二期会公演「こうもり」

昨日はお招きを戴いてオペラを楽しんできました。
この所オペラから遠ざかっていましたが、見れば楽しいし、聴けばそれなりの感想を抱いて家路につくものです。作品のこと、演奏のことに加えて、演出のことにも思いを馳せるのがオペラの楽しみでもありましょう。

ヨハン・シュトラウス/喜歌劇「こうもり」
 アイゼンシュタイン/萩原潤
 ロザリンデ/腰越満美
 フランク/泉良平
 オルロフスキー/林美智子
 アルフレード/樋口達哉
 ファルケ/大沼徹
 ブリント/畠山茂
 アデーレ/幸田浩子
 イダ/竹内そのか
 フロッシュ/櫻井章喜
  合唱/二期会合唱団
  管弦楽/東響都交響楽団
  指揮/大植英次
  演出/白井晃

本公演は二期会創立60周年を記念して東京二期会が開催するもので、都民芸術フェスティヴァル参加公演でもあります。オーストリア大使館とオーストリア政府観光局が後援しているのも特徴。
オペラ・ファンとしては指揮者・大植英次にも注目でしょう。バイロイトにも登場した英ちゃん、日本でピットに入るのは今回が初めとのことなのだそうです。

上野の文化会館大ホールに入ると、オケ・ピットがいやに目立つことに気が付きます。取り敢えずプログラムや荷物を指定の席に置いてピットを覗きこむと、どうやら通常のベースに木の床を重ねてオケの位置を高くしている様子。
私が頂いた席は1階13列のほぼ中央と言う絶好のポジションでしたが、この席はいつものオペラ公演ではオケの楽員の姿は見えず、辛うじて指揮者の頭が見えるだけ。それが今回は指揮者は全身が観察できるし、プレイヤーも一人一人の顔が確認できます。
お蔭で通常の管弦楽配置と違って、第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが入れ替わる、所謂オペラ式配置になっていることも判りました。プログラムには書かれていないコンサートマスターが山本友重氏であることも確認。
(正確なことは知りませんが、ヴァイオリンが逆転するのは、恐らく主旋律を受け持つことの多いファーストの音量がより大きく客席に届くためかと思われます)

ということで、黙っていても大植マエストロの派手なアクションが目に飛び込んできます。左手をグルグルと回したり、腰振りダンスを披露したりと。
プログラム掲載のエッセイ「指揮者・大植英次の魅力」(持丸直子)には、「ピットの姿はほぼ見えないだろうが」と書かれていましたが、これは大外れ。紹介文の通り「指揮台でダンスをするようにタクトを振る」っていましたね。
紹介いただいた知人は大植初体験だそうで、この春に東フィル定期に登場してキャンディードを指揮するのが大いに楽しみになったとか。いずれにしても東京で聴ける機会が増えてきそうなのは嬉しいことです。

さて大植のドライヴで序曲が佳境に達したころ、舞台上方の照明が客席に向けて点灯します。“眩しいなぁ”と思っていると、出演者の多くが客席から舞台に向かって歩を進めて来るではありませんか。これから行われる「こうもりの舞台」の始まり始まりぃ~~。

舞台装置は極めて簡素。最初は「チャチ」だなと直感しましたが、これは演出上の「作戦」なのでしょう。簡素ではなく劇画風にデフォルメした舞台と呼ぶべきか。見れば彼方此方に段ボールを切り抜いたかと思しき平板な人形が立ち並んでいます。そもそもがファルケが仕掛けた「こうもり博士の復讐劇」なんですから、客席も黙って劇に参加すればよいのです。

最初から予告されていたように、今回は「完全な」日本語上演。台詞はもちろんのこと、歌唱も全て日本語訳で歌われました。原語上演でなきゃ、という潔癖派には薦められませんが、日本語でも最初から全く違和感はありません。
因みに歌詞の訳詞は故・中山悌一氏のもの。“さーかずきを挙げろ、挙げろ”とか、“呑みほっせ、酒を”などという歌詞の文句は昔から馴染んできたもの。むしろ懐かしささえ覚えます。
また日本語台本は演出の白石の作。もちろん時宜に適したものではありますが、過激な要素は極力抑えられていました。

簡素な舞台、と紹介しましたが、第2幕では冒頭のロビーから、台車に乗った移動式舞台で食事を獲る広間に転換する仕掛け。ここには客席から拍手も起きていました。装置は松井るみ氏の担当。

第1幕と第2幕の間、第2幕と第3幕の間に休憩が入り、この日は午後6時半開演で、終演は10時丁度。第2幕のゲスト登場は無く、踊りのシーンが取り入れられます。
この場面もバレエ団が踊るのではなく、歌手たち自らが踊って見せるもの。豪華さは無い代わりに、如何にもアットホームなパーティーという微笑ましさを醸し出していました。

時に日本語が聴き取り難い個所、一部の歌手に声量不足を感ずるシーンもありましたが、公演全体は当初の目的であろう楽しさを充分に味わうことができます。
笑いも、慎ましいながらも決して不足することはありません。第3幕の監獄でアルフレードがテノールを張り上げると、看守が“監獄で歌うな! 歌うなら劇場でやれ、劇場で”と怒鳴りつけると、すかさず指揮台から大植英ちゃんが、“ここは劇場だぁ!”と援護射撃。

この日はダブル・キャストの所謂A組の初日で、歌手も粒揃い。特にファルケ博士の存在感と、アデーレの美声が大喝采を浴びていました。そして何より、活き活きと躍動的な大植マエストロのタクトにブラァヴォ!

カーテンコールの最後、合唱団の面々が登場時とは逆に客席に降りて舞台から離れていく演出も。文化会館のステージという「舞台」そのものが、ファルケの「復讐劇」の舞台と言う設定と思われます。
開場した時から拍手が鳴り止むまで、その全てがオペレッタの世界なのでしょう。あぁ~、面白かった。

最後に、休憩時間にはロビーの一角でチターの演奏がサービスされています。お名前は失念しましたが日本人チター奏者。実はチターの演奏家が最も充実しているのは、オーストリアを差し置いて日本なんですねェ~、知ってましたか?

もう一つ、同じくロビーではオーストリア観光局の美形ウィーン娘?たちが日本語版オーストリアの観光パンフレットを配っていました。皆が遠巻きに様子を窺う中、つかつかと進み出てパンフを貰い、美女に握手までしてもらうメリーウイロウって、年の功なんでしょうか。

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