サルビアホール 第69回クァルテット・シリーズ
鶴見サルビアのクァルテット・シリーズ、シーズン21の2回目は、チェコを代表する世界的名クァルテット、プラジャークQ。2012年5月(第12回)、2014年6月(第33回)に続く3回目のサルビア登場です。毎回通好みのプログラムで臨む彼ら、今回は次の作品を持ってきました。
ハイドン/弦楽四重奏曲第66(81)番ト長調作品77-1
ブルックナー/弦楽四重奏曲ハ短調
~休憩~
ブラームス/弦楽五重奏曲第1番ト長調作品111
プラジャーク・クァルテット Prazak Quartet
ヴィオラ/山碕智子
2年半振りのサルビア、今回はロータスQのヴィオリスト山碕をゲストに加え、ブラームスの五重奏という捻りも利かせています。
11月末の札幌から始まった今年のツアー、首都圏は鶴見、晴海、吉祥寺に鵠沼と転戦し、京都で締める予定の由。ツアーを通して山碕も同行し、吉祥寺(だったかな)ではモーツァルトの弦楽五重奏全曲を2回に分け、一日で演奏してしまうというファン泣かせの会もあるようです。そちらを心待ちにしている聴き手も多いことでしょう。
ところで前2回と異なり、今回はファーストが若い女性奏者ヤナ・ヴォナシュコーヴァ Jana Vonaskova に替わっていたのも注目点の一つ。これまではパヴェル・ヒューラでしたが、2015年から正式に交替したようで、現在の彼らのホームページも以下のように刷新されていました。
クァルテットは活動歴が長くなるとメンバーの交代は致し方のない所で、確かファーストは3人目と聞いています。先代のヒューラは2010年からでしたから、5年間での交代。セカンドとヴィオラは創設メンバーの儘で、チェロが2代目ということでしょう。改めてセカンド以下のメンバーを記しておくと、
セカンドはヴラスティミル・ホレク Vlastimil Holek 、ヴィオラがヨセフ・クルソニュ Josef Kluson 、チェロが2代目のミハル・カニュカ Michal Kanka で、カニュカはソリストとしても何度も来日している名物男ですよね。来年4月にもリサイタルが予定されています。
新メンバーのヤナは、ホームページによると9年間スメタナ・トリオで弾いていた傑出した奏者で、なるほど今回接してみて、その存在感の大きさは早くもプラジャークの顔といった印象。パワフルで音楽のツボをしっかり押さえたテクニシャン、冒頭のハイドンから見事なアンサンブルを聴かせてくれました。
作品77-1はつい先日、我がクァルテット・エクセルシオでも聴いたばかりですが、ブラジャークの速目のテンポで突き進むハイドン、その推進力は半端じゃありません。
それでいて、例えばメヌエット(実質的にはスケルツォ)楽章の54小節目、主題回帰直前でほんの僅かにフェイントを掛けるヤナの仕掛けにも舌を巻きます。彼女のヴァイオリンを聴いていると、“ファーストはテクニック的に大変”という感じは全くしません。4つの楽器が完全に一つになっている。
この感じは、恐らく他の団体以上に4人の位置が近く設定されていることからも聴き取れるのかもしれません。
冒頭のハイドンは、老巨匠晩年の作でしたが、続くブルックナーは作曲者が未だ交響曲に手を染めていなかった頃の若書き。そもそもブルックナーにクァルテットがあったの? というほど演奏機会の少ない作品で、私も初めてナマで聴きました。
別で調べた資料によると、公式の場で演奏された記録が残っているのは、何と1951年のケッケルトQが最も古いそうで、当時はスコアもなく、ケッケルトは演奏譜を手製するところから始めたということになっています。世界初録音は、そのケッケルトがDGに録れたもの。
プラジャークがどのように仕上げたかは知りませんが、遠目に見るパート譜には手書きのメモがギッシリと書き込まれていました。ホームページにある彼らのレパートリーにも上がっていないことから、ヤナが持ち込んだ新レパートリーかもしれませんね。(確認していませんから信用しないように・・・)
ブルックナーというと長大な音楽を連想しますが、クァルテットは常識的な長さ。というより、第3・4楽章はむしろ短めな一品。後の交響曲というより、シューベルトを連想させます。特に第3楽章スケルツォのトリオ部はメロディーが素敵で印象的。
印象的と言えば、リハーサルで何かあったのでしょうか、ヤナが思い出し笑いを必死で堪えながら演奏している様子。小さい空間のサルビアならではで、大ホールでは味わえないアット・ホームな印象を受けました。
ところでブルックナーとシューベルトには、共通項がありますネ。それはウィーン音楽院の教授だったジーモン・ゼヒター Simon Sechter (1788-1867) のことで、若きブルックナーを教えた理論家。
そのゼヒターの元に、何と死の年にシューベルトがフーガの技法について学ぶために門をたたいたということで、レッスンは一度だけだったそうですが、シューベルトとブルックナーは27歳違いの兄弟弟子ということになります。二人がゼヒター先生に面会した時期にも27年の開きがあったというから、奇縁としか言いようがありません。
別に同門だからという訳ではありませんが、二人の間には何となく共通点があるように感じられますがどうでしょうか。二人の女性感なども。
後半は山碕も加わるブラームス。第2弦楽五重奏をナマで聴くのは、個人的にはヘンシェル/澤のコンビ以来でしょうか。中央にカニュカがデンと座り、左にヴァイオリン2本、右にヴィオラ2本という設定はステレオ効果満点。サルビアホールも唸りに唸り、この天下の名曲に酔い痴れました。
曲目解説にもあったように、ブラームスはこの作品で引退を考えていたほど。この日のハイドン・ブルックナー・ブラームスというプログラミングは、書かれた時期を考えれば、やはり通好みの凝った選曲と見るべき。
次回のプラジャーク、どんな作品を持ってきてくれるか、楽しみに待ちましょう。オッと、その前、私共は鵠沼でもモーツァルト、ベートーヴェン、ドヴォルザークという名曲プロも聴く予定。更に間近で聴くプラジャークはどんな息遣いを聴かせてくれるでしょうか。
最後は5人が揃ってのアンコール。曲目を誰が告げるかで譲り合いがありましたが(笑)、ヴィオラのヨセフが“僕は日本語喋れないから”ということで山碕氏が代表して、“モーツァルトのベードゥア、ケッヘルいちななよん、からメヌエット”が演奏されました。全曲は吉祥寺で聴けます。
帰宅の途次、家内に“プラジャークってどんな意味”と聞かれて絶句。帰ってから調べると、初代のチェリストがヨゼフ・プラジャークという方で、その父親で同姓同名のヨゼフ・プラジャークがプラハ音楽院の名教授だったそうな。そのパパ・プラジャークに貰ったのが団体の名前なのだそうです。一つ知識が増えました。
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