2017クラシック馬のプロフィール(4)
前日に続いてフランスのギニー馬から、プール・デッセ・デ・プーラーンで鮮やかな差し切り勝ちを決めたブラムトー Brametot の血統観察です。
ブラムトーは父ラジサマン Rajsaman 、母モーニング・ライト Morning Light 、母の父ロウ・ソサエティー Law Society という血統。
仏2000ギニーのトライアルとなるフォンテンブロー賞(GⅢ)では出遅れて最後方からの競馬、直線で外に持ち出して末脚を爆発させた勝ち方。クラシックでも外を選んだ5頭の4番手を進み、最後は力で最内の馬をねじ伏せた勝ち方と言い、馬場が重かったこともあって、スピード馬というより力馬という印象でした。
これは血統からも連想できるのですが、その辺りを見て行きましょう。
その前に父ラジサマンについて簡潔に。
この馬はアガ・カーンがオーナー・ブリーダーだった芦毛馬で、ロワイヤー=デュプレ師が管理し、息子と同じようにフォンテンブロー賞に優勝。しかし仏2000ギニーでは15頭立ての10着と敗れ、アキにはアラブ系のオーナーに売却されてしまいます。
新しい環境、ヘッド師の管理下ではパース賞(GⅢ)、ミュゲ賞(GⅡ)、ダニエル・ウイルデンシュタイン賞(GⅡ)と1600メートルのG戦に3勝し、香港やドバイにも積極的に遠征しましたが、GⅠ戦では一息足りませんでした。最後はドバイに移籍して現役時代を終えています。
種牡馬としてはブラムトーが初年度産駒に当たり、これまでヨーロッパでG戦に勝った産駒はブラムトーが唯一。従ってクラシックもGⅠ戦も今年の仏2000ギニーが初制覇ということになります。
ここからは牝系に入りますが、このファミリーは長年ドイツで続いてきた系統で、何分にもドイツ競馬の記録は極く一部しか分かりません。あるいは重要な活躍馬が漏れているかもしれませんが、最初にそれをお断りしておきます。
ドイツの血統書の特徴は、ファミリーの基礎となった牝馬の馬名のアルファベットを継承していくというルールで、ブラムトーは母の名前の通り「M」ファミリーに属します。ブラムトーがMではないのは、海外に売却されてオーナーもドイツとは無関係だから。
ドイツでこの牝系がスタートしたのは、ブラムトーの6代母モーシェル Morchel からのことで、この馬は戦前、つまりナチス政権時代に英国から輸入された、ということになっています。
母モーニング・ライト(1997年 黒鹿毛)もドイツで調教、ドイツで走った馬で、ある資料では6戦2勝だったそうです。レーシングポスト電子版のデータによれば、ハノーヴァーの2400メートルGⅢで6着、ドルトムントで行われるドイツ・セントレジャー(GⅡ)は8頭立ての8着だったそうですから、ステイヤーと判断されていたことは間違いないでしょう。
2003年から繁殖に入ったようで、調べが付いた範囲内で産駒を列記すると、
2004年 モーニング・ライズ Morning Rise 黒鹿毛 牝 父アカテナンゴ Acatenango
2005年 モーニング・グローリー Morning Glory 青毛 牝 父ペンタイア Pentire 未出走?
2007年 ムラン Mulan 黒鹿毛 せん 父マージュ Marju ドイツで走り14戦2勝、勝鞍は共に2200メートル。オイロパ賞(GⅠ)で6着し、ノルウェーに売却
2008年 マウンテン・メロディー Mountain Melody 鹿毛 牝 父リフューズド・トゥー・ベンド Refused to Bend 3戦未勝利?
2009年 モンタナ Montana 栗毛 牝 父デザート・プリンス Desert Prince モロッコに輸出
2010年 モーニング・ミスト Morning Mist 栗毛 牝 父パントル・セレブル Peintre Celebre
2011年 ミス・クルーク Miss Kruk 黒鹿毛 牝 父ソルジャー・オブ・フォーチュン Soldier of Fortunes
2012年 トゥワイライト Twilight 鹿毛 せん 父シユーニ Siyouni フランスで走り、最後は障害レースにも出走
2013年 マスター・トーマス Master Thomas 鹿毛 牡 父タートル・ボウル Turtle Bowl フランスの現役ステイヤー
2014年 ブラムトー
一見して分かるように、全て異なる種牡馬に配合されています。生産者のポリシーなのか、生産者そのものが替わっているのかは不明。いずれにしても詳しい成績が不明なのは、多くがドイツで走っているからでしょう。
2012年のトゥワイライト辺りから「M」馬名でなくなるなるのは、もちろんオーナーが海外に替わっているからで、ブラムトーもその1頭。因みにブラムトーはフォンテンブロー賞まではジェラール・オーギュスタン=のルマンドというグループでしたが、クラシック1週前にアル・シャカブ・レーシングが購入し(全体ではなく、一部は前オーナーと共同)、仏2000ギニーではアル・シャカブの勝負服を着用していました。
ここからはドイツ血統ということで若干駆け足になります。
2代母モセラ Mosella (1985年 黒鹿毛 父スルム Surumu)は5戦1勝。勝鞍はドイツ・オークス・トライアル(リステッド、2100メートル)だそうです。
実はモセラ、イギリスやフランスの競馬関係者には有名な馬で、それは産駒にドイツを代表する名馬モンスン Monsun が出たからなのです。
日本でモンスンと言えば、今年の桜花賞で本命になったソウルスターリングの母スタチェリタ Stacelita の父という位しか思い浮かびませんが、ドイツではオイロパ賞(GⅠ、2400メートル)2連覇、アラル・ポカル(GⅠ、2400メートル)とGⅠ戦に3勝し、煩わしいので名前は挙げませんが、他にGⅡ・GⅢ戦に5勝。
何より種牡馬として大成功し、2000年、2002年、2004年、2006年と4度もドイツのリーディング・サイアーに輝いた名馬なのですね。
またモセラにはモーニング・ライトの半姉に当たるモーニング・クィーン Morning Queen という娘がいて、その孫に2012年のカドラン賞(GⅠ、4100メートル)の勝馬モーリー・マローン Molly Malone が出ています。
この時点で、ブラムトーの牝系には有り余るほどのスタミナが流れていることが理解できるでしょう。
3代母モナシア Monasia (1979年 鹿毛 父オーシ Authi)は4勝馬、4代母モナセンシア Monacensia (1969年 黒鹿毛 父カイゼルアドラー Kaiseradler)も4勝馬で、モナシアの半姉モナッキア Monacchia (この馬も4勝馬)の娘が、エイシンフラッシュの4代母に当たります。
エイシンフラッシュのプロフィールは、2010年の東京優駿勝馬のプロフィールとして既に拙ブログで取り上げましたから、こちらをご覧ください。
エイシンフラッシュとブラムトー、共同の祖先となるモナセンシアの母がモテット Motette (1960年 鹿毛 父ブルゲフ Burgeff)で、その母が戦前、ドイツに輸入されたモーシェルということになります。
ファミリー・ナンバーは8-a。1757年生まれのレグルス・メア Regulus Mare を基礎とする牝系です。
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