の勝負どころでは全く付いて行けず14着敗退。引っ掛かったというコメントもありましたが、冷静に見れば能力は過大評価されていたと思います。ハーザンドは馬場が早過ぎたのでしょうか、ペースメーカーを一つ交わしただけの9着に終わり、ニュー・ベイも7着と前年より順位を落としてしまいました。

特筆すべきは1着から3着までを独占したエイダン・オブライエン厩舎で、師自身が夢にも考えなかったという快挙。オブライエン師は2007年のディラン・トーマス Dylan Thomas に続く2度目の凱旋門賞です。オブライエン厩舎は、これが今シーズン18勝目のGⅠ戦制覇というから驚き。今回は主戦のファウンドがライアン・ムーア、ハイランド・リールにはシーミー・へファーナン、そしてオーダー・オブ・セント・ジョージには直前で契約したランフランコ・デットーリが騎乗していましたが、三人三様の見事なレース捌きが光りましたネ。
ムーア騎手は2010年のワークフォース Workforce に続く2度目の凱旋門賞制覇。更にガリレオ Galileo 産駒が1着から3着までを独占したのも「事件」で、これまでガリレオ産駒は何故か凱旋門賞に勝てていませんでしたが、今回の総なめで一気に鬱憤を晴らした印象です。
今期2戦目にムーアスブリッジ・ステークス(GⅢ)に勝った後、5戦連続(トトソルズ・ゴールド・カップ、コロネーション・カップ、プリンス・オブ・ウェールズ・ステークス、ヨークシャー・オークス、愛チャンピオン・ステークス)でGⅠ戦の2着が続いたファウンド、GⅠレースは2歳時のマルセル・ブーサック賞、去年のBCターフ(ゴールデン・ホーンを破って)に続く3勝目となりました。去年もGⅠ戦は4回2着、凱旋門賞は9着に敗れていましたが、見事な雪辱戦でもありました。今年のブリーダーズ・カップ(ターフ)には6対4のオッズが出されています。タフの権化とも言えそうなファウンドですから、2週後のチャンピオン・ステークスでも去年の雪辱が見られるかも。

今年の凱旋門賞も終わりましたが、未だ帰っちゃいけませんよ。テレビのスイッチも切っちゃいけません、未だGⅠ戦は突きます。この日5つ目のGⅠ戦はアベイ・ド・ロンシャン賞 Prix de l’Abbaye de Longchamp (GⅠ、2歳上、1000メートル)。ロンシャンでは特別な直線コースが備わっていますが、シャンティーはどうでしたっけ。今年も17頭と頭数が揃い、ナンソープ・ステークス(GⅠ)2連覇の英国馬(マイケル・ダッズ厩舎)メッカズ・エンジェル Mecca’s Angel が17対10の1番人気。ここまで1番人気の馬は全て敗れていますが、ここはどうでしょうか。
2番人気(23対5)に推されたジャスト・グラマラス Just Glamorous が逃げ、先行したメッカズ・エンジェルが残り300メートルでこれを捉え、遂に本命馬が勝つかと見えましたが、中団で待機していた9番人気(234対10)の伏兵マーシャ Marsha が残り75ヤードで先頭を奪い、後方から追い込む5番人気(11対1)のワシントン・ディーシー Washington Dc に4分の3馬身を付けてまたもや波乱。最後で差されたメッカズ・エンジェルは、短頭差の3着に終わりました。英国の本命馬もこれで3連敗。

勝ったマーシャは英国サー・マーク・プレスコット厩舎、ルーク・モリス騎乗の3歳馬で、エアとヨークのリステッド戦に2連勝した後、キング・ジョージ・ステークス(GⅡ)で5着、前走プティ・クーヴェール賞(GⅢ)で今回逃げたジャスト・グラマラスの2着でした。プレスコット師は、6年前にフーレー Hooray でチーヴリー・パーク・ステークスを制して以来のGⅠ勝利ですし、モリス騎手にとっても2010年にギルト・エッジ・ガール Gilt Edge Girl でアベイに勝って以来のGⅠ制覇となります。

凱旋門賞フェスティヴァルの最後を飾るのが、フォレ賞 Prix de la Foret (GⅠ、3歳上、1400メートル)。ここは1頭の取り消しが出て11頭立て。又しても英国からの遠征馬リマート Limato が4対5の1番人気に推されています。ここまで負け続けた本命馬、最後こそはと見る方も期待が募ります。
7番人気(25対1)のカラール karar が逃げ、先行したリマートは2ハロン地点から先頭。今度こそは後続から追い上げる馬も見当たらず、逃げたカラールに3馬身差を付けて漸く本命馬が期待に応えました。勝馬と同時にスパートした6番人気(10対1)のスードア Suedois が半馬身差の3着。

ヘンリー・キャンディー厩舎、ハリー・ベントリー騎乗のリマートは、去年のフォレ賞2着の4歳せん馬。前々走のジュライ・カップに次いで二つ目のGⅠ制覇で、G戦そのものも4勝目となります。去年はイーヴンの1番人気に支持されながら、メイク・ビリーヴ Make Believe の大駆けにあっての敗戦でした。
BCターフ・スプリントのオッズはレース前の5対2から6対4へと上昇。BCマイルに向かう可能性もあり、こちらは6対1のオッズが提示されています。
ところで馬名のリマート、オーナーは妻リンダ Linda 、両親のマージョリー Marjorie とトム Tom の頭文字を合成して「Li-Ma-to」と名付けたのだそうで、今回初めて知りました。

 

 

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