第346回・鵠沼サロンコンサート

今年6月のミハル・カニュカ・チェロ演奏会に味を占めて、昨日は鵠沼でピアノ・トリオを聴いてきました。その時の感想文にも鵠沼室内音楽愛好会のホームページを紹介しましたが、今回のコンサートも正に「サロン・コンサート」に相応しい空間と雰囲気の中、最高に贅沢な室内楽を満喫した次第。
既に今回が第346回、1990年にスタートした同会が今年25周年を迎えていることに驚かされます。

私がこの回の噂を聞いたのは発足して間もない頃でしたが、当時は勤め人の身、とても23区内で6時まで拘束されている人間が7時に鵠沼に辿り着けるわけもなく、最初から諦めていたものでした。
それが漸く自由の身として釈放され、室内楽により惹かれる年齢にもなり、再び目が鵠沼に向いてきたというのが昨今の状況。ということでサロンでは全く新人として、初めて接したのがクーベリック・トリオの面々でした。昨日のプログラムは、

≪クーベリック・トリオ≫

ベートーヴェン/ピアノ三重奏曲第3番ハ短調 作品1-3
スーク/ピアノ三重奏曲ハ短調 作品2
     ~休憩~
ドヴォルザーク/ピアノ三重奏曲ホ短調 作品90「ドゥムキー」

極めて簡潔なプログラムを見ると、「ピアノ・トリオの世界8」と銘打たれています。早速ホームページのアーカイヴで検索すると、2002年のベルリン・フィルハーモニー・ピアノ・トリオでスタートしたシリーズのようで、クーベリック・トリオは今回が5回目の登場かと思われます。
ピアノ三重奏曲というジャンルは、各楽器のソナタを別にすれば、室内楽では弦楽四重奏の次に作品数に恵まれているでしょう。クァルテット全集のように多数の作品を書いた作曲家はほとんどないものの、ウイーンの古典派からロマン派まで有名な作曲家は必ず書いているし、いわゆる民族楽派の作曲家にも名曲が多い。シリーズ化するには都合の良いジャンルと言えそうです。

クーベリック・トリオの結成は1992年。鵠沼サロン・コンサートより2年若い団体ですが、1995年から加わったという石川静氏は日本を代表するソリストで、日本でもほとんど全てのオケと協奏曲を演奏してきた懐かしい存在。私も何処かでコンチェルトに接した筈です。
ピアノはウクライナ出身のクヴィータ・ビリンスカさん。11歳で協奏曲デビューしたという経歴の長い方で、現在は出身校であるプラハ芸術アカデミー教授でもあるそうな。
またチェロのカレル・フィアラ氏は、メンバーでは唯一のチェコ生まれ。もちろんソリストとしての活動歴も長く、昨夜拝見した風貌は、何処となくヤナーチェクを思い出させるもので、昔から知っていたような親しみある白髪が魅力的でした。

国籍はバラバラの3人ですが、共通点はプラハ芸術アカデミーで学んだこと。トリオ結成時は久し振りに里帰りした大指揮者ラファエル・クーベリックの人気が絶大で、マエストロの前で演奏し、感動したクーベリックが団名に使うことを快く許諾したとのこと。これは演奏会に先立って解説された平井氏の紹介です。
今回のプログラムはトリオの名作ドゥムキーをメインに、ベートーヴェンと、お国物?スークの珍しいトリオを並べたもの。私は久し振りにドゥムキーが聴きたかったのと、スーク作品をナマで聴けるチャンスに惹かれて参加を決めたのでした。

冒頭のベートーヴェン、第3番のハ短調が演奏されましたが、当初の発表も当日のプログラムも変ホ長調の第1番となっていました。手違いがあったのか、直前に急遽変更になったのか、いずれにしてもベートーヴェンの記念的な作品1からの1曲であることに違いはありません。
確か3番は、献呈者でもあるリヒノフスキー邸で初演された時に大先生のハイドンも聴きに来ていて、ベートーヴェンに3番だけは出版しない方が良い、とアドバイスしたと記憶しています。それを無視して出版したベートーヴェンの反骨精神が垣間見られる面白い作品。それにしてもハイドンはこの曲の何処が気に入らなかったのでしょうねェ~。

次はお目当てのスーク。確か15歳の時の作品で、実際には2年後に現在の3楽章に改訂(オリジナルは4楽章)したもの。スークにピアノ・トリオがあったのか、と言うほど一般には知られていないと思いますが、こういう作品を取り上げてくれるのが鵠沼ならではで、チェコ作品の紹介に情熱を注いでいるフィアラ氏の心意気でしょう。
スークはスメタナやドヴォルザークと違ってあまり民族色を出す作曲家ではありませんが、このトリオ、特に第2楽章は如何にもチェコの室内楽と言う趣があって、楽しく20分弱の合奏を楽しみました。因みに楽譜はペトルッチのサイトで器楽に見ることが出来ます。↓

http://javanese.imslp.info/files/imglnks/usimg/5/50/IMSLP35528-PMLP79745-Suk_op.02_Piano_Trio_Simr.pdf

休憩を挟んでメインは、もう一つのお目当てドゥムキー。これは理屈抜きに楽しい作品で、ソナタ形式が一切使われていないという珍しいトリオ。
今回は6楽章という解説でしたが、例えば手元にあるオイレンブルク版(初版ジムロックの複製でしょう)では5楽章となっていますし、クーベリック・トリオのエクストン盤のトラックも「5」に区切られています。最初の3楽章は続けて演奏されることもあって4楽章と言う解釈もあるようで、実際今回の演奏もビリンスカさんが先導する様にアタッカで続けていました。

ま、そんなことは音楽評論家に任せておいて、ここはドヴォルザークの美しい音楽に酔いましょう。ドヴォルザークは幸せな生涯を送った人で、幸せ過ぎて悲しい、という側面もあります。小難しい理論的な構築をせず、定刻運航の新幹線というより、ころころ変わる車窓の風景が楽しい江ノ電ローカル旅の醍醐味とでも言ったらよいか。
演奏が終わって、心晴れやかに楽しく帰路に着けるサロン・コンサートという感想でした。アンコールは最新録音盤にも収録されているメンデルスゾーンの第1番から、第2楽章のアンダンテ。これも素晴らしかったなぁ~!!

 

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