第360回・鵠沼サロンコンサート

昨日は鵠沼サロンの例会。1月と2月は夜が寒く、比較的暖かいマチネーで、というのが会員の希望とのことでしたが、2月26日は陽射しも穏やかで温かく、ついつい陽気に誘われて鎌倉経由で鵠沼海岸に向かいます。
ところがフラフラと出掛けたのは私共ばかりではなく、何処も彼処も相当な人出。恐らく前々日がプレミアム・フライデー初日ということもあったのか、いくつかの交通機関では混雑のために遅れが出るほど。それとは別の理由だったそうですが、小田急も止まっていた時間帯があったようで、定刻からやや遅れての開演となりました。

2月はロータス・クァルテットのメンバー2人によるデュオ・リサイタル。二人が夫々別の理由による帰国中で、二人で出来る演奏会はないか、ということで決まった由。ヴァイオリンとチェロの二重奏というコンサートは意外に有りそうで無く、普段ナマでは聴く機会の少ない作品が並びます。

プレイエル/ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲第1番ハ長調B.501
プレイエル/ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲第3番へ長調B.503
マルティヌー/ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲第2番H.371
     ~休憩~
コダーイ/ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲作品7
 ヴァイオリン/小林幸子
 チェロ/斎藤千尋

当日手渡されたプログラムは以上の通りでしたが、当初予告されていたのとは大幅に変更されています。プレイエルは5番と6番の予定でしたし、マルティヌーも第1番と告知されていたはず。
コダーイだけは予告通りですが、実際に出掛けて見なければ何が演奏されるのか分からないのもサロンの魅力でしょうか。いつぞやは演奏が始まって初めて、プログラムとは別の曲だ、なんて事もありましたっけ。
平井プロデューサーの解説では、彼女たちはプレイエル曲集の6曲(作品16?)、マルティヌーも2曲あるデュオを全部弾いて見て、この選曲にしたそうな。

ところで、今回に先立ってサロンのホームページが一新されています。特に過去の演奏会の記録集が充実していて、サロン四半世紀の歴史が一望できる優れもの。今回の選曲にしても、過去にどのような演奏歴があったかを探し出すことができました。
作品リストは恰も室内楽辞典のようで、近30年弱の時代の流れ、それに伴う演奏傾向が見えるよう。ジックリと目を通す価値のあるホームページですぞ。これ↓

https://kugenumasalonconcert.jimdo.com/

上記サイトを参考にしながら今回の作品を聴き始めると、先ずプレイエルはどうやらサロン初登場の作曲家のようです。ピアノ製造家として名前が残っているプレイエルですが、ベートーヴェンより13年歳上の1757年に生まれ、亡くなったのはベートーヴェンより3年後の1831年。
つまりベートーヴェンの生涯がスッポリ収まってしまう一生でしたが、その経歴は波乱万丈。ハイドンの弟子からスタート、ナポリではオペラ作曲家として人気を博し、ストラスブールの大聖堂楽長を経て、政治に巻き込まれて失脚しそうになるのをロンドンに逃れて指揮者として大成功。
再びフランスのパリに戻って楽譜出版、ピアノ製造会社の設立を経験し、最後は大ホール(サル・プレイエル)の経営者を務めたという奇想天外。柴田南雄氏の「西洋音楽の歴史」によれば、38人の子供の第24子だったという話など、飲み会での話題にピッタリじゃありませんか。

そんなプレイエルですが、この日聴いたデュオは何れも2楽章から成るもので、その生涯とは違って如何にもノンビリとした音楽。どの楽章も特別速いわけでも、遅過ぎるのでもない。人の心拍数に近いテンポで奏でられるため、何時しか心地良い睡魔が襲ってくるような印象でした。
これを聴いていると、如何にベートーヴェンが斬新で、当時の人々には理解されなかったかが分かろうというもの。珍しいデュオですっかり肩の力が抜けます。

次のマルティヌー、というところで一騒動。チェロのパート譜が見当たらないということで、一旦斎藤チェロが譜面を探しに戻るというハプニングがありました。つい先日もこんな光景に出会ったような気がしますが、これもまたサロン特有の、奏者と聴き手の距離が近いことの表れでしょう。
第1番は一度、向山佳絵子とボアによって取り上げられたことがあるようですが、第2番は今回がサロン初登場でしょうか。プレイエルに比べれば遥かに現代的な響きで、これは寝てはいられません。
全体はアレグレット、アダージョ、ポコ・アレグロの3楽章。マルティヌーはチェコ人でありながらフランスで勉強した人で、ドイツ人でありながらフランスで活躍したプレイエルとは共通項があるのかもしれませんネ。

プログラムの後半は、コダーイの名曲。何とこの作品、私が数えただけでもサロンでは既に5回も取り上げられていて、この大作が5度も聴けたサロンというのは世界にも類がないと思われます。今回は200回ガラ以来14年振りの演奏。
鵠沼では「演奏家が取り上げたい曲を演奏してください」というのがポリシーになっているため、意欲的な作品の演奏回数が多くなるのでしょう。鵠沼の面目躍如といったところ。

今回の小林/斎藤デュオも実に細部まで良く磨き上げられた演奏で、これに更なる野性味が加われば鬼に金棒でしょう。ロータスQで培ったアンサンブル、二人の阿吽の呼吸が生んだ名演。

曲名が告げられないままアンコールが演奏されましたが、現代風にアレンジされたバロック音楽という趣の一品。演奏後に平井氏から「ヘンデルのパッサカリアをハルヴォルセンがアレンジしたもの」ということでした。
それで思い当たりましたが、実はこの作品も鵠沼では本編として少なくとも4回は演奏されていて、このジャンルでは良く聴かれる作品。本来はヴァイオリンとヴィオラのための曲だそうですが、最近ではチェロ版が主流なのだそうです。

帰宅してから調べたところによると、ハルヴォルセンが選んだヘンデルの原曲は組曲第7番ト短調HWV432から第6曲のパッサカリアで、これは真に短い小品。これはハルヴォルセンが作曲した「ヘンデルの主題によるパッサカリア」と呼んだ方が適切でしよう。
因みにペトルッチの無料楽譜サイトでは、ハルヴォルセンの項で検索出来、ヴィオラ版がダウンロードできます。チェロについては別に、チェロ・パートのみが閲覧・ダウンロード可能。
今回演奏されたプレイエル、マルティヌー、コダーイ、ハルヴォルセンは全てペトルッチに譜面がアップされているというのが有難いことで、予習よりは復習が楽しいサロン・コンサートでした。

 

 

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