二期会公演「ナクソス島のアリアドネ」

今年3本目のオペラ体験でした。昨日の東京文化会館、二期会公演リヒャルト・シュトラウスの「ナクソス島のアリアドネ」です。
オペラは苦手、というよりもお金が無いのであまり沢山行けないだけですが、の私としては、今年は2月のワルキューレ、3月の薔薇の騎士に続いてのオペラです。こうして見ると、やっぱりドイツ・オペラにより惹かれている自分がありありと見えてきます。
二期会がアリアドネを取り上げるのは今回が3度目だそうです。最初は1971年3月の若杉弘・指揮と演出、2回目が2002年12月の新国立劇場との共同制作。この時はハンス=ペーター・レーマンの演出と児玉宏の指揮。私は2002年の公演も見ましたから、ナマ体験は今回が2度目という、ほとんど素人です。
6月28日の主なキャストは、アリアドネが佐々木典子、バッカスに高橋淳、ツェルビネッタが人気の幸田浩子、作曲家は谷口睦美という組でした。こちらを選んだのは単に土曜日しか余裕が無かったからで、別のキャストも聴きたかった、というのが本音です。
今回の演出は鵜山仁(うやま・ひとし)、指揮はラルフ・ワイケルトで、ピットには東京交響楽団が入りました。コンサートマスターはグレブ・ニキティン。
オペラですからいろいろバラツキが生ずるのは当然ですが、全体としてはとても楽しめました。
私は歌手の出来不出来を一々取り上げるのは好みませんが、今回はバッカスの高橋淳が素晴らしかったと思います。アリアドネは誰が主役なのか判然としないオペラのような気がしますが、今回はバッカスが主役ッ、という印象を持ってしまいました。
高橋淳はオルフのカルミナ・プラーナで衝撃を受けて以来、ずっと注目してきたテノール。どちらかと言うと個性派の脇役というイメージでしたが、いつぞやの皇帝ティトゥスといい今回のバッカスといい、堂々たる主役でも存在感を見せ付けてくれました。
一般的には大人気の幸田/ツェルビネッタにも喝采が集中していましたが、私には若干物足りなさも感じられました。
実は前回の新国立でも彼女のツェルビネッタを聴き、その見事な歌に聴き惚れたものです。あの時の主役はツェルビネッタッ、ていう感じでしたね。
しかし今回はそこまでの驚きはなく、むしろ声量をやや物足りなく思いましたし、もっと大切な色気の不足を感じてしまいました。
本来の主役、佐々木/アリアドネは流石の貫禄、というところで、プロローグでは大いに期待を持たせたのですが、肝心のオペラでは一定の安定したレヴェルではあるものの、やや存在感が弱いかな・・、と。
そのプロローグで断然光っていたのは、作曲家の谷口睦美。この人も先般の皇帝ティトゥスで「新発見」した人なんですが、順調に大舞台をこなしているようで、頼もしく思いました。
道化役者たちも夫々味があって楽しめました。ハルレキン/青戸知、スカラムッチョ/加茂下稔、トゥルファルデン/志村文彦、ブリゲッラ/中原雅彦という面々ですが、特にハルレキンの青戸知が秀逸。むしろツェルビネッタを喰ってしまう箇所もあったような・・・。
歌手に対する感想ばかりになりそうなので、この辺で止めます。他がつまらなかったというのではなく、全体にレヴェルが高く、極端なバラツキが無かったのも、大いに楽しめた要素でしょう。
指揮とオーケストラは手堅くまとめた、とでもしておきます。もう少し管楽器に楽器の個性を前面に出すような積極性が欲しいようにも感じましたが、それは指揮者の考えがあってのことなのでしょう。
演出はどことなくポップな感覚で、舞台と客席を跨ぐブリッジが一部ピットを覆っていたり、ミラーボールなどを中心にした照明が何となく安手なキャバレーを連想させたり、ナクソス島の背景が和風のシンプルな襖絵のようだったり、と、やや違和感を覚える部分もありましたが、音楽を邪魔するようなものではありません。と言って、特に演出家としての主張があるようにも思えませんでしたが、シュトラウスにはこれで十分だと思います。
笑えたのはバッカスの髪型。アニメに出てくるドラゴンボールみたいで、高橋キャラにはピッタリ(失礼!)。私一人で受けてました。ブラヴォ!!
それにしても「ナクソス島のアリアドネ」、何とも不思議なオペラじゃありませんか。悲劇と笑劇を一緒にやれ、と命じた館の主人は決して登場しないし、この試みが成功だったのか失敗だったのか、作曲家はこの成果をどう判断したのか、結論が語られるわけでもありませんしね。オペラの主旨として、全てを完璧に上演することを目標にして良いのか悪いのか・・・。
最終的には、その日の公演を聴きにきた聴衆が判断すべきですよ、と言っているのかいないのか。ウ~ン、何とも迷うオペラだなぁ。でもまた見たいよ、ネ。

 

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