2016菊花賞馬のプロフィール

今回は今年最後の血統プロフィール・コーナー、仏セントレジャーと同じ日に行われた菊花賞馬のプロフィールです。フランス版菊花賞に3歳馬が1頭も参加しなかったのに対し、日本のセントレジャーは18頭も参戦する盛況。最早長距離クラシックの伝統を守り続けているのは本場イギリスと日本だけになってしまいました。
さて今年の菊花賞、レース後は「初制覇」の見出しが多数踊っていました。曰く、オーナー里見治氏にとってGⅠ初制覇、ルメール騎手も日本のクラシック初制覇、そしてディープインパクト産駒も菊花賞初制覇、という具合です。今回は「初制覇」というキーワードも考慮しながら菊花賞馬のプロフィールをウォッチングして行きましょう。

今年の菊花賞馬はサトノダイヤモンド、父ディープインパクト、母マルペンサ Malpensa 、母の父オーペン Orpen という血統です。最初にお断りしておきますが、この牝系は5代に亘ってアルゼンチンで育まれてきたファミリーで、様々な点で情報入手が困難であること。調査できた範囲内でのレポートとなることを予め承知しておいてください。
アルゼンチン牝系と言えば、ダービー馬マカヒキの血統プロフィールでも紹介しました。もちろんマカヒキとは異なるファミリーですが、アルゼンチンの競馬についてはその時かなり詳しく紹介した積りですから、そちらも併せてお読み頂ければ幸甚です。

ということで本題に入りましょう。先ず母マルペンサ(2006年 鹿毛)についてですが、実はレーシング・ポストに掲載された2010年12月の記事に彼女に関するレポートがありましたので、こちらをご覧あれ↓ 右上 Archive の二つ目をクリックして下さい

http://www.racingpost.com/horses/horse_home.sd?horse_id=751340#topHorseTabs=horse_stories&bottomHorseTabs=horse_form

マルペンサはアルゼンチンのサンタ・イネス牧場が生産し、フアン・ウダオンド Juan Udaondo 師が調教、主にエイドリアン・ジャネッティ Adrian Giannetti というジョッキーが騎乗していました。2歳、3歳と続けてGⅠ戦に出走していましたが、何れも2着か3着に終わっています。
上記の記事が掲載されたのは、2010年12月にサン・イシドロ競馬場で行われた第30回グラン・プレミオ・コーパ・デ・プラータ(芝の2000メートル)に勝ってGⅠ戦を「初制覇」した時のレポートで、ここで勝つまで彼女は8連敗、特にGⅠ戦ではアルゼンチン1000ギニーも含め5回も2着に終わっていたと書かれています。皐月賞3着、ダービー2着と惜敗し、最後に菊花賞を制したサトノダイヤモンドとイメージが重なってしまうのは私だけでしょうか。
彼女はこの時点で14戦3勝、コーパ・デ・プラータではアルゼンチン1000ギニーとアルゼンチン・オークス2冠馬のキャッチ・ザ・マッド Catch the Mad 、GⅠ戦5勝のオラグア Ollagua を破って優勝したと紹介されています。

この記事では南半球の凱旋門賞と呼ばれるグラン・プレミオ・カルロス・ペレグリニ(GⅠ)に参戦予定と書かれていますが、実際には回避し、2011年に4戦を重ねました。即ち、
3月5日にパレルモ(この競馬場はダート・コース)でプレミオ・クラシコ・アルトゥーロ・R・Y・アルトゥーロ・ブルリッチ(GⅡ、3歳上牝、2000メートル)2着。4月2日にはパレルモのグラン・プレミオ・ヒルベルト・レレーナ(GⅠ、3歳上牝、2000メートル)に優勝。5月1日にも同じパレルモでグラン・プレミオ・クリアドレス(GⅠ、3歳上牝、2000メートル)に勝ってGⅠ戦2連勝。そして6月25日、最後のレースとしてサン・イシドロ競馬場のグラン・プレミオ・エストレラス・ディスタッフ(芝GⅠ、3歳上牝、2000メートル)に臨んで3着でした。
通算成績は18戦5勝2着8回3着2回となり、着外は3回のみということになります。勝ったGⅠ戦は3鞍で、芝が1レース、ダートで2レース。ヒルベルト・レレーナもクリアドレスも、前年は2着からの雪辱戦でした。

話題として面白いのは、ヒルベルト・レレーナはマカヒキの2代母リアル・ナンバー Real Number も勝っていることでしょう。歴代の勝馬2頭が日本に関係しているとは、わが国ももっとアルゼンチン競馬について関心を深めて良いのではと考えてしまいました。

2011年の6月一杯で現役を終えたマルペンサは、その年の内に日本に輸出されます。明けて2013年春、最初にディープインパクトに配合して生まれたのがサトノダイヤモンドでした。
マルペンサは翌年、ステイゴールドとの間にリナーテという牝馬を設けます。彼女は京都で新馬勝ちし、来年のクラシックを目指す1頭になるのは間違いないでしょう。そのあとはオルフェーヴルの牝馬、再びディープインパクトの牡馬を生みましたが、残念ながら4頭目の産駒を生んだ後に結腸捻転のために死去してします。未だ10歳の若さでした。

次に進む前に、マルペンサの父オーペン(1996年 鹿毛 父ルアー Lure)について簡単に触れておきましょう。世界に冠たるノーザン・ダンサー Northern Dancer 系の馬で、2代父は短距離馬ダンジグ Danzig 。ために競走成績もスプリンターの宿命で、2歳時にモルニー賞(GⅠ)に勝って2歳チャンピオンになりましたが、翌年は英2000ギニーで16頭立て15着。愛2000ギニーは3着でしたが、タイトルは2歳チャンピオンという肩書だけでした。
アルゼンチンで種牡馬になってからは大活躍、GⅠ勝馬は18頭を数え、ヨーロッパでも2頭、豪州でも1頭を出した他、アルゼンチンのGⅠ馬は15頭に及びます。産駒の距離適性はヴァラエティーに富んでいますが、やはり短距離系が多いのが特徴。父しては、マルペンサが代表するように父以上に距離を克服するタイプも出ている、ということになるでしょう。

牝系を続けますが、2代母から5代母までは全てアルゼンチン産馬のため、必ずしもパーフェクトな競走成績・繁殖成績が伝わっていません。若干駆け足になることをお断りしておきます。
2代母マルセラ Marsella (1997年 黒鹿毛 父サザン・ヘイロー Southern Halo)は、競走馬としては1戦のみで未勝利。マルペンサの前に3頭の仔があり、初産駒のミラッツォ Milazzo は南アフリカで走り、彼の地のGⅢ戦で3着したことがあるそうです。
3番目のマルシリエーズ Marsigliese という牝馬は4勝。G戦ではクラシコ・ディエゴ・ホワイト(GⅢ)に勝ち、GⅡ戦での2着もある由。母としても勝馬を出しています。
マルペンサの後は5頭の産駒が記載されていますが、何れもさしたる競走成績はありません。実際にそうなのか、資料が入っていないのかは分かりません。

3代母リヴィエーレ Riviere (1978年 栗毛 父ロジカル Logical)はアルゼンチンで5勝したそうで、マルセラの他に代表産駒を生年順に挙げると、
リッツ Ritz (牡)はウルグァイでG戦2鞍を含めて3勝、GⅠ戦でも2・3・4着が一度づつあるそうな。
シャルロッテ・アマリー Charlotte Amalie (牝)は2勝、GⅢで3着。
カリアーリ Cagliari (牡)は1勝馬(リステッド戦)ながらGⅠのブエノス・アイレス大賞典で3着。
ラ・コスタ・アズル La Costa Azul (牝)はアルゼンチン1000ギニー(グラン・プレミオ・ポージャ・ド・ポトランカス、GⅠ)に勝ったレッキとしたクラシック馬で、他にGⅢ戦も含めて3勝。その仔ラック・アズア Lac Azur もグラン・クリテリウム(GⅠ)に勝ち、アルゼンチン2000ギニーとアルゼンチン・ダービーで共に3着した強豪です。

以上が3代母の主なプロフィールですが、馴染みの無い名前を列記していても飽きてしまいます。先を急ぎましょう。
4代母タロナーダ Talonada (1958年 栗毛 父タタン Tatan)からは2頭のG戦勝馬が出ており、1頭は牝馬のロイヤル・アーク Royal Arc で、クラシコ・ヴェネズエラ(GⅡ)の勝馬。もう1頭がタンボリン Tamborin という牡馬で、クラシコ・ハポン(GⅢ、即ち日本賞)に勝ったというのが面白い所でしょう。

5代母はラヴァナ Ravana (1940年 鹿毛 父ラスタム・パシャ Rustom Pasha)といい、この辺りからは記録が怪しくなります。
そして6代母に当たるロイヤル・アーチ Royal Arch という1924年生まれの英国産牝馬が、1927年にフランスからアルゼンチンに輸出され、遠くサトノダイヤモンドの祖となったのでした。

このファミリーは、世代を更に遡り、サトノダイヤモンドの10代母ワスプ Wasp にまで辿り着かなければ、ヨーロッパやアメリカのGⅠ級の馬が出てきません。ワスプの産駒パンクティリオ Punctilio がチーヴリー・パーク・ステークスに勝ち、その仔コレット・モンテ Collet Monte がヨークシャー・オークスに勝っていますが、何れも20世紀初頭のことで、これ以後の活躍馬は見当たりません。
ワスプの母ビジーボディー Busybody (1881年)は英1000ギニーと英オークスの二冠を制し、クイーン・ベルタが1号族から「w」の分岐記号を得た因を成したのでした。
ワスプの更に3代母、即ちサトノダイヤモンドから13代遡ったクイーン・ベルタ Queen Bertha こそがこの牝系、1-w の基礎牝馬で、1860年の英オークス馬でもあります。

「初制覇」という視点をもう一度思い出すと、実はクイーン・ベルタ系には日本のクラシックに関してもう一つの「初制覇」がありました。それは、
クイーン・ベルタには今日まで伝わる4頭の重要な娘がありました。①ヨークシャー・オークスの勝馬ゲルトルード Gertrude ②ブランシュ・フルール Blanche Fleure ③スピナウェイ Spinaway ④1000ギニー、オークス、ヨークシャー・オークスのホイール・オブ・フォーチュン Wheel of Fortune 。

これらの子孫が日本でもクラシック馬を生み、これまでの成果を列記すると、
①からはトウショウボーイ(皐月賞)
②からはフレーモア(ダービー)、アステリモア(オークス)、ヒデヒカリ(皐月賞)、ナリタタイシン(皐月賞)、ケイキロク(オークス)、インターグロリア(桜花賞)
が出ていました。つまり最後の一冠・菊花賞だけは未知の領域だったわけ。それが今年、③から分岐したサトノダイヤモンドによって完成され、見事クイーン・ベルタ系の菊花賞「初制覇」、五冠達成に繋がったのです。

母の成績から説き起こしましたが、サトノダイヤモンドは来年、凱旋門賞に挑戦するとか。しかしファミリー・ヒストリーを思えば、フランスの凱旋門賞ではなく、南半球の凱旋門賞・カルロス・ペレグリニ大賞典に参加してこそ、より絵になる競馬シーンが見られるのではないでしょうか。
母が果たせなかったペレグリニの夢を、その遺児が叶える。日亜友好のためには絶好の切り札ではありませんか。

 

 

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