第358回・鵠沼サロンコンサート
師走、久し振りに鵠沼に出掛けました。この秋も聴きたい会が目白押しでしたが、生憎日程が重なっていたため、今年5月以来のサロン参加です。
12月例会は、4日前に前に鶴見で感心したプラジャーク・クァルテットに再会。鵠沼には珍しく有名曲の豪華三本立てというプログラムとなりました。
モーツァルト/弦楽四重奏曲第20番ニ長調K499「ホフマイスター」
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第10番変ホ長調作品74「ハープ」
~休憩~
ドヴォルザーク/弦楽四重奏曲第12番へ長調作品96「アメリカ」
この日は北風が強く、交通機関の足も心配だったため早目に鵠沼海岸着。会場のレスプリ・フランセに到着した時は未だリハーサルの途中で、それでも何人かが開場待ちをしている状態。やはり著名団体による名曲とあって出足は好調のようです。
鵠沼は限定60席を謳っていますが、今回は間違いなく満席。確認はしませんでしたが、予定数を越える申し込みがあったのじゃないでしょうか。
プラジャークQの4人については、2日のコンサートでも触れましたので省略。平井プロデューサーによると、鵠沼も3回目か4回目ということで、チェロのカニュカ氏はここで二度も単独リサイタルを行っており、本人曰く“ここはホームグラウンド”と断言しているそうな。(私も去年の6月に楽しみました)
今回も登場するや、客席の顔を一人ひとり確認するような様子で、演奏会最後のカーテンコールでも一人前面に進み、まるで「ミハルと仲間たち」と思わせるようなパフォーマンス。アットホームでお茶目な人柄が出ていましたね。
サロンの弦楽四重奏は「世界のクァルテット」シリーズの58回目だそうで、何度も登場しているプラジャークは演奏曲目も膨らみ、極力超名曲を避ける方針のサロンとしても、遂にアメリカが取り上げられることに・・・。これは冒頭の平井挨拶の一節です。
続いて去年からファーストがヤナ・ヴォナシュコーヴァに替わったことも紹介。前任者パヴェル・ヒューラの体調が思わしくなくなってから何人かの名前が噂されていたようですが、最終的にはカニュカの強い引きによってヤナに決定。平井氏によれば、“プラジャークが生き返ったような”インパクトがある、と聴き手を刺激します。
その効果は既に鶴見で体験済み。サルビアより更に至近距離での演奏でも、彼女の技巧・パワー・音楽性に又もや圧倒されてしまいました。しかし彼女一人が飛び出すのではなく、トリオでの経験豊富であることから、アンサンブルの一員としての音楽づくりが真に適切。その上で、要所で決める華やかさが“生き返った”感を強めるのでしょう。
モーツァルトのホフマイスターは、モーツァルト円熟期の作品としては演奏機会の少ない作品。特に第2楽章を納得させるように演奏するのはかなり難しいと思いますが、この長大な楽章を集中して弾き切ったプラジャークは見事としか言いようがありません。
続けて演奏されたハープも、弛緩する箇所は皆無。特に第3楽章プレストのド迫力は手に汗握るスリリングな演奏で、これだけ間近で聴きながら弦特有の粗さが無く、楽器間のバランスも完璧。ホールの残響という利点が無い中で、集中体としてのクァルテットを聴かせる所が、流石に世界に冠たるプラジャークなのでしょう。
最後はアメリカ。なんだアメリカか、と言う勿れ。新生プラジャークで聴くアメリカは、何故これが名曲として揺るぎない地位を占めているかが判る納得の名演でした。通俗性を排した格調の高さ。
ファースト・ヤナは、ドヴォルザーク望郷の思いに共感するかのように、うっすらと目に涙を溜めている様子。汗を拭うフリをして、そっとハンカチを目にも当てていたヤナを見逃しませんゾ。これを見て私は、未だ東西冷戦時代に初来日したバイエルン響のアンコールで、クーベリックがスラヴ舞曲を目を涙で光らせながら指揮していたのと重ね合わせてしまいました。
鳴り止まぬ拍手に応えてアンコール。ヴィオラヨセフ・クルソニュの“ありがとう”の一言に続いて告げられた曲名は、やはりドヴォルザークから作品54のワルツ。
原曲は8曲から成るピアノ独奏用のワルツ集で、確かドヴォルザーク自身がこの中の第1曲と第4曲を弦楽四重奏様にアレンジしています。アンコールされたのは2曲目の第4番。この2曲は別の人が管弦楽用にもアレンジしていて、こちらはターリッヒが大好きで何度か録音していました。私はLP化された盤で良く聴いていたので、実に懐かしいアンコール。明るく楽しいワルツですが、思わず目頭が熱くなる一品です。
団体名を「ヤナ=プラジャーク・クァルテット」と改めても良いほどのプラジャーク。これが最後ということはあり得ず、次回もサルビアで、鵠沼で再会できる日を待ちましょう。
人いきれと演奏の熱気で暑い位のサロンを出ると、凛とした冷気が心地よい程。思わず頭を上げると、都内以上に澄んだ東の空にオリオン座がクッキリと見えていました。
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