日本フィル・第602回東京定期演奏会

日本フィルの2007-2008シーズン最後の定期を聴いてきました。今回は金・土の両日に通いましたので、こういう内容。
日本フィルハーモニー交響楽団第602回東京定期演奏会
2008年7月11日(金)・12日(土) サントリーホール
武満徹/3つの映画音楽
プロコフィエフ/ヴァイオリン協奏曲第2番
     ~休憩~
ショスタコーヴィチ/交響曲第12番「1917年」
 指揮/広上淳一
 ヴァイオリン/ボリス・ベルキン
 コンサートマスター/扇谷泰朋
 フォアシュピーラー/江口有香
7月の日本フィルは広上月間、その白眉がこれです。武満作品もショスタコーヴィチ作品も、日本フィル定期への登場は初めて。機会があるなら是非に、ということで2回とも出掛けたわけです。土曜は会員席、金曜は一回券で。1回券は2階LBを選びました。
演奏される曲はもちろん同じですが、演奏は微妙に違いがありましたね。それぞれに特徴がありましたが、一言で表現すれば、金曜日は一発勝負型、土曜日はより高い完成度、ということになりましょうか。
金曜日はウィークデイということもあり、空席もかなり目立ちましたが、土曜日はよく入っていました。前売り窓口にもかなり長い列ができていましたから、怖いもの見たさに参集したファンも多かったようです。
武満の3つの映画音楽。弦楽オーケストラのために纏められた作品です。「ホゼー・トレス」というボクサーを扱ったドキュメント映画からの一品は、訓練と休息の音楽と題された極めてジャッズィー Jazzy な作品。コントラバスのピチカートが耳に残ります。
「黒い雨」からの葬送の音楽は3曲の中では最もシリアスな内容で、武満の代表作であり出世作でもある弦楽のためのレクィエムと同質の世界観を持っています。
最後は「他人の顔」からワルツ。エッ、これが武満! という様なレトロな雰囲気を湛えたワルツで、思わず身体が揺れてしまうのを押さえるのに苦労します。
こういう作品を指揮させたら、恐らく広上の右に出る人はいないでしょう。踊るような指揮と、深い溜息で武満の核心に迫ります。二度も聴いてしまうと、ワルツなどは頭から離れなくなってしまいそう。
作曲も指揮も、天才の一筆、珠玉の名画としか言い様がない。
プロコフィエフを弾くベルキン。前回のショスタコーヴィチとは違った味わいで、やはり円熟と呼ぶべきでしょうね。第3楽章の至難な技巧も、彼の手にかかると簡単なエチュードのように聴こえてしまうのが不思議。
オーケストラは弦楽器をかなり少なくし、5-4-3-3-2という変則的な構成で臨みます。打楽器もいろいろ活躍しますが、ティンパニが使われないのも変わったところですね。
その結果ベルキンと広上は、極めて室内楽的なアプローチによって緻密な合奏を紡ぎます。
冒頭のソロの、美しい音色と極めてエスプレッシーヴォな表現からして聴き手の心をグイと掴みます。広上のバックは変幻自在、最初から最後までベルキンと丁々発止、協奏曲の醍醐味を堪能させてもらいました。
しかし何と言ってもショスタコーヴィチでしょう。第12番という交響曲は、これまで「愚作」という評価を与えられることが多かったようです。実際に私の所有しているCDは聴き通すのが辛いほどに退屈ですから(ハイティンク盤)。
それが広上の手にかかると、作品は単に面白さを取り戻すだけでなく、ショスタコーヴィチが篭めたであろう謎や暗示が黒々と現出し、一瞬の緩みもない緊迫感で聴き手を虜にしてしまうのです。
第1楽章のクライマックスにおける5拍子の連続による大音響は、広上の絶好調を表すように、3段ギアーで頂点に上り詰める。そのスリル!!
第2楽章の「ラズリーフ」は、凡庸な指揮で聴けば退屈の極みに陥る楽章ですが、今回の緊迫した演奏では息をするのも憚られるほど。実際、ホールは恐ろしいほどの静寂に包まれていました。
マエストロサロンで広上淳一がズバリ指摘していたように、ショスタコーヴィチほどの作曲家になると、「駄作」はないのです。
日本フィルも極めて高いレヴェルの演奏を二日間に亘って披露してくれました。
これもマエストロサロンでの述懐を引用すれば、“良い演奏をした時には指揮者だけが賞賛されます。逆にミスが出たりすると全てオーケストラの所為にされてしまう”。
ショスタコーヴィチは、指揮者にとっても難所の連続です。広上と日本フィルは見事にウルトラC級のワザを連発し、ショスタコーヴィチに与えれた汚名を完璧に雪いで見せたのでした。
尚、プログラムには、ベルキンの使用楽器はボローニャのロベルト・レガッツィという紹介がありましたが、実際はグァダニーニ Guadanini とのこと。こういうことはキチンと調べて記載して欲しいものです。

 

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