二期会公演「トスカ」

昨日は今年最初のオペラ観戦、二期会のトスカを堪能してきました。二期会と言えばドイツ物という印象ですが、これだけ見事なイタリア・オペラを見せ付けられてはレッテルの無意味さを思うばかり。
今回のトスカは二組が夫々2公演づつ、私が観たのは木下組の二日目でした。キャストは以下の陣容。

プッチーニ/歌劇「トスカ」
 トスカ/木下美穂子
 カヴァラドッシ/樋口達哉
 スカルピア/今井俊輔
 アンジェロッティ/長谷川寛
 堂守/米谷毅彦
 スポレッタ/坂本貴輝
 シャルローネ/増原英也
 看守/清水宏樹
 牧童/金子淳平
 合唱/二期会合唱団
 児童合唱/NHK東京児童合唱団
 管弦楽/東京都交響楽団
 指揮/ダニエーレ・ルスティオーニ
 演出/アレッサンドロ・タレヴィ

現代ではいくつかのオペラ・ハウスが提携して一つの舞台を作成するのが流れになっていて、今回のトスカはローマ歌劇場との提携公演。舞台装置や衣装もローマから運び込んでの舞台です。
更には1900年、世界初演時のデザイン画をもとにプッチーニが意図した舞台を再現したとのことで、正統も正統、これぞトスカ!! という理想的な公演とも呼べるもの。素晴らしい指揮者とオーケストラ、適材適所のキャスティングで、謳い文句に相応しい正真正銘のイタリア・オペラが繰り広げられました。
各幕とも実在する建物が舞台で、実にリアル。最終幕の聖アンジェロ城の屋上から見渡せる遠景が、夜明けとともに赤く色付く様など、舞台美術の美しさにも見惚れてしまいます。

私が初めてこの名作を見たのはテレビながら、伝説となっているイタリア歌劇団の公演。もちろんレナータ・テバルディの名唱・名演技が私にとってのスタンダードでしたが、今回は薄れゆく記憶を更新し、更なる光彩で塗り替える、正に決定版トスカと言ってよいでしょう。
予習する必要もない名作、ルスティオーニの振り下ろす第1音からオペラの世界に没入していきます。

そのルスティオーニの素晴らしいこと。冒頭のスカルピアのモチーフが小気味良く終止し、推進力溢れる音楽に乗って聖アンドレア・デッラ・ヴァッレ教会が眼前に立ち上がります。
今回の演出は妙な読み替えや深読みを排し、極めて伝統的(トラディショナル)な舞台。流行りのワーグナー演出の様に、見るものに違和感を催させないのが美点でしょう。変に勘繰らずに舞台上の演技に集中できるのでした。

3人の主役は、夫々に存在感充分。特にタイトルロールの木下は圧巻の存在で、その登場から客席を魅了します。
第2幕の絶唱 Vissi d’Arte, vissi d’Amore は、通常よりやや遅めのテンポで歌われたこともあり、真に入魂の一唱。聞く所によると、このテンポはルスティオーニが希望したとのことで、これに応えた木下の力量は世界に通ずるトスカと断言できます。歌の力のみで、聴く者の涙腺を緩くしてしまいました。

カヴァラドッシの樋口はこれまでダフネ(ロイキッポス)、オネーギン(レンスキー)、こうもり(アルフレード)、蝶々夫人(ピンカートン、前回のルスティオーニ指揮、木下との共演)などて好印象を得ていましたが、今回のカヴァラドッシの E lucevan le stelle では一皮剥けたように感動的な絶唱。これも恐らくルスティオーニが引き出したミラクルの一つかも知れません。
またスカルピアを歌う今井、不覚にも私は初めて聴いたと思いますが、体格も立派で如何にもスカルピアの貫禄十分。歌も見事で、更に悪人らしさが加われば第一級のスカルピアになること間違いなし。
主役が全て嵌り役という、中々体験できないトスカでした。

東京都響の力演も特筆もので、金管やティンパニが要所を引き締め、充実した響き。それでいて歌い手を圧することなく、弦も木管(樋口のアリアを引き立てたクラリネットの素晴らしかったこと!)も歌に美しく寄り添います。この辺りはルスティオーニのバランス感覚が秀逸であることの証明で、これからも二期会のイタリア部門を引っ張っていく貴重な存在となるでしょう。
このマエストロ(未だ33歳ですが、この呼称を使っても良いでしょう)、指揮以外のアピールも相当なもので、カーテン・コールでオケを讃える際、床を叩いてメンバーを起立させるアクションに、会場も大いに沸いていました。
一連のトスカ公演を終えたあと、ルスティオーニと都響はベルリオーズやレスピーギでオーケストラ作品も取り上げることになっています(2月26日)。残念ながら私は他公演と重なってしまうので聴くことはできませんが、ファンは是非都響定期も期待してください。

ところで、初めてのトスカを見事に演じ、歌い切った木下美穂子。これまで海外での活躍が中心でしたが、本人曰く、今年の秋から来年にかけては日本国内での大きな仕事が目白押しとか。
未だ公式に発表されていないので紹介する訳にはいきませんが、ビッグ・ニュースがズラリ。どうも東京だけに留まっていてはその恩恵には預かれないようで、頻繁に地方公演にも出掛けなければならないでしょう。

 

 

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